リック・オウエンス DANIELLE LEVITT (c) Fairchild Fashion Media
「リック・オウエンス(RICK OWENS) 」は2017年12月15日から18年3月25日まで、ミラノのトリエンナーレ美術館で初の回顧展「RICK OWENS. SUBHUMAN INHUMAN SUPERHUMAN(リック・オウエンス. 人間以下 非人間的 超人的)」を開催中だ。リック・オウエンス自身が展示品の制作から収集まで手掛けたこの回顧展は、ファッション、アート、デザインまで多岐にわたる、リックの20年におよぶライフワークを展示する。
ラクダの毛皮と琥珀色で覆われた椅子などリックがデザインしたインテリア類の展示、ランウエイショーのムービーの上映の他、「リック・オウエンス」の服はマネキンに着せられ展示されている。たちこめる霧が入場者を迎え、リックが手掛けた彫刻が案内してくれるだろう。
回顧展のオープンに合わせて、1000部限定スペシャルボックスカタログを発売した。マルセル・デュシャン(Marcel Duchamp)の「Box in a Suitcase」をインスピレーション源にしたボックスには、書籍や写真集、展示作品に使われた布地、イタリア人アーティスト、タイアット(Thayaht)の作品模型、リックのパーソナルフレグランスなどが収められている。
そんなリックに、米「WWD」が今回の回顧展の背景や仕事、友人関係について聞いた。
WWD:今回の回顧展はどのように構成していったのか?
リック・オウエンス(以下、リック):みんな私に、この回顧展の作品の共通点やストーリーがあるのかと聞くが、私はいつも「あまりない」と答えている。この回顧展には、ただのロジックではない直感的で本能的なロジックがあるんだ。何のストーリーもないよ。最初からストーリーを考えてスタートしていなかったからね。私にとって1番大事なのは、人生の終わりに振り返った時に、私が手掛けたたものすべてがお互いに違和感や逸脱なくつながっていること。だからこの回顧展ではすべてがミックスされている。1つの大きな物であり、1つの大きな主張でもあり、1つの大きなジェスチャーでもある。だからこの回顧展にはストーリーといったものは存在しない。
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回顧展「RICK OWENS. SUBHUMAN INHUMAN SUPERHUMAN」の一部 OWENSCORP (c) Fairchild Fashion Media
WWD:非常に多岐にわたるアーカイブからどうやって展示作品を選んだ?
リック:私のアーカイブはほとんどない。クレイジーな話だが、アーカイブを振り返ってみたときほとんど売ってしまったことに気づいたんだ。「後で必要になると思わなかったのか?」「ブランドが生き残ると思わなかったのか?」とみんなを叱ったよ。だが面白いことに、私がキャリアをスタートしたときにはショーをすることも何も全く考えていなかったことに気づいた。今のデザイナーの多くはアーカイブのことも考えて起業するが、私はそうではなかった。だからアーカイブが必要になるときがいざ来てみると、ある意味笑えた。「アーカイブが必要ないと思うほど自信がなかったのか?ちょっと頭をよぎるほどの自尊心もなかったのか?」とも考えたが、当時は日々を生き延びることで精一杯だったんだろう。
WWD:ではどうやって展示作品を集めた?
リック:多くの展示作品は再制作したものだ。おそらく展示作品の服のうち、20%は作り直して、30%は最近のものだ。だから昔のものはほとんどなく、ほとんどが最近手掛けたものだ。1番手に入れやすかったからね。だが、最近のものをかいつまんで並べてみたら、私のこれまでの仕事をうまく要約していると思った。
WWD:あなたがこの回顧展のために作ったという彫刻について聞かせてほしい。彫刻は何でできている?
