ファストファッション「ザラ(ZARA)」をはじめ、「プル&ベアー(PULL & BEAR)」「ベルシュカ(BERSHKA)」「ストラディバリウス(STRADIVARIUS)」「オイショ(OYSHO)」「ザラホーム(ZARA HOME)」などを擁する世界有数のSPA企業が、インディテックス(INDITEX)だ。2016年12月通期決算の売上高は前期比11.4%増の233億ユーロ(約2兆6096億円)、純利益は同10.3%の32億ユーロ(約3584億円)で、カジュアル専門店の売上高世界ナンバーワン企業として君臨する。日本で約100店を運営するザラ・ジャパンをはじめとしたザラホーム・ジャパン、ベルシュカ・ジャパン、ストラディバリウス・ジャパンのインデックス4ブランドの新卒採用について聞いた。
WWDジャパン(以下、WWD):2018年4月入社予定の採用はもう終わったか?
インディテックス:受け付けは9月で終了し、目標人数にはある程度達したが、アルバイトやインターンをしている人などから希望があれば柔軟に対応している。
WWD:採用予定者数は?
インディテックス:非公表だが、4社合わせて100人単位の採用をしている。
WWD:17年4月に入社した新卒の数は?
インディテックス:短大・専門学校・大学生含めて90人。われわれは16年4月に初めて新卒を迎えて、17年4月入社が2期生。1期生を採用してみて、ある程度手応えがあり、「育てていける」という実感が持てたので、17年4月入社から高卒も採用している。しかし、新卒採用活動についてはまだまだ新米だ。採用数を増やすことよりも、しっかり育てることを目標にしている。
WWD:選考方法は?
インディテックス:会社説明会があり、その後、一般常識の筆記テスト。その結果を持って、マンツーマンの1次面接の後、店舗で5日間アルバイトをしてもらう。その後、2次面接で採用を決める。
WWD:5日間のアルバイト?
インディテックス:外から見たときの印象と実際に正社員として入社したときにかなりのギャップがあるだろうと考え、それを埋めるために考案した。一般のアルバイトとは異なり、5日間のトレーニングメニューを準備して、店におけるさまざまな業務を体験してもらう。授業や就活に差し支えのない範囲で、住んでいるエリアの店舗で1日6〜8時間勤務。1次面接から2カ月以内に5日間、働ける日を確保してもらう。もちろん時給を払う。そこでの体験をもとに2次面接を行うので、その時点で質問も具体的になっており、働くイメージも具体化されている。
WWD:なるほど。
インディテックス:内定が出た後も、自宅から通える店でトレーニングを続けるので、4月に入社する時点でもうスタッフとして活躍できるようになっている。たとえ、4月の配属が違う店になったとしても、チームから信頼されているので新卒生という扱いではなく、なじみやすい雰囲気になっている。
WWD:しかし、就活生を受け入れる店舗の負担も大きくないか?1次面接でかなり人数を絞るのか?
インディテックス:最初は理解してもらうために受け入れ店舗1店1店を回って、マネジャーに意図を説明した。また、初年度は10日間のアルバイトにしていたが、学生にとって負担だったので、5日間に短縮した。1次面接で何人に絞るというような設定はしていない。1人につき40分ほど話すし、質問も受けるが、大丈夫かな?と思っても、本人が望むのであれば店舗実習をしてもらう。面接や不慣れな環境で、良いところを全部出せというのも難しいだろうし、一緒に働いたトレーナーやマネジャーからは必ずいいところを見つけてフィードバックが来るようにしてある。店頭を体験することで、大きく考えが転換する人もいる。
WWD:店舗実習が1つのハードルでもあり、評価の機会でもある?
