伊勢丹新宿本店2階にあるTOKYO解放区は面白い売り場です。仕掛け人である寺澤真理バイヤーの着眼点を反映させた売り場では、ユニークな企画が次々と仕掛けられています。寺澤バイヤーから「実は次はこんなことを考えている」と企画内容を聞くと、例外なく「なぜそこに着目した?」と面食らい、頭の中に「?」マークが浮かびます。
一見異分子に見えるAとBを組み合わせることで起きる化学反応を、寺澤バイヤー自身が楽しんでいるようなところがあります。「ピンクハウス」や山本寛斎さんにフォーカスしたように、ある時代に一世を風靡したクリエイションに再び光を当て、今のカルチャーと衝突させて新しいムーブメントを起こす……。そんな、半ば強引とも言えるTOKYO解放区の企画・実行力は、一昔前の雑誌編集者の仕事を見るようです。
そんな寺澤バイヤーから「着物を着て写真に収まって」とメールをもらったのは、12月上旬のこと。返信締め切りは2日後。悩むな、直感で決めろ、と迫られているようなスケジュールですが、面白そうなので「イエス」と即答しました。TOKYO解放区が今度は着物を売ろうとしている、その企画の内側に入って、寺澤さんと彼女を取り巻くスタッフの視点を体感したかったからです。
呉服メーカーの三松は2018年1月17日から、新ブランド「キイロ(KIIRO)」のポップアップショップを伊勢丹新宿本店の2階TOKYO解放区と7階呉服フロアで同時開催します。「キイロ」は、大人の女性が日常で着物を楽しむことを提案するブランドで、洋服に使う生地を使ったり、靴とコーディネートしたりと、斬新で自由な提案が特徴です。そこで売り場のポップやサイネージに使用する写真にも、プロのモデルではなくファッション業界を中心とした約40人の働く女性を起用し、新宿の街で撮影が行われたというわけです。
1日10人を4日かけて撮影したそうで、そのスケジュールはまさに怒濤のようでした。撮影に参加した私はロケバスに到着すると、あっという間にヘアメイクを済ませて、気がつくと着物にネットの靴下とハイヒールという格好で新宿駅前に立っていました。
告白すると、成人式で着物に失敗してから(似合わなかった……)、着物がトラウマになっていたのですが、三松の若い女性スタッフたちが手際よく着物を着せてくれると背筋が伸びて、いい気分で、いつもと違う自分を見た気がしました。
あれよあれよという間に撮影を終えて、洋服に着替えて西新宿の雑踏に送り出されて思ったことは、新しい価値を提案するにはアクションが必要だという、当たり前のこと。売り場は生き物。特にTOKYO解放区のように新しい視点を提案する売り場は、アクションを起こし人を巻き込み続けないと流れが止まってしまいます。私のような部外者に働きかけて動かすのは根気のいる仕事ですが、そんな部外者に面白そう」と直感で思わせたのが、新しい提案を成功させる第一歩です。ファッションはこうやって流れを作り、渦を起こし、盛り上げてゆくものだと思います。
「キイロ」の永橋彩子ディレクターによると、最近着物に興味を示す若い女性が増えているそうです。なぜなら“インスタ映え”をするから……。納得です。「洋服も面白いけれど、違う自分を発見できるのが着物の面白さ。帯を締めると自然と背筋が伸びますしね」と永橋ディレクター。確かに、帯を締めて新宿の街を歩くと景色がいつもと違って見えました。