ファッション

コラボレーションで創造する新たな香水の世界

 9月28日に、パリを拠点とする香水ブランド「ヒーリー(HEELEY)」とのコラボレーションによる、ブランド初のオードパルファン「ノート デ ユズ」を発売した「メゾン キツネ(MAISON KITSUNE)」。発売後一度完売するなど、これまで香水になじみのなかった新たな客層もつかんでいる。調香を手掛けたジェームス・ヒーリー(James Heeley)と、「メゾン キツネ」の共同創設者でありクリエイティブ・ディレクターのジルダ・ロアエック(Gildas Loaec)、黒木理也に製作の裏側について聞いた。

WWDビューティ(以下、WWD):今回のコラボレーションのきっかけは?

ジェームス・ヒーリー「ヒーリー」調香師(以下、ジェームス):10年ほど前から「メゾン キツネ」のフレグランスキャンドルのプロデュースに携わってきて、次のステップとしてオードパルファンを製作することになった。理也とジルダはもともと「ヒーリー」の顧客で、レモンが印象的な海辺を表現した香り「セル・マラン」を気に入ってくれていることも知っていたんだ。

黒木理也「メゾン キツネ」クリエイティブ・ディレクター(以下、黒木):ジルダも僕も好きな香水がなかったけれど、ジェームスが作る香水は好きだった。「メゾン キツネ」は、ジルダがフランス人で僕が日本人というミックスしたカルチャーがブランドのエッセンスになっている。ジェームスはイギリス人で、フランスで活躍している。そして「ヒーリー」というブランドの世界観を作ってきた。その2つのブランドの世界観を語れる香りを僕らとジェームスで探していったんだ。

WWD:核となるユズの香りの着想はどこから?

ジェームス:「メゾン キツネ」はとてもポジティブでフレッシュ、ダイナミックでポップな精神性がある。香りもポップであるべきだと思ったんだ。着想源は日本の伝統的な“ユズ湯”で、ユズは日本のアイデンティティーとしても分かりやすいマテリアルだと思った。ヨーロッパのシトラス、例えばレモンやベルガモットもヨーロッパでは長い歴史と伝統がある。だからユズは東西を融合する香水を作るのに非常に適していると考えた。実はユズから抽出した成分は使っていなくて、レモンやマンダリンにグレープフルーツを調合してユズの香りを作ったんだ。天然香料を使用しているからジュースの黄色は自然の色なんだよ。フレッシュなシトラスの香りから始まって、ラストは海藻やシーソルトに変化してユズ湯を思い起こさせる。塩の香りによって、「メゾン キツネ」の明るくエネルギッシュな魅力を表現したんだ。

黒木:自分たちは香水を作ったことがないから、ジェームスがドクターみたいなもので、僕たちは患者。例えば病院へ行って、ここが痛いとかここは痛くないとかそういうやりとりを積み重ねてできあがった。完璧なものが存在しない世界で何かを探しているときは非常に楽しいよね。商業的なものは退屈だから。それは僕らがインディーカンパニーだからできること。自分たちのやりたいことや好きなことをそのままビジネスにつなげることができる。僕らはメインストリームと対峙することを目的としていない。好きなことができる分、責任もリスクも大きくなるけれど、毎日の生活を楽しくするために仕事をしているからね。自分たちのメッセージとしても、毎日を楽しむということはすごく大切なんだ。そういうメッセージを受け取ってくれている若い人たちもいる。僕らは僕らのライフスタイルをブランドに投影している。ジェームスのブランドも、好奇心旺盛でセンシティブな生き方が反映されている。「ヒーリー」と「メゾン キツネ」は、プロダクトは違うけれどマインドや人生の歩み方は同じなんだ。

WWD:調香師という視点で、「ノート デ ユズ」をどういう人にどういうシチュエーションで使ってもらいたいか?

ジェームス:ターゲットは年齢や男女、シーズンやシチュエーションで区切っていなくて、全ての人に使ってほしいと思う。ユズは日本では冬の果実かもしれないけれど、ヨーロッパではシトラスは伝統的に夏を想起させる香り。「ノート デ ユズ」はフレッシュでモダン、アントラディショナルでエレガント、ポップな遊び心も表現している。そんなスタイルを好む人に使ってほしい。

WWD:両ブランドのコラボレーション第2弾の香水の予定は?

ジェームス:まだ新作をリリースしたばかりだから次のことは考えていないけれど、2人との仕事はとてもハッピーだよ。

黒木:もし第2弾があるとしたら、さらにいいものができるだろうね。今回の製作期間は3年をかけたから、次は10年先かもしれないし、いつになるかは分からない。でも時間をかけた分、この香水は30年先、40年先も生き続けるかもしれない。僕らはそういうふうに考えて仕事をしているんだ。

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