リック:コンクリートにつぶしたユリを入れている。それに、ヴェネツィアのビーチで採取したアドリア海の砂も入れた。ヴェネツィアに半年以上住んだことがあり、死んだらヴェネツィアに埋めてもらいたいと思っている。つまり、ヴェネツィアの砂は、私の家の砂なんだ。さらに、私の抜け落ちた髪の毛も入れた。かつて私の髪は太く美しかったが、今や細く、みすぼらしくなってしまった。これはこれで好きだがね。で、変かもしれないが抜けた髪をとっておきたいと思っていたところに、ちょうどよく回顧展で彫刻を制作することになった。だから、この彫刻には私の髪の毛も入っている。
WWD:回顧展が終わったら制作した彫刻はどうする?
リック:今度はどこかに捨てたりしない。パリのショールーム に所蔵するつもりだ。
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回顧展「RICK OWENS. SUBHUMAN INHUMAN SUPERHUMAN」の一部 OWENSCORP (c) Fairchild Fashion Media
WWD:どこか他の場所で展覧会を開催する予定はあるか?
リック:ない。今回が私の人生で最後の回顧展になっても全くかまわないと思っている。私はまだ56歳でこれからも作品を作り続けるし、もしかしたら誰か他の人が開催するかもしれない。だが、誰か他の人に解釈されるのではなく、自分で自分のストーリーを書くことができたのは非常にやりがいがあった。自分自身で自分がやってきたことを定義するには、自分で基準を設定しないといけない。つまり、この回顧展で私は自分の基準を設定したことになる。だからこの基準を設定した後に誰が何をしようと、それは解釈でしかなく、信憑性がないものになるだろう。それはそれでいいし、私は好きだがね。今回、私は自分が好きなように何でもできた。その後のことはどうでもいい。
WWD:この回顧展はかなり強烈で、ミラノの人々が見慣れている展覧会ともずいぶん違ったものになっているが、来場者はどんな反応をすると思う?
リック:正直なところ、人がどう思うかは気にしていない。そのまま好きなように解釈してくれればいい。全てをダイレクトに伝えるつもりはなく、これはただの提案、ジェントルな提案なんだ。これまで「私のやり方が唯一無二だ」なんて言うつもりで手掛けたものは1つもない。だが、これを人生を通して主張してきたことが、私の美学を唯一無二なものにしているのかもしれない。自分の美学を仕事に反映させること、これこそ私が人生を通してやってきたことだ。私は非常に抑圧的で保守的な地域で育てられ、ある1種類の美学を身に付けるように幼い時から強制させられてきた。だからここでは他の選択肢を提案する。代替案ではなく、あくまで選択肢としてね。それに私の仕事は、フレキシビリティーと共感、寛容性、優しさが大きな役割を担っているように、柔軟に受け取ってもらいたい。私の仕事に、終末論的な巨大な闇を垣間見る人は多いが、個人的には終末論というよりユートピアだと思っている。だが、私もドラマが好きだし、ドラマを見出す方が簡単だというのはわからなくもない。それに、ミラノはオペラの街。オペラほどドラマチックものはない。ミラノの人は特にファッションについては手厳しいから、ミラノで受け入れられたらとてもうれしいね。
WWD:友人が回顧展のオープニングを祝いに来ると思うか?
リック:私はミラノに友人がいないし、そもそも友人はあまりいない。私はひどい友人だからね。面倒見もよくないし、誰の誕生日も覚えていない。フェイスブックもやっていないし、インスタグラムも誰もフォローしてない。私は礼儀正しく、すべてに対し寛容だと自負しているが、同時に非常に閉鎖的だ。1人でいるのが快適なんだ。仕事は多いし、1つのものに集中するタイプだから。私には妻のミシェル(Michelle)がいるし、あまり多くを望まないし、刺激も必要ない。だから友人としては最悪なんだ。人との関係を上手に築けない。だが、それでいいと学んだ。今朝、自分に「この居心地のよさから脱却しなければならないか」と問いかけたが、「なぜ?」と疑問に思った。だが、私が自分の居心地のよさを守るのは、仕事に多くを捧げているからだ。私は自分の仕事に対してかなり厳しく、「もっと学ばなければならない。もっと遠くへ行かなければならない。もっとリスクを取らなければならない」と常に自分に発破をかけている。実際、自分がやりたいことに関しては可能な限り深掘りし、裏側へ到達したいと思っている。