2016年9月に高島屋の自主編集売り場として全国7店舗にオープンした「シーズンスタイルラボ(SEASON STYLE LAB)」。ディレクションにスタイリストの大草直子を起用し、百貨店離れが進む40代女性に向けて、他の売り場やフロアとの買い回りがしやすい売り場を目指している。スタートから1年余り、紆余曲折を経て今、売り上げが大きく動き始めた。その理由はスピード感のある決断力のようだ。
「『シーズンスタイルラボ』を立ち上げたのは、40代が日常的に使える服が百貨店で見つけにくかったから」と嶋廻由希子・高島屋MD本部レディスファッションビジョン・セントラルバイヤー担当部長(以下、嶋廻バイヤー)は話す。ブランド別に出店するハコ型ショップが主流になるにつれ、単品購入がしにくいという消費者からの声があった。今の空気感を取り込みつつ、単品売り場を復活させるため、スタイリスト起用にいたった。「単品売り場として買い回りができ、かつスタイリングが見せられる売り場にしたかった。大草さんはSNSでも支持されていて、今の風を感じ取れる人。お客さまにも伝わりやすい売り場にできると思った」。
スタート当初は大草氏の知名度もあって、順調に推移していたものの、少し落ち着くと予算達成ができない月が続くようになった。当時の構成はトレンドを押さえた商品が2割、ベーシックが8割。「手持ちのワードローブとの組み合わせを考慮し、グレーをベースにしたベーシックな商品を中心にそろえていた。トレンド感のある商品は見せ筋として用意するが、実売につながるのはベーシックな商品だと考えていた」と嶋廻バイヤー。だが実際に購買につながったのはデザイン性の高い商品だった。「シンプルでありながらもどこかデザイン性があるのが今のベーシック。マスの中でベーシックの定義が変わってきているのを感じた」という。現在はベーシック2~3割、デザイン性のある商品を7~8割と、比率を逆転して展開している。「大草さんの判断もあって早い段階で商品構成を切り替えた。百貨店内部の内輪だけではこの速さでの方向転換は難しかったと思う」。1年を待たずにこの切り替えができたことで、下期からは多くの店舗で予算達成ができるようになった。
オリジナル商品が全体の8割と、高い割合を占めることも回復を支えた。「今はSNSの台頭で情報が日々更新されていく時代。百貨店に人が戻ってこないのは、店頭が変わっているように見えないからでは?」と考え、売れ筋を深堀りするのではなく、常に新鮮なアイテムを企画し、細かい単位で商品を投入した。小ロットのオーダーに柔軟に対応してくれる工場も多いという。「工場や素材メーカーも、自分たちの製品にどのような反応があったのか気になっているようだ。百貨店という小売の場からダイレクトに店頭の声や自分たちの考えを聞けることに共感してくれ、モノ作りにも打ち込んでくれる。こういうモノ作りのあり方も必要だと分かった」と嶋廻バイヤーは話す。
こうした方策の結果、11月の売り上げは前年比30%増を記録。価格帯やデザインを一から見直したオリジナルのカシミヤコレクションが売り上げをけん引した。とは言え、これからの課題も見えている。「試着した瞬間にお客さまの心は決まっている。袖をブラウジングしたり、ベルトで調節しなくても、パッと着ただけでサマになる服を作らなくてはいけない」と述べ、18年春夏シーズンからは、デザイン性のある1枚でキマるアイテムを多くそろえる。さらに、売り場全体をどう見せていくかにもチャレンジする。「動かない売り場は魅力がない。伝統を守りつつ、どう風を起こしていくか」。悩みながらも待ったなしの決断力で、40代が本当に欲しい服を提案し続ける。