田中仁ジェイアイエヌ社長:1963年、群馬県生まれ。ジェイアイエヌ代表取締役社長。01年にアイウエア事業「JINS」を開始。11年「Ernst&Young ワールド・アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー2011」モナコ世界大会に日本代表として出場。13年東証一部に上場 PHOTO BY MAYUMI HOSOKURA
かつてアイウエアは、アパレルに比べ在庫回転率が悪いのが当たり前だった。だが今、駅ビルや大型ショッピングセンターに行けば、アパレル店舗以上にひっきりなしに人が出入りしているアイウエアショップがある。「ジンズ(JINS) 」だ。ツープライスショップという業態に始まり、今ではフォープライス展開、「エアフレーム(Airframe)」や「JINS PC(現JINS SCREEN)」などのヒット商品を次々と生み出すなど、田中仁ジェイアイエヌ社長はアイウエア業界の常識を次々と打ち破ってきた。第二回目の「私のシゴト力」は、田中社長が登場する。
WWDジャパン(以下、WWD):1988年に起業して、以来経営者として走り続けてきました。当時、思い描いていた社長像との違いはありますか?
田中仁ジェイアイエヌ社長(以下、田中):起業した当時は、当然のようにバラ色の人生を歩んでいけるものだと思っていました。しかし、実際は想像以上に大変で…(笑)。企業が成長するにつれて乗り越えなければならない山が高くなっていきます。細かい課題を挙げればキリがありませんが、創業当時から共に歩んできた仲間が辞めてしまうなど、本当にいろいろなことがありました。けれど、それに比例して良いこともあります。天秤と言いますか、バランスは取れている気はします。
WWD:毎日、どのような生活ですか?
田中:基本的なタイムスケジュールは社員と変わりません。定時(9時半~18時半)の少し前の9時くらいに出社し、大体18時半から19時くらいに退社します。
WWD:趣味は?
田中:趣味が無いのが悩みでしたが、最近は地元である群馬県の支援活動という趣味ができました。群馬県前橋市に財団を設立し、地域の起業家育成の活動や前橋市と共同でビジョン策定のお手伝いをしています。しかし、こちらも仕事同様真剣に取り組んでいるので、趣味というよりは休日に本業かのように忙しくなってしまっています。最近疲れやすいのは、休みなく活動しているからかもしれません(笑)。
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起業が自分という人間を成長させてくれた
WWD:起業したきっかけは、高校を卒業後に働いていた地元の信用金庫で、大晦日に働いていて、お客から怒鳴られたから、と「振り切る勇気」(日経BP刊)に書かれています。
田中:起業というと大げさですが、いつか自分で商売をしようと高校生の時から考えていました。小さい頃から優等生ではなく、大した取り柄もなかったので、サラリーマンになっても大した仕事はできないとわかっていましたから。起業している人たちは、実はそういう人も多いかもしれません。
WWD:“起業が天職だった”とよく言っていますね。
田中:もともと飽きっぽい性格ですが、商売だけは飽きずにずっと好きですね。自分の好きなことを見つけることはとても大切ですし、見つけられた人は幸せだと思います。私は何の取り柄もありませんでしたが、変わったのは、起業してリスクを背負ったことで、“フルスイング”できるようになったことだと思います。商売をすることで、いろいろな出来事に正面から向き合い、全力で立ち向かうことを学びました。
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経営者に必要なキーワードは、ビジョン・ミッション・アクション・パッションの4(ヨン)ションと語る田中仁ジェイアイエヌ社長
WWD:経営者としての転機は?
田中:商売のセンスと運があれば、ある程度までは成功できると考えています。私の転機は、上場した後の2008年に最終赤字に転落したときでしょうか。実はそれまでは売り上げや利益を上げるための手段ばかりを考えていました。様々な施策を打ってきましたが、うまくいっていないときは、その打てる手が限られてきます。もうこれが失敗したら、本当に終わり。そこまで追いつめられた時に、小手先の手段ではなく、“ビジョン”が必要になることを知ったのです。世の中に、なぜ自分や会社が存在するのか。その意義を真剣に問い直す中で、会社の方向性を決める“ビジョン”を決め、それに向けて舵を切りました。
WWD:経営者に必要なキーワードを挙げると?
田中:ビジョンとアイデアと実行力、そして執念が必要だと思います。言い換えるならビジョン・ミッション・アクション・パッションの4(ヨン)ション。商売は人と違うことを考えて実行することでしか、成功できないと思っています。リサーチももちろん大切ですが、そこから見えることは普通のこと。そうなるとやはり直感力=アイデアは大きいと思います。ファッションは、特にその部分が重要なのではないでしょうか。感性といいますか、右脳の部分が大きいです。
WWD:今回のインタビューで、起業家として、人間として、失敗のたびに新しいことを学び、成長してきたと感じました。転職を考えている人などへのメッセージをお願いします。
田中:私が常々社内外で言っているのは、“本気は自分への投資である”ということです。まずは目の前の仕事を本気になって真剣に取り組んでほしい。私も最初は儲けることを目的に起業しましたが、経営者を続ける中で、物事と真剣に向き合うことやビジョンの大切さを学んできました。本気になることで、3つのいいことがあるのです。一つ目は真剣に仕事に取り組むと、気付きがある。二つ目は課題解決能力が高まる。3つ目は真剣に取り組む姿は絶対に誰かが見ていて、評価が高まる。最初は小さな差かもしれませんが、5~10年経つと大きな差となります。その上で、自分なりのビジョンを持ち、自分がどうありたいか、何をしたいかを明確にすることが大切です。やはり好きな道、納得できる道を選ぶことが重要だと思います。
次ページ 田中社長の経歴 ▶
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年
出来事
1963年1月25日
群馬県前橋市生まれ
1987年4月
個人事業を開始、翌年の1988年に群馬県前橋市で有限会社ジェイアイエヌを設立
2001年4月20日
福岡市天神に「JINS」1号店をオープン。アイウエアに進出
2006年8月
大証ヘラクレス(現JASDAQ市場)に上場
2008年
最終赤字に転落。一時株価は50円を割り込む
2009年1月
ビジョンづくりのため、熱海の温泉旅館で役員合宿を実施
2009年9月17日
軽量メガネ「Airframe」を発売
2010年12月
中国の瀋陽に店舗を出店
2011年9月
機能性アイウエア「JINS PC(現JINS SCREEN)」を発売
2013年5月
東京証券取引所第一部に上場
2014年3月
慶応義塾大学大学院 政策・メディア研究科修士課程終了
2015年4月
北米1号店をオープン
2015年11月
アイウエア型ウェアラブルデバイス「JINS MEME(ジンズ・ミーム)」を発売、
海外3地域目となる台湾に出店