ファッション

ウエアからジュエリーへ転向 比類なきシャルロット・シェネのクリエイション

 ブランド立ち上げからわずか2年足らずで、世界中の有力店に卸す人気急上昇のジュエリー・ブランドが「シャルロット・シェネ(CHARLOTTE CHESNAIS)」だ。特有の有機的なフォームと、一見どう着けていいかわからないパズルのようなデザインが特徴で、店頭でも売り切れ品薄の状態が続いている。ロンハーマン(Ron Herman)でポップアップショップを開くために来日したシャルロット・シェネ(Charlotte Chesnais)デザイナーに、クリエイションについて話を聞いた。

数独(算数のゲーム)をやって寝るのが日課でした(笑)

WWDジャパン(以下、WWD):DNAのようにも見える有機的な曲線が印象的だが、その曲線はどこから?

シャルロット・シェネ(以下、シャルロット):インスピレーションを花や星のようなところに求めていません。アブストラクトなものを表現したいという気持ちがあります。もともと彫刻が好きで、中でもバーバラ・ヘップワース(Barbara Hepworth)やヘンリー・ムーア(Henry Moore)、コンスタンティン・ブランクーシ(Constantin Brancusi)の作品がとても好きです。彼らは同じ時代、1920~30年代にアブストラクトアートを始めています。それまでは基本的に具象的な絵画や彫刻が多かった。でも写真技術の登場で、物を映像としてとらえることができるようになった。アーティストたちはそのタイミングで、「現実とは違うものが表現できる」と、抽象的な表現に進んで行きました。私はここが本当に面白いと感じていますし、アート界にとっても革命だったと思うんです。そういった彼らのマインドに影響を受けていますし、それに通ずるようなものを作ろうと思っています。

WWD:物理や数学も好きだとか。先ほどのアート的感覚だけではなく、数学や物理的な感覚もあったりする?

シャルロット:数学は好きです。だからその感覚はあるかも。18歳の頃は、数独(算数のゲーム)をやって寝るのが日課でした(笑)。ジオメトリックなデザインも好きです。私のジュエリーは一見するとどう着けていいかわからない、着けた時のイメージが描きづらいものが多いのですが、形を作ったとき、私には人が身に着けたらどう見えるかということも自然と見えてきます。もともと、ロジカルな考え方をするのですが、ジュエリーも身に着けた時のイメージを計算しながら作っています。

クラシックさとアナトミック(解剖学的)な感覚があるジュエリーを

WWD:一見どうやって着けるかわからないという意味では、意表を突く、人を驚かせるということを楽しんでいるようでもある。

シャルロット:もちろん。皆さんを驚かせるということも楽しんでいます。驚かれる方はモノに対して興味を持ってくれる。だから、試着していただけるんです。日本はそういうマーケットだと感じます。一方で、着けることに抵抗を持つ可能性もある。だから、ピースとして強さも必要だけれどバランスで見ながらやり過ぎず、私らしいデザインを心がけています。モダンという言葉は使いたくなくて……。クラシックさがあり、アナトミック(解剖学的)な感覚で見ていただけるようにと常にバランスを考えています。

WWD:モダンという言葉を使わなかったのはなぜ?

シャルロット:“今らしさ”という意味合いになってしまうから。そういう意味にはしたくなかったんです。タイムレスでありたいから。

WWD:大学は数学科に入学。そこからジュエリー・デザイナーは結びつかない。

シャルロット:大学は6カ月で飽きてやめました。当時からとてもファッションに興味があったので、ファッションスクールに2年間通い、卒業後の2006年に「バレンシアガ(BALENCIAGA)」のプレタポルテのデザインチームに入りました。

WWD:06年というと「バレンシアガ」は二コラ・ジェスキエール(Nicolas Ghesquiere)時代――特に彼のクリエイションが伸びやかだった時期だが。

シャルロット:当時、チームは他に4、5人デザイナーがいるとても小さなものでした。ポジションというのもなく、みんなが協力し合ってコレクションを手掛けていました。ジュエリーを作るきっかけは09年のこと。ニコラから「大きなバングルを両腕につけてショーをやりたいからジュエリーをデザインしてくれないか」と頼まれたことでした。そこから15年に辞めるまでは、プレタポルテとジュエリー、どちらも手掛けていました。

WWD:15年というとニコラも「バレンシアガ」を去るタイミングだ。

シャルロット:そうですね。彼が「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)に行ったのに私が残るのも違うと思ったから。

WWD:一緒に「ルイ・ヴィトン」に行くという選択肢もあったと思うが。

シャルロット:一緒に行くこともできたけれど、ジュエリーのポジションはなかった。もしついていったらプレタポルテに専念しなくてはならなかった。私はジュエリーを続けたいという思いがあったので、フリーランスで他のブランドのジュエリーデザインを始めました。でも、どのブランドもクリエイティビティーに欠けていて面白くなった。友人に文句や愚痴を言っていたら、「だったら自分で始めればいい」といろんな人から言われ、それがブランドを立ち上げるきっかけになりました。そして、ジュエリー・ブランドはすでにたくさんある。だからこそ、他の人とは違う、ただ美しいだけではなく自分らしさを表現できるものを作ろうと思いました。

WWD:「バレンシアガ」で得たクリエイティビティーは?

シャルロット:一番学んだのはクリエイティブに向けていくプロセス。「バレンシアガ」時代は誰もスケッチを描かず、みんなすぐ試していく気持ちが強かった。立体裁断だったり、写真を撮ってひっくり返してみたりと、常にエモーショナルだった。スケッチがあるとフラットになってしまうから。現在も、ジュエリーをデザインするときに簡単なデザイン画を描きますが、描いたらすぐに一緒に仕事をしている職人のところに持ち込みます。3Dのイメージを作ったり、溶かして型に入れてみたり。そういった工程から良いクリエイションができていると感じます。

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