「ヴァレンティノ(VALENTINO)」「ジミー チュウ(JIMMY CHOO)」などでアクセサリーデザイナーとして経験を積んだアルヴァロ・ゴンザレス(Alvaro Gonzalez)が、2018年春夏から自身のブランド「アルヴァロ ゴンザレス」を日本で本格的に展開する。ディストリビューターはブルーフィールドジャパン。主力製品はサンダルで、中心価格帯は5~7万円。2014年にオンラインECサイト「ミスターポーター」で発売したファーストコレクションは2週間で完売した。翌年からはウィメンズもスタートし、リゾート地の顧客を中心に支持を広げている。
WWDジャパン(以下、WWD):これまでのキャリアについて教えてください。
アルヴァロ・ゴンザレス(以下、ゴンザレス):スペインで生まれ、ロンドン、イタリアと拠点を移してきました。仕事を始めたのはイタリアで、「ダナ キャラン ニューヨーク(DONNA KARAN NEW YORK)」や「カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)」などのバッグやシューズをデザインする会社に勤務し、その後1995年から98年まで「ヴァレンティノ」で働きました。勤務地はローマでしたが、より職人と近い距離でモノ作りがしたいと思い、フィレンツェに移りました。そこからはフリーランスで「トッズ(TOD’S)」や「マックスマーラ(MAX MARA)」「カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)」「ロエベ(LOEWE)」などのアクセサリーデザインを手掛けてきました。
WWD:「ジミー チュウ」でも働くようになったきっかけは?
ゴンザレス:2002年に「ジミー チュウ」のバッグコレクションがローンチするタイミングで声が掛かったんです。(ブランドの創設者で当時チーフ・クリエイティブ・オフィサーを務めていた)タマラ・メロン(Tamara Mellon)と食事をして、彼女のパーソナリティーに魅力を感じて、10年間一緒にビジネスをやりました。2002年から4年間はフリーランスでしたが、その後の6年間はインハウスでバッグデザイナーとして勤務しました。当時は4人しか従業員がいなかったので、10年でとても大きな規模に成長しましたね。
WWD:自分のブランドを立ち上げた経緯は?
ゴンザレス:当時オンラインECサイトの「ミスターポーター(MR PORTER)」の開始に向けてバイヤーが買い付けを始めていて、夏に私の家でディナーをしました。その時に私は自分で作ったサンダルを履いていて、アトリエにあるレザーや自分で作ったベルトなども見せました。そこでバイヤーから「ぜひシューズを作ってほしい」と依頼を受けました。6種類で計600足製作しましたが、2週間で売り切れました。
WWD:その後、ウィメンズも立ち上げましたね。
ゴンザレス:その年の8月にパートナーのニックと結婚してパーティーを開くことにしたんです。その時にドレスコードをブラックタイとサンダルにしようと決めました。メンズはもちろん、ウィメンズのサンダルも特別に作りました。その時にパーティーに来てくれたキャロライン・イッサ(Caroline Issa)=「タンク(TANK)」CEO兼発行人や、ファッションジャーナリストのJ・J・マーティン(JJ Martin)といった業界人が、翌月行われたNYファッション・ウイークでそのサンダルを履いてくれて。ああいう場所にはスナップのカメラマンがたくさん集まっているから、そこで話題になってウィメンズも立ち上げることにしました。
WWD:メンズ、ウィメンズ共にサンダルをメーンに展開しているのはなぜ?
ゴンザレス:サンダルはシンプルなプロダクトだからです。シンプルであることは非常に重要。シンプルだからこそ、幅が広がります。僕のブランドで大事にしているのは、レザーの風合いを極力生かすことです。染色も、地のムラが透けて見えるくらいのナチュラルさにこだわっていて、シルエットもシンプルでスマートに見えるように意識しています。
WWD:ブランドを始めてからどんな変化がありましたか?
