アレッサンドロ・ミケーレ「グッチ」クリエイティブ・ディレクター:1972年ローマ生まれ。ローマのファッションアカデミーで学び、「フェンディ」でシニア・アクセサリー・デザイナーを務めた。2002年にトム・フォード率いる「グッチ」のデザインオフィスに参加。06年にレザーグッズのデザイン・ディレクターに就任し、11年にアソシエイト・クリエイティブ・ディレクターに。15年1月から現職。インスピレーション源に囲まれて撮影 PHOTO BY PETER SCHLESINGER / WWD (c) Fairchild Fashion Media
「グッチ(GUCCI) 」にアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)=クリエイティブ・ディレクターが就任して、早くも3年が経とうとしている。フリーダ・ジャンニーニ(Frida Giannini)の後任として、舞台裏から影響力の頂点へと駆け上がった彼は、クリエイティビティーの力を信じて彼を抜てきしたマルコ・ビッザーリ(Marco Bizzarri)社長兼最高経営責任者(CEO)と共に改革に取り組み、ファッション界に大きなインパクトを与え続けている。エキセントリックなコレクションへのアプローチからファー使用廃止の理由まで、米「WWD」がミケーレの考えに迫った。
WWD:まず皆が触れようとしない2018年春夏のショーの話を聞かせてほしい。服自体が問題ではなかったが、暗闇にたいたストロボのせいで服がよく見えなかった。
アレッサンドロ・ミケーレ「グッチ」クリエイティブ・ディレクター(以下、ミケーレ):言わんとしていることはよく分かる。というのも、私がやっていることを説明するのは非常に難しく、明快ではないこともよくある。でも、問題だとは思っていない。それが自分の仕事のやり方であり、自分自身や自分のビジョンを表現する方法だからね。そういう意味で私は完全に自由だし、あなたが意見を持つのも自由だ。
今回のショーに関して言うと、自分の視点を表現するために霧を使った。フェデリコ・フェリーニ(Federico Fellini)の映画のように、この世に存在しないものを表現するための叙情的な手法だからね。雲や霧の中からはどんなクレイジーなものが現れることもありうる。そして、現実ではないどこかにいるような感覚にもなる。ファッションショーにしてはライトが時々強すぎたというのはもっともだし、その理由を理解しがたいということも分かる。だけど、それがファッション業界人やショーを見たいと思っている人に私が言いたいことを理解してもらうためのパーソナルな方法だった。
何でも見たいときにインターネットで見られる時代を生きているから、私自身、全てをくっきりと見せることにあまり興味がない。それよりも何かを感じ取ってほしいんだよ。ただ、来シーズンは全てをはっきりと分かりやすく見せることもあるかもしれない。でも、18年春夏に関しては、この世に存在しないようなムードを作りたかったし、そのために霧が役に立った。
WWD:この世に存在しないような空間を作るというのは、常にあなたの中にある哲学か?それとも、今この瞬間だけのものか?
ミケーレ:正直、ほぼいつも自分の中にあるものだと思う。現実に存在するのか分からないものに惹かれる私にとって、クリエイティビティーの最高の表現は、そういうものを見せることだ。そして、「アンリアル」や「イリュージョン」という言葉はポエムのようなもので、触れられないけれど、魂を感じることはできると思う。
WWD:ショー前の記者会見では、服はアイデアを説明することを助ける架け橋のようなものだと語っていた。そして、フィレンツェではエキセントリックさは偶発的なものではなく、アイデアを伝達しやすくするものと話していたが?
ミケーレ:コレクションの服はいわば映画の衣装のようなもので、着る人の人柄や感情を理解させてくれる。服自体や外見に語らせることが好きなんだ。顔と服や、心理状態と見た目、着る色とそれがもたらす感情の変化といったように、常にいろんな議論がある。そしてエキセントリックさは、そこに制限がなく、ユニホームが必要ではないことを意味する。自由なアイデアを伝達する言葉なんだ。白いTシャツが昔の社会の中でどのような意味を持っていたかを考えれば、それだけでもエキセントリックになり得ることが分かるはず。今は誰もがはいているスニーカーも同じだ。だから、エキセントリックはクレイジーなものを意味する言葉であり、クレイジーとは見た目は素敵なのに存在する場所が合っていないことを意味している。
WWD:では、映画の衣装をデザインするように、ショーを作り上げているということか?
