「ナイロン(NYLON)」や「シアン(CYAN)」を発行するカエルムが28日、女優・安達祐実(以下、安達)にフォーカスを当てたパーソナルマガジン「ホーム(home)」を発売した。誌面には夫・桑島智輝も参加した70ページ超のポートレートに加えて、10時間・10万字におよぶ超ロングインタビューを掲載。安達祐実のリアルに迫る内容だとして発売前から大きな話題となった。どのような経緯で創刊に至ったのか、安達と発起人の宇都宮定典「ホーム」編集長(以下、宇都宮)を直撃した。
WWDジャパン(以下、WWD):まず、「ホーム」という媒体を創刊した背景について教えてください。
宇都宮:この時代に紙媒体の必要性は何かと考えた時、スピードでも量でもない。情報をうまくカテゴライズすれば成立するかなとも思ったんですけど、今若い子は情報を自分でセレクトできるから、そういう雑誌でも意味がないと。だったら、1人の人間を深く突き詰めるということを考えて、情報を残すという考え方では、紙がベストなのではないかと思いました。
WWD:深掘りする雑誌を作ろうと。
宇都宮:相当踏み込めないと雑誌が成立しないという前提だったので、安達さんにもオファーの際には「全部聞いてしまうけどいいですか」と相談しました。もちろん過去の話もするけど、それは今の自分が思う過去で、36歳の今、過去を振り返ってこう思っているということを残すことに意義があるんだなと。
WWD:しかも、写真は無修正という。
宇都宮:記録として残す写真が修正入れまくりだと、振り返ってみた時に寂しいと思うんですよね。今の子見てても思うんですけど、学生時代の写真が全部「スノー(SNOW)」とか過剰なプリクラだと後できっと後悔すると思いません?“盛る”作業を楽しむのも良いけど、ありのままの自分も残しておかないと。無修正っていうのはその意思の提示でもありますね。なんなら僕的には、ファッション雑誌はみんなで無修正宣言して、「ファッション誌は素でキレイな人しか出られない」って常識にしたいですね。そうすることで紙のブランド力も上がるし、世の中に残る媒体になるんじゃないかなぁと思いますから。
WWD:それもあって、発売前からかなり話題になりましたよね。初めから、安達さんありきだったんですか?
宇都宮:安達さんは安達さんで素敵だなと思っていた。「なぜ安達さん?」と聞かれた時に、最近の安達さんを見ていない人からすると「なぜ?」という感じだけど、最近の安達さんを見ている人からすれば「そりゃそうでしょ?」と思うはず。最近のインスタを見ている人なら共感できる、“普通”の選択だったんです。
WWD:企画が動き始めたのはいつですか?
宇都宮:いろんなアイデアをぼんやり考えている中で、社内でも夏くらいからやろうとプレゼンしてました。
WWD:やるなら安達さんだろうと?
宇都宮:即決でした。
WWD:すぐにオファーを受けたんですか?
安達:(始動して)結構すぐですね。
宇都宮:夏にお声掛けしたよね。逆にいうと、安達さんから始めないと成立しないと思ったんですよ。一発目のインパクトと、媒体のコンセプトにもっともマッチする人と考えた時に。
WWD:深掘りという点で?
宇都宮:そうです。この人は疑問点ばかりだと。昔からいろんなことがあって、普通こんな風になれないよなと。昔より若返っているのに疑問が湧いてくる。あれだけの経験をして、昔より若返っているのには何かがある。それは美容とかではなく精神的な何かで、再婚とかもあるだろうけど、そういう疑問こそ本にすべきだろうと。
WWD:なるほど。ターゲットは?
宇都宮:ターゲットは30代くらいの女性。男性は完全に無視してます。
WWD:それは、安達さんのファン向けということ?
宇都宮:そうではなく、彼女の魅力を伝えるために、“男性受け”的なことはしたくないと思った。僕も安達さんと同い歳なんですが、36歳の安達祐実を形にした結果です。
WWD:広告も入れずに、思い切りましたよね。
宇都宮:前半が演じている安達祐実、後半が素の安達祐実という流れができているので、それを大切にしたいなと。
WWD:タイトルのデザインは「honne」に見えますね。
宇都宮:ここは読んだ人が察してくれればいいな、くらいのイメージです。裏表紙も見たら、タイトルとも偶然リンクしてるでしょ?そのへんも読んだ人が察してくれればいいなと。
WWD:結果的に、安達さんのための雑誌みたいになったんですね。
宇都宮:結果的にリンクして、そうなってしまいましたね。
WWD:安達さんはこの話を聞いた時、どのように感じましたか?
