「ティファニー(TIFFANY)」を代表するデザイナーの一人ジャン・シュランバージェ(Jean Schlumberger)のハイジュエリー・コレクションの発表会が10月、東京で開催されました。シュランバージェは、ジャクリーヌ・ケネディ(Jacqueline Kennedy)やエリザベス・テイラー(Elizabeth Taylor)、米「ヴォーグ(VOGUE)」の伝説の編集者であったダイアナ・ヴリーランド(Diana Vreeland)などが愛した伝説のジュエリーデザイナーです。
シュランバージェは1956年に「ティファニー」の専属デザイナーになりましたが、それ以前にも、エルザ・スキャパレリ(Elsa Schiaparelli)に才能を見出され、彼女のコレクションのためにコスチューム・ジュエリーやボタンなどを制作したことがあります。ニューヨークに開いた彼自身のサロンにはヴリーランドや、1950~60年代にスワンと呼ばれた社交界の花、ベイブ・パーリー(Babe Parley)、スリム・キース(Slim Keith)などが顧客に名を連ねました。自然界の動植物をモチーフにした有機的で生き生きとした彼のジュエリーはまるで芸術品の域です。
今回お披露目された“ナチュラル ワンダーズ”と題されたコレクションは過去最大。アーカイブの作品や新たによみがえったアイテム、初めて商品化されたジュエリーなどが勢ぞろいしました。
シュランバージェとの出合い
私がシュランバージェと出合ったのは、「WWDジャパン」の2014-15年秋冬ジュエリー別冊の巻頭特集の撮影でした。「ティファニー」のアイコニックなジュエリーをテーマ別に紹介するページです。モルガナイトやクンツァイトなど「ティファニー」が名付け親となったカラーストーンのリングの数々に「まるで、キャンディーみたい!」と女性のスタッフは大興奮。それ以上にインパクトがあったのが、クラゲをモチーフにした大胆なブローチやエナメルのブレスレット、緻密で立体感のあるリングといったシュランバージェの作品です。どれも華やかで繊細で、一度見たら忘れられないデザインでした。撮影から数年経過し、彼へのオマージュのコレクションが日本にやってくると聞いて、心が躍りました。
アーカイブにはケネディなどが所有したジュエリー
会場に到着すると、ジャングルのような幻想的なプロジェクションに迎えられ、アーカイブの数々が展示された部屋に案内されました。ヒトデや巻貝などの海洋生物からダリアなどの植物をモチーフにしたジュエリーをはじめ、置時計やシガレットケースなど、どれも目を見張るものばかり。中には、ジョン・F・ケネディ(John F Kennedy)が妻のジャクリーン・ケネディ(Jaqueline Kennedy)に贈ったフルーツのブローチや、ヴリーランドやキースが所有していたブローチなどもありました。シュランバージェのジュエリーは、今でも「ティファニー」のコレクションとして販売されていますが、アーカイブの作品に触れられる機会はめったにありません。まさに、ため息ものでした。
よみがえる名作と新たな息吹
奥の別室には“ナチュラル ワンダーズ”のコレクションが展示されていました。オーキッドやカカオビーンのブローチなど、まばゆいジュエリーの数々に目を奪われました。ふと、ジュエリーケースから目を離すと、エレガントな紳士が目に入りました。「ティファニー」のチーフ・ジェモロジスト(宝石鑑定士)であるメルヴィン・カートリー(Melvin Kirtley)氏です。15年夏に彼が来日した際、インタビューしたのを覚えていてくれました。彼はイギリス人で、「ティファニー」のジュエラーとしての圧倒的な存在に魅了され、ジェモロジストになり、今では「ティファニー」には欠かせない人物です。彼は、コレクションのハイライトを解説してくれました。彼は、「シュランバージェの作品は、全てスケッチからスタートします。このカクタスのブレスレットは、過去、制作されたことありません。シュランバージェのスケッチをもとに、数カ月かけて誕生しました」言います。また1960年にデザインされたヴィーニュ(ブドウ)のネックレスには、当時用されたアメシストの代わりにタンザナイトが使用されているそうです。「こんな大きなタンザナイトをどうやって集めたのですか?」という問いに、「『ティファニー』だからできることです。あえてランダムに石を配置し、一つ一つセッティングしているので、ブドウのつるがからまる様子が生き生きと表現されています」と説明してくれました。
自然界の美しさを、豊かなイマジネーションと洞察力で細部まで生き生きと表現するシュランバージェと、彼のデザインを実際にジュエリーとして作り上げる「ティファニー」の職人技に圧倒されました。アーカイブから、新たな息吹を与えられたジュエリーまで、シュランバージェが描く夢の世界に誘われた一夜でした。