アップル(APPLE)傘下のオーディオブランド「ビーツ・バイ・ドクタードレ(BEATS BY DR. DRE)」は、アップルの傘下となり約3年が経つ。“音へのこだわり”をアイデンティティーに掲げ、常に機能向上に努めている。17年10月に発売したヘッドフォンの“スタジオ3 ワイヤレス(STUDIO3 WIRELESS)”は、“アップルW1チップ”を搭載したことで、これまで以上の操作性を実現した。iOSデバイスとの緊急ペアリングや、デバイス間でのシームレスな切り替えが可能になり、バッテリーが12時間から2倍以上の22時間に伸びた。さらに独自の急速充電機能“FASTFUEL”も備え、10分間の充電で約3時間の再生が可能になった。「中身は全く違うモノなのに外見が変わらないのは、既に完成されたモデルだから」と話すのは、同社のルーク・ウッド(Luke Wood)=プレジデントだ。ビーツの目指す音へのこだわりとは何か?
WWDジャパン(以下、WWD):“スタジオ3 ワイヤレス”の開発のポイントは何か?
ルーク・ウッド=プレジデント(以下、ルーク):“スタジオ ワイヤレス”シリーズの後継機種として開発したが、デザインやフィット感を変えようとすると音にも影響を及ぼす。すでにデザインは完成されているので変える必要はなかったが、もともと持っている機能性をいかに改善し、使いやすく向上できるかということを念頭に置いた。特にこれまでとは全く違うノイズキャンセリング機能を最優先とした。
WWD:ノイズキャンセリング機能について詳しく教えてほしい。
ルーク:例えば飛行機や電車、カフェ、自宅など、それぞれの環境でノイズが違う。本来、ノイズキャンセリング機能自体が音に少なからず影響を与えるものなので、環境に合わせてアジャストする必要があると考えた。そこで、環境に応じて変化する“ピュアアダプトノイズキャンセリング”という技術を開発した。これは、ヘッドフォンの外側にマイクを付けて周りのノイズを拾い、周波数を特定して飛行機のエンジン音から人の話し声まであらゆる環境音を測定できる。そして、耳の形や髪型、帽子などでイヤーカップにも多少なりとも隙間ができるので、イヤーカップの中にもマイクを入れ、微妙な音のズレを検出することにした。その音源とノイズキャンセリング後の音の差を計算し、毎秒5万回のサンプリングを行って補正している。これが、当社の開発した新しいノイズキャンセリング機能だ。
WWD:デザイン的には完成されたモデルとのことだが、“スタジオ3 ワイヤレス”に足りない部分があるとしたらどこか?
ルーク:現時点では、ハードウエアのデザインやテクノロジー、音響、クオリティーにおいて最高品質だと自負している。変えたい部分はないが、テクノロジーが発達すれば、それに応じて何か足りない部分が出てくるかもしれない。
WWD:モノや商品を作り続ける上で大事にしていることは?
ルーク:音楽が伝える“感情”。私はレコード業界の出身なのだが、アルバム制作と似た部分もあって、これ(製品)がどうユーザーに届いて、どう感じ、どういう体験になるのかということを常に考えている。
WWD:「ビーツ」の製品はファッショナブルでオリジナリティーのあるデザインだ。街で見かけた時の感想は?
ルーク:すごく興奮する。レコード業界で働いていた頃、例えば自分の携わったアーティストの曲が隣の車のラジオから聞こえてきたら、とてもエキサイティングで不思議な気持ちになっていた。「ビーツ」を街で見かけた時も同じような感覚を持つ。
WWD:「ビーツ」がファッション性を追求する理由は?
ルーク:「ビーツ」は音響メーカーであると同時に、カルチャーを作る会社でもある。カルチャーの発端になるにはアイデンティティーが必要だ。ファッションブランドに限らないが、さまざまなデザイナーやクリエイターとコラボをすることで、新しいモノやカルチャーが生まれると考えている。少し前にはフランスの「バルマン(BALMAIN)」とコラボした製品を作り、ローンチイベントを行った。そういった刺激が「ビーツ」の製品にも生かされている。
WWD:製品開発にもファッションを取り入れているということ?
ルーク:もともとは女性社員のフィードバックからアイデアを得ていた。大きなイヤリングだとヘッドフォンが着けづらいだとか、髪型が崩れる、崩れないだとか、ファッションは実際に音響に影響を及ぼす大きな要素だ。