ミケーレ:そうだね。毎シーズン、私が見せているのは、映画の一章のようなもの。ファッションは1シーズンよりも大きな枠組みとの関係を考えることが必要だから、前のシーズンと完全に切り離したりしたくないんだ。それに、もしも毎シーズンのコレクションが全く異なるものだったら、ブランドに魂を宿らせるのはとても難しいだろう。ムッシュ・ディオールが“アティチュード ”を表現することに専念していたように、過去を振り返れば、その重要性は明らかだ。繰り返すけれど、クリエイションは映画の大作のようなもので、毎シーズンのコレクションはその中の小さな一章。だから、私は「グッチ」ウーマンや「グッチ」マンになるための現代的な方法を確立することを目指している。私は、ブランドに新鮮な風を吹かせることが好きなんだ。先のことはわからないけれど、今年、誰かが「グッチ」に加わることもあるかもしれないし、もしかしたら、彼らが別のことを始めるかもしれない。
WWD:誰かが「グッチ」に加わる予定があるのか?
ミケーレ:いやいや、違うよ。でも将来的には誰かが「グッチ」に加わることはあるだろう。むしろ、それが起こらないことなんてないんじゃないかな?実際、ここ数年多くのブランドがクリエイティブのトップに新しい人材を起用し、ブランドに新たな生命を与えようとしている。だけど、ブランドの“顔”を5〜6年ごとに変えるなんて、おかしいと思う。もしも自分がブランドのファンだったら、自分が選んだブランドで自分自身を識別したいんじゃないか。そういう意味で、「シャネル(CHANEL)」のコレクションを手掛け続けているカール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)のことをとても尊敬している。彼は唯一無二の存在だ。もしあなたが「シャネル」の顧客だったら、きっと昔のアイテムも全て大切に持っているんじゃないかな。「シャネル」からは長年にわたって、とても現代的で一貫した精神やアティチュード が感じられるからね。でも今、他のブランドで同じことができるかは分からない。だから、カールは勝者なんだ。
READ MORE 1 / 3 「フェンディ」でのカールについて
「グッチ」2017-18年秋冬コレクションのバックステージ PHOTO BY KUBA DABROWSKI / WWD (c) FAIRCHILD PUBLISHING, LLC
「グッチ」2017-18年秋冬コレクション PHOTO BY KIM WESTON ARNOLD
「グッチ」2017-18年秋冬コレクション PHOTO BY KIM WESTON ARNOLD
「グッチ」2017-18年秋冬コレクション PHOTO BY KIM WESTON ARNOLD
「グッチ」2017-18年秋冬コレクション PHOTO BY KIM WESTON ARNOLD
「グッチ」2017-18年秋冬コレクション PHOTO BY KIM WESTON ARNOLD
「グッチ」2017-18年秋冬コレクション PHOTO BY KIM WESTON ARNOLD
「グッチ」2017-18年秋冬コレクション PHOTO BY KIM WESTON ARNOLD
WWD:カールは、あなたが過去に勤めていた「フェンディ(FENDI)」でも50年以上仕事をしている。
ミケーレ:「フェンディ」での経験は本当に素晴らしいものだった。「フェンディ」はクチュール・アトリエのように感じられる唯一のイタリアブランド。プレタポルテによくあるようなデザインスタジオではなく、リサーチすることにとても前向きで、外からのいろいろなインプットがある。カールとシルヴィア・フェンディ(Sylvia Fendi)は、昔も今も新しいことを取り入れるのが大好きだしね。彼らはとてもクール。だから、スタジオはクリエイティブな人間になるための方法を学ぶ最適な場所で、カールがショーの準備のためにローマにやってくる時は本当に重要な時間だった。彼は私が今まで出会った人の中で最も若々しく、いつも25歳の青年のよう。そして、この世で最もクールで、最も予測ができないことをする人だ。カールとシルヴィアと共に働いた経験から、クリエイティビティーが力になることを学んだ。当時、クリエイティビティーは会社を動かす原動力だったから。「フェンディ」は最高の学校だ。
WWD:いつ自分がクリエイティブな人間だと気付いたか?
ミケーレ:その質問に答えるのは、簡単ではない。「クリエイティビティー」という言葉の存在は知っていたし、周りも皆私のことをとてもクリエイティブだと言っていた。けれど、私自身は自分が果たしてそんなにクリエイティブなのかは疑問だった。私は私でしかないからね。でも、子供の頃、自分の心に正直にやりたいことをやることに自由を感じていたのを覚えている。
WWD:父親の影響が大きかったようだが?