安達:もともとファッション誌見るのも好きで、ファッションやりたいと思っていて、「『ナイロン』に出たい!」とマネジャーに言ってた。そしたら、「それよりすごいことになってますよ!」って言われて、「絶対やるじゃん!」と。
WWD:深掘りするということを聞いて、抵抗はなかった?
安達:結局、今までと同じことをやっても仕方がないじゃないですか。(ファッション)写真の仕事をなんでやりたいかというと自己表現したいということだから、あんまり女優っぽいことをやっても仕方がないし、どうせなら自分の人となりが出る方が面白いからなと。それぐらい深く掘ってくれないと物足りない(笑)。
宇都宮:それはもう、完全に病気(笑)。
WWD:(笑)。結果的に、“物足りる”内容になった?
安達:「こんないい本できるんだ!」って。撮影も楽しかったんだけど、思ったよりゆるくないというか、マジで勝負という感じがあって、すごい面白かった。
WWD:内容もシンプルな構成じゃないですか。その中で、10時間のインタビューをされたと。
宇都宮:「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!」(日本テレビ)でやってる24時間インタビューを見てても、20時間くらい経った時にわけわかならないこと言い始めるじゃないですか。ざっくりそういうイメージというか、いわゆるテーブルを挟んでやりたくないと。酔っ払いながらやりたければそれでもいいし、もっともリラックスできる状態でしたいと。そしたらドライブが好きだと、じゃあドライブしましょうと。
WWD:インタビューでは、安達さんが運転してるんですか?
安達:そうです。運転好きなんで。自分で運転した方が楽で。
宇都宮:僕が助手席にいて、(マネジャーさんが)後ろですよ。なんなら途中話聞いてないし(笑)。その部分もカットせず、しっかり載せましたが(笑)。
WWD:この分量をどうやって記事にしたんですか。
宇都宮:10時間ずっと録音しましたよ。散歩する間も、自分がトイレ行ってる間も、全体の空気を録音したくてテーブルに置いてました。2人になった時のテンションとかもおさえようと思って。
安達:だから、この2人が気が合わなければ最悪だったかも。
WWD:宇都宮さんとは、もともとお知り合いだったんですか?
安達:ううん、今回が初めて(笑)。
WWD:え〜!それはすごいですね。
宇都宮:はじめはインタビューにライターを入れようかとも思ってて。相性にもよるし。でも、先に撮影しているので、関係性はできてきて、逆にライターさんにはお願いできないと思った。じゃあなんとか仲良くなって、自分で取材させてもらおうかなと。でも正直、キャラクター的にいけるなと思った(笑)。
安達:こいついけるなあと思ったでしょ(笑)。
宇都宮&安達:あははは(笑)。
WWD:しかも、それをそのままノーカットで載せると。それも先に決めてたんですか?
宇都宮:それも先に言うと、言葉を選ぶなと思ったんですよ。だから、先に言わなかったんですよ(笑)。写真の無修正も先に言うと、ちょっと仕上げてくるでしょ。原稿も同じなんで、事前にあえて言わなかったんですよ。言葉を選ぶインタビューほど面白くないものはないと思っているので。選ばせないというか。
WWD:写真も撮る前に言ってないんですか?
安達:言われてないです。あとで、「無修正でもいっか」って言うから、それでもいいかなって。してやられましたよ(笑)。
宇都宮:もちろん、それで「聞いてない!」ってなることもあるでしょうけど、事前に用意してしまうと面白くなくなって、やろうとしていたこととはかけ離れちゃうので。
WWD:全体の構成も宇都宮さんが?
宇都宮:だいたいそうですね。一番初めに夜の撮影(dark and light)をして、そのあとネイキッド(naked honest)やって、表紙(selfish red)やって。
WWD:最後に夫の桑島さん(the life)と。桑島さんの登場も、はじめから決めていたんですか?
宇都宮:これも、最初はどうにか素の部分をおさえられればいいなって考えていたんですが、やってるうちに桑島さんでないと成立しないなと。それで、相談させてもらいました。
安達:普段とは違うものを作る感覚だったから、初めは登場しなくていいかなと思っていたけど、だんだん素の自分に近づいてくるというコンセプトになったから、私生活風を誰かに撮ってもらうなら意味がないなって。それなら、旦那さんに撮ってもらった方がいいなと。
WWD:それで、箱根まで小旅行に。
安達:みんなで小旅行しましたね〜。
宇都宮:僕らは見守っている程度で。時々「ご飯行ってくるね」って、2人を放置したりして。
WWD:ここが一番可愛いって社内でも評判でしたよ。
宇都宮:前半の作られた世界があることで、ここが引き立つんですよね。スイカの塩のようなもの(笑)。コントラストとして見せないとダメだなあと。これだけでも素敵なんだけど、対比として見てほしくて。
安達:確かに自分でも驚きますもん。旦那さんの前でこんなにふざけてるんだと(笑)。
WWD:桑島さんには普段から撮られていて、写真集も出してますもんね。
安達:でも写真集は結婚する前の写真だから、距離感が違うかも。
宇都宮:(今の距離感を)紙にして出したのはこれが初めてですね。
WWD:撮影が終わって、出来上がるまでには安達さん自身も中身をチェックしたんですか?
