銀座メゾンエルメス フォーラムは2018年3月4日まで、人工霧による「霧の彫刻」で知られる中谷芙二子と、その父で科学者の宇吉郎の展覧会「グリーンランド」を開催する。中谷宇吉郎は、1936年に世界で初めて人工的に雪の結晶を作り出したことで知られる科学者だ。宇吉郎は「雪は天から送られた手紙である」という言葉でも有名で、これは、雪の状態を見れば、気温や湿度などの気象状況がわかるということを示している。彼は科学の真理を大自然と人間との協働作業のなかに見出しており、その姿勢は、霧を媒体とした芸術表現を試みる芙二子に、強く影響を与え続けている。
最大の見どころは、窓のない室内で霧の彫刻を披露する点だ。芙二子はこれまで、さまざまな自然条件の中で人工霧を発生させてきたが、室内は今回が3回目、窓がない室内は初めてだという。
12月21日のアーティストトークに登場した芙二子は、窓のない室内で人工霧を発生させる挑戦について、「天井まで届く霧にしたいけれど、天井が濡れては困る。展示室内の空気の流れを考えながら形を維持することが非常に難しかった。外で行う場合も自然を観察し、少しずつ理解し、風で飛ばされないように樹木で風を止めたりと創意工夫は必要だったけれど……」とコメント。また、「自然と向き合う姿勢が基本にあり、自然に対して純粋な興味と謙虚さ、そしてリスペクトがないと自然は話してくれない」と述べる。
展覧会を開くにあたって事前に会場を見た芙二子は、銀座メゾンエルメスの特徴であるガラスブロックを氷に見立て、「ここをグリーンランドにしましょう」……と、本展のアイデアが生まれた。グリーンランドは、宇吉郎が晩年の58~60年に研究のために過ごした地でもある。本展では、宇吉郎がグリーンランドで過ごした部屋を再現。また、その頃パリとマドリードで絵画を学んでいた芙二子が当時描いた太陽や雲といった自然科学的なモチーフの作品も展示する。場所を隔てて響き合う2人の精神を感じ取ることができる。
33年、宇吉郎の次女として生まれた中谷芙二子は、初期の絵画制作を経て66年、ニューヨークで芸術と科学の協働を理念とした実験グループ「E.A.T.(Experiments in Art and Technology)」に参加し、70~80年代は日本を拠点にビデオ作品の制作や発表を行ってきた。芙二子の代名詞ともなった、水を用いた人工霧による「霧の彫刻」は、70年の大阪万博ペプシ館で初めて発表された。以降、世界各地で80作品を超えるインスタレーションやパフォーマンスを手がけている。
■「グリーンランド」 中谷芙二子+宇吉郎展
日程:2017年12月22日~18年3月4日
時間:月~土曜11:00~20:00/ 日曜 11:00~19:00(入場は閉館30分前まで)
定休日:不定休(エルメス銀座店の営業時間に準ずる)
場所:銀座メゾンエルメス フォーラム
住所:東京都中央区銀座5-4-1 8階
入場料:無料