ミケーレ:父はアーティストで、私の人生に大きな影響を与えた。母からも同じく影響を受けたよ。私が子供の頃、母は映画漬けで、父はアートや自然、動物、そしてクレイジーなことに夢中だったから、すごく刺激的だった。そんな環境で育ったことは本当にラッキーだったと思う。
WWD:10月に行われた「WWD アパレル&リテールCEOサミット」でビッザーリ社長兼CEOは、他のCEOからはあまり聞くことがないような情熱を持ったクリエイティビティーの重要性について語っていた。
ミケーレ:マルコとの関係は、おそらく私の仕事の中でも最も重要なポイントの一つ。彼は本当に私のことを信じ、私が伝えたいことを表現する力を与えてくれる人で、さまざまなことを学んだ。そして、妥協せずに自分が本当にやりたいことをやるように言ってくれたんだ。マルコはクリエイターにとっては完璧なCEOだ。本当にクリエイティビティーを信じているからね。CEOとしてランウエイ以外でクリエイティビティーの意義を問われることも多いけれど、彼は私のクリエイティビティーやビジョン、考え方を守ろうとしてくれるし、私に何か違うことをするように強要することもない。私がやろうとしていることを理解しようとしてくれているから、われわれは多くのことを共有しているんだ。彼は、自分のことを「クリエイティブな人間ではない」というけれど、CEOという役職において、ある意味とてもクリエイティブで魅力的だ。どんな仕事であってもクリエイティブになれる。仕事における言語や視点、考え方などあらゆることを変えるのは、クリエイティビティーに他ならない。
WWD:それを実践するのは勇気がいることでもある。
ミケーレ:私にとってマルコは革命的なCEO。これまで何度もCEOとクリエイティブ・ディレクターが衝突するのを見てきた。自分がラッキーなのかは分からないが、私はマルコのことが大好きだ。彼は私のメンターのようで、私に自由を感じさせてくれる存在。問題が生じたり、何かクレイジーなことがひらめいたりしたら、すぐに彼に電話で話しているよ。そして、マルコはラグジュアリー・マーケットにおいての新しいブランドのあり方を確立しようとしている。特に「グッチ」のような規模の大きなブランドでリスクを抱えつつ新しいことに挑戦するのは、本当に勇気のいることだと思う。そういう意味で彼はギャンブラーのようで、妥協することなく、勝利を手にすることが好きなんだ。いつも私が来年か再来年に実現したいことを話すと、彼は「今すぐやるべきだ」と応える。彼とはずっと一緒に仕事をしていきたい。
READ MORE 2 / 3 インスピレーション源と“借用”について
「グッチ」2016-17年秋冬コレクションのバックステージから PHOTO BY IKU KAGEYAMA
「グッチ」2016-17年秋冬コレクションのバックステージから PHOTO BY IKU KAGEYAMA
「グッチ」2016-17年秋冬コレクションのバックステージから PHOTO BY IKU KAGEYAMA
「グッチ」2016-17年秋冬コレクションのバックステージから PHOTO BY IKU KAGEYAMA
「グッチ」2016-17年秋冬コレクションのバックステージから PHOTO BY IKU KAGEYAMA
「グッチ」2016-17年秋冬コレクションのバックステージから PHOTO BY IKU KAGEYAMA
「グッチ」2016-17年秋冬コレクションのバックステージから PHOTO BY IKU KAGEYAMA
「グッチ」2016-17年秋冬コレクションのバックステージから PHOTO BY IKU KAGEYAMA
WWD:好奇心はどのくらい重要か?
ミケーレ:好奇心は私たちの人生で最も重要なことであり、心を動かす原動力だ。もしも仕事への好奇心がなくなったらエネルギーを失ってしまうし、もし彼氏や彼女への好奇心がなくなることは恋愛関係の終わりを意味する。特にデザイナーの仕事には、好奇心が欠かせないよ。
WWD:「グッチ」はこれまではっきりとしたリアリティーを提案してきたが、あなたの手掛ける「グッチ」はブランドの歴史とは全く異なる。そして、ストライプやロゴといったブランドのシグネチャーを惜しみなく使っている。
ミケーレ:ブランドの持つあらゆるシンボルやデザインコードを使おうと思っている。でも、原型を変えるのではなく、新しい命を与えているだけ。現代にあった形でシンボルやコードが人々に語りかけるようにしたいんだ。これまではさまざまな制限の中で使われてきたけれど、今私たちが生きているのはルールのない開けた世界。だから、私はパーソナルな手法で装飾部品のようにシンボルを使っている。それらの持つ力は重要だと思うが、どのように使うかを制限する必要はない。
WWD:ルールのない世界と言いつつも、この世界にはルールがある。そもそも(どこかからインスピレーションを得ることが) 文化的な“盗用”と非難されるという可能性は、クリエイティビティーを制限してしまうと考えているか?
