「途中でやめる」はアイドルグループ「でんぱ組.inc」の夢眠ねむが熱烈なファンを自称するなど、一部でカルト的な人気を誇るファッションブランドだ。デザイナーの山下陽光が、近所や東京のリサイクルショップで仕入れた古着を自らミシンを踏んでリメイク。自身のブログとツイッターを通じて告知し、自ら運営するBASEを使ったオンラインショップで販売している。ほとんどのアイテムは販売と同時に即ソールドアウト。卸しはほとんどやらず、ECサイトの他は福岡パルコの「ミツカルストア」と、東京や京都などで不定期に行う直売会のみ。生産から販売まで基本的に1人で全部こなす、“究極の1人SPA“だ。だがデザイナーの山下陽光(以下、山下)は全く儲かっていない。というか儲ける気がないようだ。ファッション業界きってのパンクブランド、「途中でやめる」は一体何を目指しているのか。山下を直撃した。
WWDジャパン(以下、WWD):カットソーは2000円から、スエット3800円、ワンピース6800円、アウターで7800円。デザイナーズブランドとしては破格に安い。その理由は?
山下:価格設定は、自分が買いたいと思った値段で、基本は1万円以下。めちゃめちゃ時間をかけて作ったとしても、4万円なんて言われたら、普通引いちゃうでしょ。服が着たいだけだったら、『ユニクロ(UNIQLO)』の方が安くてしかもメチャクチャ品質もいい。今は『メルカリ』だってあるから、安く買おうと思えば簡単に安く買えちゃうっしょ。
WWD:古着を仕入れてリメイクしているにしろ、この価格設定では儲からないのでは?
山下:そりゃそうでしょ。大変ですよ。毎日死ぬほどミシンを踏んで、内職とお手伝いさん一人にお願いしても1日に作れる服はせいぜい5着がいい方。売りに出してもすぐ売れちゃうから、作っても作ってもきりがない。この値段だから、全然儲からない。
WWD:すぐに売り切れるなら、もっと高くすればいいのでは?
山下:さっきも言ったけど、自分で欲しいと思う値段よりも高いのは、こっちの都合でしかないじゃん。今でも月に200〜300着作っているので、韓国の工場に発注だせるかもだけどね。でもそれをやったら、面白くないっしょ。
WWD:服のデザインのやり方は?
山下:「ヴォーグ(VOGUE)」から「スイート(SWEET)」まで、ファッション誌にはだいたい目を通してる。コンビニで立ち読みしたり、買ったりして。なのでけっこうトレンドは意識してる(笑)。まあ言ってみれば「途中でやめる」は、「ヴォーグ」「キャンキャン(CanCam)」に出てくる服の劣化コピーだね。
WWD:高円寺のアンダーグラウンドな古着カルチャーの火付け役にもなった古着屋の「素人の乱」を2005年にオープン。当時はどうだった?
山下:「途中でやめる」はバイトを止めて自分の好きなことを仕事にしたくてスタートした。でも自分の作った服をいろんなお店に持って回って営業したけど、全く売れないから、じゃあ自分でお店やればいけんじゃねえか、と思って「素人の乱」を作った。けど本当、マジ売れなかったね。2011年に震災があって反原発デモで忙しくて、『素人の乱』なんてやってる場合じゃねえってお店を閉めたら、溜まってた半年分の家賃が払えちゃったし。服が売れるようになったきっかけは、「素人の乱」を閉めた直後くらいにパルコが運営するECのセレクトショップ『クリエイターズマンション』のバイヤーで、「ボコ(凹)」のオーナーだった吉成佐恵さんが声をかけてくれて、「クリエイターズマンション」と福岡パルコの「ミツカルストア(MEETSCAL STORE)」に置いてくれるようになってから。信じられないくらいものすごい勢いで売れまくったなあ。
WWD:「素人の乱」時代には全品無料のイベントをやったり、ユニクロの店舗のすぐそばで「ユニクロ」のアイテムをリメイクして、さらに安い価格で売ったりしていた。なぜそんなことを?
山下:当時はそれが面白いと思ったんだよね。でも今は服でそこまで面白いことをやってもしょうがない。この1年は特にそう感じている。若い子は、“服を買う”っていう行為自体が全然楽しくなくなっちゃってんじゃないかな。今一番売れているのはECで、今は直売会でも昔のような勢いはない。正直ECだけやっていれば価格は下げられる。直売会をやるとその期間、服が作れなくなるし、旅費だってかかるので。
WWD:服が売れなくなったら、どうする?
山下:今服が売れてんのは、少なくとも信頼されてるからじゃないかな。これは俺に限った話じゃないけど、例えばツイッターで『PC壊れて困っている』ってつぶやいたら、今の時代たぶんもらえるっしょ。それと同じように、お金に困ったって言ってもくれるんじゃねえかな。