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衣装スタイリストが明かすヒット作「南瓜とマヨネーズ」ができるまで

 全国で公開中の映画「南瓜とマヨネーズ」は、メーン館の新宿武蔵野館で、2017年に上映された邦画作品の中で興行収入第1位を記録したヒット作だ。魚喃キリコの同名漫画を冨永昌敬・監督が映画化した。主演の臼田あさ美をはじめ、太賀、光石研、オダギリジョーら出演者の劇中衣装を手掛けるのはスタイリストの加藤將(以下、加藤)だ。ストーリー上、洋服が重要な役割を持つ同映画での仕事について聞いた。

WWDジャパン(以下、WWD):この映画の衣装を担当することになった経緯は?

加藤:冨永監督からオファーをいただきました。2000年前後に、原作者のキリコさんと連日飲み歩いていた時期があって、その頃に紹介されて冨永監督に出会いました。数年後、相対性理論の「Q / P」のPVで初めてご一緒して、その後は2年に1回のペースで冨永監督の映像作品を担当させてもらっています。実は11年にも映画化の話があって、冨永さんともキャストや衣装の話をしていたのですが、その時は結局流れてしまいました。

WWD:映画のスタイリングは雑誌のスタイリングとは違う?

加藤:雑誌や広告では、足元から頭までシューズやアクセサリーも含めてスタイリングしますが、映画やテレビドラマのスタイリスト=衣装部は基本的に洋服のみを担当します。シューズやアクセサリーは、モチ道具さんと呼ばれる別の部が準備するのが一般的です。ただ、衣装とのバランスや衣装の持つ意味を考えて、主要キャストのシューズは僕が準備したり、指定させてもらっています。本作だと、ツチダ(臼田あさ美)、せいいち(太賀)、ハギオ(オダギリジョー)は、自分で持ち込みました。

WWD:映画の場合、登場人物の動きもある。

加藤:スチール撮影だと、よく背中側の洋服をピンチでつまんだりしますが、映画だとそれができませんね。撮影は台本通りに時系列順に進まないので、事前に台本を読み込んで細部まで把握しておくことも重要です。僕は妄想が好きなこともあって、台本に書いていないところも含めて登場人物のキャラ設定をしています(笑)。台本に合わせて各キャラクターに対して20パターンくらいコーディネート案を作ります。その後、キャラクターの並びを考慮して、色合いや日替わりを調整していきます。実際に役者さんと衣装合わせをして、ロケ地や背景との映え方を見て、監督と共に最終決定します。

WWD:衣装はどのようにそろえている?

加藤:今回でいうと「チャンピオン(CHAMPION)」「ヘインズ(HANES)」のようにプレスルームを通す場合ももちろんありますが、新品だと場面の雰囲気に合わないケースもあります。なので日頃から、今後使えそうな洋服はメンズ、ウィメンズを問わずストックしています。古着は店だけでなくベール(古着屋が買い付けをする倉庫)に行って見つけてきたりもします。本作で川内(大友律)が着ている衣装は海外のベールで仕入れたものです。ブランドのアイテムでも、来年は出なそうなデザインだと思えば買い取りますし、本決まりになっていない企画の衣装もあらかじめストックしています。

WWD:衣装を準備する登場人物はどの範囲まで?

加藤:エキストラさん以外の全キャラクターです。エキストラさんでも、劇中で意味を持ちそうな役には衣装を準備します。ツチダや可奈子(清水くるみ)が働くキャバクラ「レモネード」のユニホームは自前で作りました(笑)。

WWD:主人公ツチダの服装はどういう設定?

加藤:おしゃれに興味があるけれど、あまりお金を持っていないのでハイブランドには手を出さない。色気を内側に秘めた等身大の女性をイメージしています。衣装合わせでは、臼田さんからもあまり高価なブランドは嫌だという意見をもらいました。そうしたバランスを考慮しつつ、その中でも色味やシルエットの良いものを選んでいます。別の日の設定で、何度か同じ洋服を繰り返し着せているのですが、ツチダの経済事情を想像して、監督とどれくらい衣装を使い回すかを決めました。よく見るとシューズだけ違っていたりします。

WWD:せいいちやハギオの服装は?

加藤:せいいちは部屋着と外着の区別がないフリーター風の格好。Tシャツやスエットを着せて、設定上デニムパンツははかせていません。みなさんの周りにもいるかもしれませんが、ハギオは友人から洋服を“借りパク”していて、年中ビーサンを履いているような得体の知れないキャラクター。

WWD:バンドメンバーの洋服がオン&オフで様変わりするが?

加藤:メジャーデビュー後にバンドメンバーにスタイリストが付いたという設定にしました。レコード会社との契約前はみな自前の衣装という体で、契約後はちゃんとシャツを着るようになります。田中(浅香航大)は父親の影響を受けていて、父親と同じ洋服屋で服を買い、おじさんっぽいスタイルを愛しています。寺尾(若葉竜也)は年中ジャージー姿で、スポーツショップで完結するズボラな性格。バンドメンバーが女性たちとバーベキューをするシーンがあるのですが、バーベキューをやると知らずに異性との出会いを求めて来た女性には、バーベキューの場には合わない金色のワンピースを着せてちぐはぐ感を演出しています。

WWD:バンドメンバーの川内が着ていたクマのセーターが忘れられない(笑)。

加藤:冨永さんは川内みたいなキャラをいつも1人は仕込んでくれるんです。今回は大友くんの衣装でやりたい放題やらせてもらいましたが、思っていたほどはっちゃけてくれませんでした(笑)。

WWD:ツチダがせいいちのスエットの匂いを嗅ぐシーンの真意は?

加藤:答えはみなさんの心の中にあると思います。象徴的なシーンなので、撮影直前までスエットの色を決めかねていて、ギリギリでグリーンのパーカからグレーに変更しました。ハギオと会うようになるにつれて女性的なワンピースを着るようになるなど、実は洋服にツチダの心境の変化が映し出されています。

WWD:原作があるがゆえの難しさは?

加藤:携帯電話が普及していない、原作が発表された当時の雰囲気を残しつつも、オンデマンドで数年後に見る人たちにも新鮮に映るものにしたかったんです。原作ではベルボトムのパンツが出てきますが、すぐさま監督とキリコさんに連絡して、ベルボトムははかせないと宣言しました(笑)。キリコさんの作品は、例えばグラスの水が減ったとか、絵の些細なポイントから時間経過や感情が伝わってくる。原作にあるそうした感覚を意識して衣装を組み立てていきました。

WWD:映画衣装で特にこだわっているのは?

加藤:どこまで洗いをかけるかですね。せいいちが働く八百屋のエプロンは20回以上洗濯しています。あとは、ツチダとせいいちの出会いのきっかけになる衣装をスタッフみんなで考えましたね。映画や音楽で共通な趣味を持っていると2人の間がぐっと縮まりますよね。それでプリントTを着せようということになり、MCハマー(MC Hammer)やらタトゥー(t.A.T.u.)やらたくさんの案を出してもらって行き着いたのが「仁義なき戦い」。ツチダには「仁義なき戦い 代理戦争」の成田三樹夫、せいいちには「仁義なき戦い 頂上作戦」の金子信雄。そうそう着ている人はいないと思いますが、ツチダはライブハウスで汚れてもいい服として、せいいちはパーカの下に着ているので自然ですよね(笑)。

WWD:最後に、「南瓜とマヨネーズ」の見どころは?

加藤:これから観る方、すでに観た方、興味のない方、みなさんに届ける魔法の言葉を探しましたが出てきませんでした(笑)。見どころは全部!全部に愛情が詰まっているので。

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