ファッション

箱根で激突したランニングシューズの“厚底 vs 薄底”論争の行方

 1月2、3日の2日間にわたって東京〜箱根間を往復する新春の風物詩、第93回「東京箱根間往復大学駅伝競走(以下、箱根駅伝)」が開催された。青山学院大学(以下、青学大)が大会新記録の10時間57分39秒で4年連続4度目の総合優勝を果たした。4連覇は史上6校目。往路優勝の東洋大学(以下、東洋大)は総合2位で、10大会連続の総合3位以内を達成した。

 開催前から注目されていたのは、大会成績もさることながら、シューズのアウトソールの厚みがタイムにもたらす影響だった。アウトソールは薄く軽くというのがこれまでのレース用シューズの常識とされていた。ところが「ナイキ(NIKE)」は、2017年春にフルマラソンで2時間切りを目指すランニングシューズ“ズーム ヴェイパーフライ 4%”を発表。“厚さは速さだ”のキャッチコピーを掲げ、業界をざわつかせた。

 だが、そうした業界内の革命的な動きとは別に、年末には多くの人たちがテレビドラマ「陸王」の薄底シューズの物語に涙していたはず。実は劇中で実業団ランナー役を務めた竹内涼真が、ドラマの練習のために身を置いていたのが青学大の陸上競技部だった。「アディダス(ADIDAS)」とスポンサード契約している青学大の選手たちは、“アディゼロ タクミ セン ブースト”を着用して今回の箱根駅伝に挑んだ。“ズーム ヴェイパーフライ 4%”と比較すると格段にアウトソールが薄い。対する「ナイキ」とスポンサード契約を結ぶ東洋大の選手たちの足元は新色ブルーの“ズーム ヴェイパーフライ 4%”だった。

 大会開催前から、SNS上でも戦いは始まっていたようだ。12月24日に「陸王」の最終回が放送されると、「ナイキ」の公式ツイッターアカウント「Nike Running(@nikerun_jp)」は「真の陸の王たちは、厚さを選び、世界中で勝ち続ける」と薄底シューズへの対抗心を示唆する一文を投稿。すると、30日には青学大陸上競技部の公式ツイッターアカウントは、チーム「陸王」からの応援メッセージ入りの横断幕を広げた選手団の写真を感謝の言葉とともにアップした。

厚底シューズを着用した選手の結果は?

 初日の往路は、第1区の西山和弥・選手が区間賞を獲得するなど、下馬評を覆して東洋大が青学大を抑えた。“ズーム ヴェイパーフライ 4%”は、厚底ゆえ着地に変化をきたし、ランナーのフォーム改革が必要になることが懸念されていた。東洋大の往路優勝は、1年未満の準備期間にもかかわらず、厚底シューズの採用が功を奏したかのように見えた。

 だが2日目の復路では一転、6区の山下りで青学大の小野田勇次・選手が東洋大を抜くと、続く青学大ランナーらも1位でたすきをつないで、強さを見せつけた。復路の青学大のチーム力と個々の強さを目の当たりにすると、東洋大のシューズ変更にかけた準備期間は短かったのではないかという疑問が残る。全10区間のうち、“ズーム ヴェイパーフライ 4%”を着用した選手の区間賞は1区、3区、10区で全て東洋大。青学大は2区、6区、7区、8区で区間賞を獲得し、7区の林奎介・選手は区間新記録をマークした。

 大会終了後に、「陸王」の公式ツイッターは「これをもって、陸王は、正真正銘の有終の美、です」と青学大の総合優勝を称えた。箱根駅伝では、ひとまず薄底シューズに軍配が上がったと言えるだろう。ただ、駅伝がチーム戦であることや、険しい箱根のコース条件、フォーム改革の短い準備期間を考慮すれば、論争に決着をつけるのはまだ早い。実際、17年4月のボストンマラソンで3位入賞した大迫傑・選手、17年9月にハーフマラソンで日本新記録をマークした設楽悠太・選手らは“ズーム ヴェイパーフライ 4%”を履いてこれらの好成績を上げた。厚底ランニングシューズの台頭は、薄底シューズのさらなる開発にとっても間違いなく刺激になる。このアウトソール論争が、数々の新記録が生まれるターニングポイントになるかもしれない。

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