インディテックス:もちろん中には初日で挫折する人もいるし、「やっぱり大勢で働くのはきつい」とか「お客さまがこんなにいると思わなかった」「商品についてこんなに覚えるのはやっぱり苦手かも」という声もある。しかし、そういうことが入社後に分かるよりも、就活中に認識できれば、まだ他の企業に行けるチャンスがたくさんあるわけだし、お互いにとって有益だと考えている。一方、モチベーションが高い人が多いので、最近では店の方から「トレーニング生を受け入れたい」や、トレーニングを終えた人に対して「ぜひうちの店に配属してほしい」というリクエストが来たりするようになってきた。われわれ人事も育っているし、お店も受け入れることで育っている。学生にとってもハッピーに働くことができる環境を確認できるので、いい循環になっていると思う。
WWD:合わないと思ったら2次面接には来ないだろうし、マッチング率も非常に高まりそうだ。
インディテックス:“99%両思い”というような状態だ。ただ、内定を承諾してもらうまでに1カ月の猶予を設けており、「まだ迷っている」という人にはアルバイトを継続してもらうなど、しっかり決めてもらえるように努めている。
WWD:店舗数からいって配属は「ザラ」が多いと思うが、希望は通るのか?ブランド間異動はありうるか?
インディテックス:選考時点で希望を確認し、基本的にその希望を尊重する。そして会社はそれぞれ独立しているので、基本的にブランド間異動はない。店の配属に関しては、自宅から1時間半以内で通える店で、その範囲内であれば異動もある。また、ポジションに着く際には店舗異動が発生することが多い。
WWD:1年目の仕事はどんなイメージか?
インディテックス:トレーニングメニュー自体は同じものを同じ期間にスタートするが、人によって進行が異なってくる。例えば、ファッションの専門学校の卒業生は商品についての基礎知識があるので、より深くそこを勉強してもらったり、VMDの勉強をしてもらったりするし、ファッションの勉強を全くしたことがなければ、素材やデザインなど基本からスタートする。また、その先に配属されるポジションによって異なってもくる。
WWD:ポジションとは具体的には?
インディテックス:最初は全員セールス・アシスタントからスタートする。そして、フロアの接客やフィッティング、ストック、VMDやレジなど、適正や希望を加味してポジションに就く。フィッティング担当はお直しを勉強したり、ストックも広いところはフロア規模だったりするので、その管理・運営を学んだりする。最初は一通りのメニューをやっていくが、人によってすぐ終える場合もあり、進捗は異なる。月に1度、人事とマネジャーなどの店舗担当と本人の3者で面談をして、「こういうところが優れているから伸ばしていこう」だとか「こういう風に育てたいから、ここをもう少しトレーニングしよう」などと細かくすり合わせていく。何かを習得したら、次へという感じでどんどん進むので、1年目は店内の基本の業務を満遍なく勉強していく感じだ。
WWD:2年目から専門性が加わる感じか?
インディテックス:速い人だと全部のパートをどんどん習得して、1年目から、例えばシフトを組むなどのリーダーシップをとるポジションに就いたりする。
WWD:できる人はどんどん先を行く?
インディテックス:16年4月入社の人たちでも、小さめの規模の店であればマネジャーチームの中に入って、お店の管理・運営に携わっている人もいるし、商品のオーダーを勉強し始めている人もいる。
WWD:チャンスは結構ある?
インディテックス:基本的に店長の下にアシスタントマネジャーやセクションマネジャーがおり、大型店ではさらに細分化したポジションがある。ウィメンズには3ラインがあり、スーパーバイザー(リーダー)がいる。キャリアパスは必ず段階を踏むわけではなく、例えばスーパーバイザーなどのポジションからマネジャー候補が出ることもある。
WWD:初任給は?
インディテックス:四大卒で年俸280万円。これにコミッションが付く。
WWD:コミッションとは?
インディテックス:店の売上高に自身が働いた時間数とあるパーセンテージを掛けて算出する。日ごとに算出し、アルバイトにも付く。たまたますごく売れたタイミングに配属されていれば、高いコミッションが付く。
WWD:新卒採用は全員店に配属になるが、内勤への異動は可能か?
インディテックス:部門による。店のオペレーションと直結する部門、例えば人事や営業、ビジュアルマーチャンダイザー、ウインドーなどは店から異動がある。
WWD:社内公募のようなものがある?
インディテックス:各人の希望は常に人事が把握している。店ごとに担当人事が決まっており、毎月全員にヒアリングしている。希望に合うようなチャンスがあったら、人事が気持ちに変化がないかなどを確認して、その人にオファーする。もちろん必要なスキルや経験が備わっていることが前提だが。また、あまり店と直結していないPRに興味があると聞いていれば、イベントでサポートが必要になった時などに積極的に声を掛けて手伝ってもらうなどの配慮もするし、PRになるチャンスがないわけではない。
WWD:語学力を生かしたり、海外で働くというようなチャンスは?
