REPORT
「サンローラン(Saint Laurent)」の2014-15年秋冬コレクションは、ちょっぴり背伸びして、父親の時代錯誤なジャケットを羽織り"イキがっている"ロックな少年像を描いた。ボトムスは、再びクロップド丈のスーパースキニーが主流。そこにモデルより明らかに2サイズは大きい、水平ショルダーのジャケットをまといスタイルを完成させる。オーバーサイズのジャケットは、千鳥格子などのクラシックなモチーフ使い。明らかに少年とは時代の異なる商品のようだ。一方でファーをのせたレザーのバイカーズブルゾンはコンパクトフィット。こちらは少年が今までも、そして、これからも愛し続ける商品のよう。フォーマルとカジュアルでシルエットを大きく変えている。しかし、コレクション全体はバリエーションに乏しく、ファースト・コレクションからの進化は見えづらい。
最大の問題は、少なくとも現段階においては、エディの「サンローラン」が今まで以上に広がる未来予想図を描きづらいことだ。確かに、エディが刺激し、刺激される、アメリカ西海岸を中心とするユースカルチャーにおいては、今回のスタイルも存在感を放つ。実際、ショーを立ち見で鑑賞していたボーイズ&ガールズは、すでにエディの影響が顕著なレザーのライダースにスキニーパンツ姿で、ショーに登場した1ルック1ルックを撮影し、SNSで拡散。相当に気にいっているようだ。若者の洋服離れ、特にコレクションブランドへの興味や関心が薄れている今、エディの「サンローラン」は、若者がラグジュアリーの世界に興味を持つきっかけともなっており、その意味では業界全体で温かく見守りたい存在であることは間違いない。
しかし、若者以外の男性にとっては、エディの「サンローラン」は、今なお「少年性」を軸とせずには理解・共感することが難しく、結果、シーズン毎の変化はジャケット&パンツのシルエットと丈の長さ、そして、そこに羽織るアウターのテイストでしか語れなくなっている。
上述したように、コミュニティを持ち、それとの絆を深めることは決して悪くなく、むしろ今のデザイナーにおいて必要な資質。その意味においては、エディの「サンローラン」は、他のブランドに先行している。しかし、クリス・ヴァン・アッシュの「ディオール オム(DIOR HOMME)」はストイックなユニフォームにスズランの花でロマンスを、フリーダ・ジャンニーニの「グッチ(GUCCI)」はスキニーパンツで描くモードにダルトーンで大きなアウターで優しさを、キム・ジョーンズの「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」はメガブランドならではの素材&クラフツマンシップに彼ならではの遊び心を加え、コミュニティを広げ、ビジネスを拡大しようと試行錯誤を重ねている。それに比べ、エディの「サンローラン」は、アメリカ西海岸のエディの生活圏内から離れることがなく、いくらトレンドスポットでもコミュニティは半年おきに激変するワケはないから、結果描くスタイルがなかなか変わらず、停滞している感が否めない。
一時代を築き、だからこそ、ファッションショーを取り巻く世界の閉塞感を打破してくれると期待できるエディだからこそ、お願いしたい。今のコミュニティから一歩前進して、今度はそれを広げる努力を本格的に初めてみてはどうだろうか?
【サンローラン 2014-15年秋冬パリ・メンズ 全ルック】
LOOK
FRONT ROW
「サンローラン(Saint Laurent)」2014-15年秋冬パリ・メンズでは、女優のサルマ・ハエック(Salma Hayek)を始め、多くのミュージシャンが来場した。UKポストパンクバンドであるサヴェージズのジョニー・ホスタイル(Johnny Hostile)は「エディ・スリマン(Hedi Slimane)は本当にミュージシャンのことを分かっている」と述べている。ほか、フランス人シンガーのイジア・ヒゲリン(Izia Higelin)ミュージシャンのニコラ・ゴラン(Nicolas Godin)や元ラスカルズのマイルズ・ケイン(Miles Kane)らがフロントローに登場した。1980年代の「イヴ・サンローラン」のコートに身を包んだジュリエット・グレコ(Juliette Greco)は、「イヴ・サンローランは私のコンサートに2回来てくれたことがある」とコメント。「サンローラン」のメンズ新作のネイビーのタキシードを着用したハイエックは「大好きなイタリア人映画監督と撮影を始めるの。とてもワクワクしているわ」と述べている。