2017年、メルカリやLINE、ドコモといったIT・通信企業が相次いでシェアサイクル事業への参入を発表した。内容はどれもアプリを活用して利用可能な近くの自転車を探すというものだ。メルカリでは子会社のソウゾウが事業を担当し、LINEは中国でシェアバイク事業を運営するモバイク(mobike)と業務提携を行う。
これら企業に共通するのは、圧倒的なユーザーを持つということだ。メルカリはすでに国内6000万ダウンロード、LINEも国内7100万人が利用するアプリへと成長した。ドコモは携帯契約数だけでも7000万を超えており、全ての企業が国民の半数近くを囲っていることになる。加えて、これらIT企業は自社でアプリ開発や決済機能など、自転車と設置スペース以外のツールを持っており、自転車への初期投資こそ必要だが、参入へのハードルは決して高くない。
シェアサイクル事業が広がりを見せる背景には、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けた交通網の混雑緩和という目的がある。今後さらなる混雑が予測される電車・自動車に代わる移動手段として、期待が高まるからだ。また、自転車に位置情報、IoTなどのテクノロジーを応用することで、その使用状況を把握し、設置場所の最適化や個人の移動データの活用といった巨大ビジネスへつながることも容易に予測できる。
ただ、だからこそ首都圏以外で浸透するのか、という疑問は拭えない。首都圏でも、通行の邪魔になるといったクレームや自転車と駐輪場の管理にある程度のコストがかかるといった課題はある。参入を断念したDMM.comの亀山敬司・会長も、「放置自転車公害をカバーするための駐輪場数を確保できなかった」と話している。その点では、すでにある程度のノウハウを持つモバイクと組んだLINEが有利とも考えられる。モバイクは15年に創業し、現在では世界200以上の都市で8000万台のシェアサイクルを展開。1日の利用回数は世界で3000万回以上という。
ちなみにファッション・ホテル業界では、こうしたテクノロジーとは別軸で、“ライフスタイル”“アウトドア”といったトレンドの延長として、自転車自体への関心が高まっているようだ。THINK GREEN PRODUCEは代官山・東横線跡地に建設予定のホテルにレンタルサイクルを併設したカフェを設置する他、アトレは茨城県・JR土浦駅に「プレイ アトレ(PLAY ATRE)」なる日本最大級の“サイクリングリゾート”をオープンする。「ディオール オム(DIOR HOMME)」や「バレンシアガ(BALENCIAGA)」といったメゾンブランドは限定の自転車まで発売している。“IoT”“シェアリング”といったテクノロジー軸と“ライフスタイル”“アウトドア”といったファッション軸。今年はその両軸で、自転車ビジネスを考えてみたい。