安達:写真チェックと表紙を選んだり、くらいですね。
宇都宮:それで言えば、だいたいできたタイミングでのチェックだけでしたね。
WWD:10万字インタビューをチェックするのも大変ですもんね(笑)。
宇都宮:そうそうそう。何回もできないでしょ。なんなら見てないでしょ?
安達:インタビューは読んでない(笑)。
WWD:これから読むんですか?
安達:読みました!さすがに(笑)。
宇都宮:よかった(笑)。でも、このレベルの長さは他媒体にはないですよね。それだけ聞くことがあるということなんですけど。聞いても、話がいろんなところにいくでしょ。その結果10時間になりましたね。でも、文字起こしして、僕の関西弁を標準語に戻すのが一番大変だった(笑)。
WWD:そこは修正入ってるんですね(笑)。
宇都宮:僕の部分はいいでしょう(笑)。関西弁だと、読者も僕が気になってしかたないでしょ、きっと。匿名感を出さなきゃと思って、読みやすさを重視して、修正しました。
WWD:でも、これだけのインタビューとなると、かなり準備もしました?
宇都宮:ある程度は準備しましたが、読者と同じレベルに立たなきゃいけないなと。結果的に質問の順番ぐちゃぐちゃでしょ?もっと調整した方がいいかなとも思ったんですけど、変えない方が読む人も途中で止められないだろうなと。急に重い話くるし、急にパンチの利いた話来るから、それでいいと思ったから。あと、チャットインタビューにしてるんですよね。普通のインタビューは長文で飛ばせちゃうし、LINEのような感覚。今の若い子って、LINEで長文送らないんですよね。そういうイメージの文章にしています。
安達:ほ〜、よく考えられてるものなんですね(笑)。
宇都宮:真面目だから!今日も「言わなきゃ」って、ちゃんと褒めどころたくさんメモしてきてるんで(笑)。2行ごとに「祐実がすごい!」って入れてくださいね(笑)。
WWD:次くらいで最後の質問にしようかと思ってるんですが、大丈夫ですかね(笑)。
宇都宮:え〜、もう終わり〜!?(笑)もうちょっとしたかったな(笑)。
安達:大丈夫ですか、これから、ドライブ行きながらやりますか(笑)。
宇都宮:それ、楽しいね〜(笑)。
WWD:じゃあ、このインタビューも別冊としてつけてくださいね(笑)。さて、この雑誌は今後の予定ってあるんですか?
宇都宮:次もやろうと思ってます。本文中でも書いてるんですけど、芸歴50周年でまた作るんで(笑)。
安達:16年後……意外とすぐじゃん(笑)。それが2冊目だったらびっくりだよね(笑)。
宇都宮:そういうコンセプトでも面白いかもしれない(笑)。さっきも言いましたけど、36歳でどう思っているかにフォーカスしてるので。インタビュー中では安達さん友だち1人もいないって言ってますけど、つい最近友だちができ始めてるんですよ。
安達:すごい勢いで友だちできてるんですよ。「ごはん行こう」ってすごい言われて、自分でもびっくりしてるんです。自分変わったのかなあって。
宇都宮:だから、この1カ月でも変わることはあるし、考え方も変わるし、そのために今の姿と言葉を残したつもりです。
WWD:宇都宮さん的には今後、他の人が登場してもあり?
宇都宮:ありです。それこそ男性もありだと思っているので。でも、創刊号が関係値的にもベストな形でできてしまったので、結構難しいなあって(笑)。
安達:本当に友だちみたいな感覚だもんね、今。
宇都宮:でも、そこまで行けば、次出るってだけで話題になるでしょ?そうなれば、勝ちかなあと。
WWD:すでに話題ですしね。他に、何か言い忘れたこととかありますか?
安達:大丈夫?褒め逃しはない?(笑)
宇都宮:あるかなあ〜……。
安達:……なさそうだね(笑)。
■「home」発売記念サイン本お渡し会イベント(要予約)
日程:12月7日
時間:18:00〜
場所:TSUTAYA TOKYO ROPPONGI
住所:東京都港区六本木6-11-1
入場料:書籍代1500円
■「home」発売記念サイン本お渡し会&トークショー(要予約)
日程:12月8日
時間:18:00〜
場所:TSUTAYA EBISUBASHI
住所:大阪府大阪市中央区道頓堀1-8-19
入場料:書籍代1500円