インディテックス:たくさんある。アジアで出店する際のサポートは、アジア1号店があり、経験値が高い日本からトレーナーを送ることが多い。一番短くて1週間だが、現地と“両思い”になればその国に異動することもある。ベトナムやオーストラリア、南アフリカなど、延べ人数では何百人と派遣している。
WWD:店頭でも語学力は求められる?
インディテックス:お客さまの対応はもちろんだが、インターナショナルのスタッフが来日するケースも多く、定期的に店も視察するので、言葉が通じないと半分くらいしか情報が得られないようなことにもなったりする。日々の業務の中でも英語は必要になってくるので、「語学力を生かしたい」という人には良い環境だと思う。
WWD:商品について本国へのフィードバックはしやすいか?
インディテックス:毎日できるチャンスがある。ダイレクトにスペインにメールや電話が可能だし、逆に現場の声を直接聞こうと本国から電話がくることもある。誰かがまとめて伝えるのではなく、極力タイムラグを作らず、変えられるんだったら変えよう、良くしようというスタンスだ。忙しさや新しいことが起こるのが好きな人には良い環境だと思う。
WWD:スペイン本社へ行くチャンスもある?
インディテックス:本国の商品に携わる部門が、商品と現地の情報をしっかり持っている人材を求める場合がある。日本のマーケットを熟知し、日本のマネジャーたちともしっかりコミュニケーションができ、スペインでも闘って行けるような人が望ましいが、日本については日本のスタッフからピックアップすることが多い。その際、語学力は必須だが、勤続年数は関係なく、実際、今回16年入社の新卒も候補に上がっている。
WWD:福利厚生など、働きやすい環境について特筆すべきことはあるか?
インディテックス:毎シーズン夏と冬に2週間ずつ、最長2週間連続休暇が取得できるようにしている。それを利用して、海外旅行に行ったり、語学留学や自動車学校に通うなど、いろいろな目的で過ごしている。
WWD:それだけ人員に余裕がある?
インディテックス:セールの一番忙しい時期を外して、その前後で計画的に休みを取るようにしている。確実に取るためにみんなで話し合いながらシフトを作っている。また、女性が全体の7割くらいを占めているが、産休・育休後の復帰も「元のポジションに戻りたい」「マネジャーなどの役職からは外れたい」「早番だけのシフトにしたい」など、本人の希望に合わせるので復帰率も高い。
WWD:商品を買う際に社員割引はある?
インディテックス:ユニフォームは完全支給だが、社員割引もある。
WWD:今後の課題は?
インディテックス:2年ようやく経ったところなので、何かを大きく変えようとは考えていない。が、会社説明会の回数を増やすなど、ミーティングポイントを増やして、希望者が都合に合いやすい環境を作りたい。エントリーを9月まで受け付けており、今年は東京、大阪、名古屋、福岡などの大都市では複数回行ったが、それ以外の地域でも必要に応じて開催しているし、遠方からのエントリー者とはスカイプで面接することもある。候補者のスケジュールにもっと合わせていけるようにしたい。
WWD:採用方針において本国からの指示は何かあるか?
インディテックス:全て日本独自の採用方法だ。新卒採用とその方法を本国に伝えた際も「そんなにプロセスが長いとあなたたちの方が負担では?」と驚かれた。しかし、お互いのギャップをなくすことを目標にしたプロセスであり、やはり会うたびに見つけきれなかった良さや可能性を感じるので、このスタイルを続けたいと考えている。
WWD:実力主義で、できる人はどんどん引き上げられるイメージだが、落ちこぼれる人もいる?
インディテックス:入社の時点で役割が与えられることになるので、落ちこぼれることはないと思う。役割分担をして、チームで結果を出す会社なので、そのポジションが気に入ればずっと続けてもらうことも可能だ。同じポジションで突き詰めて仕事をすることも可能だし、どんどん上に行きたい人にはチャンスもある。柔軟に対応できると考えている。