ゴンザレス:最初はとてもミニマルなデザインにこだわっていました。でもそのうちにお客さんからもっとプレイフルなデザインを求められるようになって。自分もそういうデザインは好きなので、今はミニマルとプレイフルの間のバランスを楽しんでいます。
WWD:2018年のコレクションもデコラティブなものが多いですね。
ゴンザレス:そうですね、そういうムードが求められていると思います。わくわくするような新しいものを求めている人が多いと感じます。今のファッションシステムでは2月から店頭に春夏ものが並ぶけれど、例えば日本ではサンダルを探してやって来るのは5月のゴールデンウイークの時期。その時期に豊富な商品が店頭に並んでいることが重要です。米国の店舗で10月や11月に商品が並んでいれば、ホリデーを暖かい土地で過ごす人たちがサンダルを買いに来てくれます。これは僕の実体験ですが、8月のマイアミで服を探そうとしてもコートしか売っていなかったりすることもある。消費者のニーズに全然応えられていないんです。その意味で、プレフォールやフォールといったシーズンは僕たちのブランドビジネスにとって非常に重要です。リゾート地の小さなショップでも、継続して買ってくれる方がとても多いのが私たちのブランドの特徴です。
WWD:今まで働いたブランドでどんな学びがありましたか?
ゴンザレス:それぞれのブランドでたくさんのことを学びました。一言で言えば……そうですね、「ヴァレンティノ」では“ラグジュアリー”を学びました。在籍していた3年間にクチュール、プレタポルテ、ライセンスと全てのアクセサリーのディレクターをして、とてもハードな仕事でしたが、すごく新鮮でした。学生の頃には全く知らない世界とマーケットだったので、とても興味深くて素晴らしい体験でした。その後、「トッズ」ではブランディング、「ジミー チュウ」では、新商品発売のタイミングや販売戦略などブランドの広げ方を学びました。あと創設者のタマラはいつも、店舗はリビングのようでなくちゃ、と言っていました。心地よい空間であることがとても大切だと。
WWD:将来どういうブランドにしていきたい?
ゴンザレス:最終的には“ラグジュアリーリゾート”ブランドとしての地位を確立したいですね。でもまずはブランドの地固めをしっかりとしていきたい。2008年に世界的な経済危機が起きて、2000ポンド(約30万円)のバッグを買う人たちが999ポンド(約15万円)のバッグを買うようになりました。毎シーズンバッグを買っていた人たちが、数年に1度ですませるようになった。それを見て、真摯に丁寧に製品を作っていくことが自分の精いっぱいできることだと痛感したんです。今は、商品の幅を広げ過ぎないことが大事だと思っています。実は僕は、業界ではバッグデザイナーとしての方がよく知られています。「ジミー チュウ」でもバッグのデザイナーでしたしね。だからサンダルのブランドを立ち上げた時、周りには「バッグじゃないの?」と驚かれました。最初のコレクションが好評だったから今はシューズにフォーカスしているけれど、いずれはバッグコレクションも発表するつもりです。でもそれは今じゃない。まずはサンダルのブランドとして定着させて、満を持してのタイミングで発表します。
WWD:最近はサステイナビリティーやエコといった観点から、ラグジュアリーブランドをはじめ毛皮や天然皮革を使わないブランドも増えているが、それについてどう考えていますか?
ゴンザレス:サステイナビリティーという観点では、天然素材を使うのが一番環境に優しいと思います。プラスチックが環境には一番良くないですよ。天然皮革は使えば使うほど、表情が変わって味が出てきますし、それだけ長く使い続けることができます。ラグジュアリーを追求するなら天然素材を使うべきだと思いますね。私たちは、クロコダイルのしっぽとか、エイとか、シルク、コットン、七面鳥の羽根など、天然素材しか使っていません。クロコダイルのしっぽは通常、破棄される部分ですが、取り扱い方法を分かっているから素材として使用できます。ブランドアピールのためにラグジュアリーを安売りするのはナンセンスだと思いますね。