朝晩の冷え込みが一段と厳しいこの頃ですが、ファッション業界では2018年春夏シーズンのアイテムが続々と立ち上がっています。気の早い人は、ブランドの最新ルック写真をチェックしながら、狙っているアイテムの入荷連絡を今か今かと待っているのではないでしょうか。
ブランドにとってルック写真はシーズンの世界観を表現し、大切な顧客との間をつなぐ大切な宣伝材料です。特にランウエイショーを行わないブランドにとっては、ルック写真の出来栄えひとつで展示会の売上高が変わるといっても過言ではありません。だからデザイナーたちは信頼できるフォトグラファー、スタイリスト、ヘアメイクなどをそろえ、場合によっては自身でモデルのブッキングやギャラ交渉も行います。そんなブランドの汗と涙の結晶がルック写真には込められているのです。ここでは、18年春夏シーズンで特に印象的だった国内メンズブランドを3つ紹介します。クールなビジュアルからちょっと変わったシチュエーションのものまで、一度見たら忘れられない作品ばかりです。
SULVAM18年春夏シーズンにミラノメンズでランウエイショーを行った「サルバム」ですが、パリ在住のフォトグラファー、ベンジャミン・デベルト(Benjamin Deberdt)を起用して新たにルック写真を撮影しました。スタイリングはショーと同じく猪塚慶太が手掛けており、モデルにはスケーターのスコット・ボーン(Scott Bourne)やヴァル・バウアー(Val Bauer)などを含む、個性的な10人が登場しています。パリのストリートを巧みに切り取るデベルトのセンスと、藤田哲平「サルバム」デザイナーの大胆で繊細な感性を帯びたウエアが融合し、瞬時に「かっこいい!」と思わせる力のあるビジュアルを完成させています。一度ランウエイでコレクションをしっかり見せられたからこそ、感性に委ねたムード重視のルック撮影に挑戦できたのかもしれません。なお「サルバム」は1月14日の現地時間17時に、再びミラノメンズでショーを行います。
あれ?この画像、切り抜き作業の途中?と錯覚してしまいそうなのが「ネオンサイン」のメンズのルック。この斬新なフォトショップ風の背景について問い合わせてみたところ「18年春夏シーズンは“工業製品の美学”がコンセプト。今っぽいインダストリアル感を表現するために、フォトショップの背景を使った。時代のムード的に、真剣に作った服を直球で見せるよりも、真剣にふざけて見せる方が合っている。だからあえて画像を加工している途中のような遊び心を加えた」と林飛鳥デザイナー。撮影は水谷太郎、スタイリングは高橋ラムダと国内トップクラスのクリエイターたちをそろえました。ちなみに「WWDジャパン」スタッフがコレクションマガジン「ファッションニュース」編集作業中にこのルック画像を使おうとしたところ、印刷所から「あの、これは切り抜けということですか?」とツッコミを入れられたのだとか。
ENHARMONIC TAVERN「エンハーモニック タヴァーン」はなんといってもこのロケーション。犯人でも追い詰めたのかと思うほどの“崖感”が強烈なインパクトです。しかもよく見てください――1ルックごとに微妙に場所を変えているんです。これは相当大変だったに違いないということで、デザインチームに撮影の裏話を聞いてみました。「岩場を選んだ理由は、第一印象で見た人の脳裏に強烈に焼き付いてほしいと思ったから。元気がない今の世の中に対して力強さを打ち出せるビジュアルにするために、山を越え、断崖絶壁を降りていかないとたどり着けない岩場まで行った。当時は真夏だったので、撮影中はスタッフ全員が汗まみれ。何度崖の上と下を服を持って往復したか……。間違いなく今までで一番過酷なロケだった」と振り返ります。やはりブランドの考えをビジュアルで伝えるために、影でいろいろな人が努力をしているのがわかりますね。なおこの岩場は、火曜サスペンス劇場の撮影でもよく使われているそうです。