ミケーレ:他の文化からインスピレーションを得て、その一部を使うことは悪いことではないと思う。文化とは開かれたものであり、オープンであればあるほど、この世界に属しているということだ。しかし、私たちは今、複雑な時代を生きているから、他の文化の一部を“使う”ことや“借りる”ことは時に困難でもある。ただし、クリエイティブな視点から見れば、“借りる”というのは、ある意味、自分が敬愛しているものや自分とは異なるものから自由にインスパイアされることであり、美しいこと。私とっては、“借りる”ことは、“称賛する”ということに非常に近いアイデアだ。
WWD:デザインの過程において、どのようにショーにアプローチしているのか?
ミケーレ:一つのイメージやアイデアからスタートすることもあるけれど、何でも出発点になり得るから、決まったルールがあるわけではない。自分が訪れた展覧会や友達の家族の話からひらめくことだってあるしね。常に心掛けているのは、ブランドを違う視点から見るということ。同じ家族が登場する映画や歴史的な物語を、ある時はおばあちゃんの視点から、ある時は幼い甥っ子の視点から描くようなものかな。だから、クリエイティブなプロセスの中で生まれたものを生かそうとしている。それから、一つのコレクションに取り組む3カ月間、私は外から関連しそうなものを集めようとアイデアの中を歩き回っているような感覚なんだ。そして、そんな歴史のある物語のための衣装を作ろうとしている。
WWD:一つ一つのアイテムに目を向けると、いろんな要素やモチーフが盛り込まれている。龍やトラ、花など、どれをどこに使うかはどうやって決めているのか?
ミケーレ:美的理念からスタートする。例えば、もしもビクトリアンドレスを着た美しい女の子が、ニューヨークのエリザベス通りで派手なレギンスを買ったらどうなるだろう?なんてことを考えている。そこから、若い女の子ならどのようにクリエイティビティーを発揮するだろうと想像しながら、レギンスのプリントを考えていく。私にとっては、彼女ならどうするかを理解することが大事だ。
WWD:まずキャラクターを設定するところから始めるということか?
ミケーレ:その通り。でも、その後が非常に複雑なプロセスで、服が形になったら、全てにさまざまな刺しゅうを加えて完成度を高めていく。一人が終わったら、また次のキャラクターというようにね。その理由は、コンテンポラリーで信じられないほどの新鮮さを与えたいから。今の若い世代は一つのアティチュード に縛られることなく、自分たちが見つけたものを自由にミックスしている。だから私は「グッチ」に新しい言語を与えようとしているんだ。
WWD:デザインに対して柔軟なアプローチを取っているように見えるが。
ミケーレ:長年ファッションは非常に厳格な脚本のようなものだった。しかし、1950年代〜80年代を考えると、2000年代以降の10数年と比べてもっと自由だったと思う。経済が悪化し、より市場での安定を求めるようになったことで、マーケティング主導になってしまったんだ。だからこそ今、われわれはクリエイティビティーから全てを始めるべき。その点でマルコとも同じ考えを共有しているから、とてもやりやすいよ。
READ MORE 3 / 3 ファーの使用廃止は“禁煙”に似ている!?
ファーフリー宣言前に発表された「グッチ」2018年春夏コレクション。ファーアイテムは製品化しないという PHOTO BY KIM WESTON ARNOLD
「グッチ」2018年春夏コレクション PHOTO BY KIM WESTON ARNOLD
「グッチ」2018年春夏コレクション PHOTO BY KIM WESTON ARNOLD
「グッチ」2018年春夏コレクション PHOTO BY KIM WESTON ARNOLD
WWD:最近では、ファーの使用を止めることも話題になっている。これまでの「グッチ」にとって非常に重要な素材だったが、廃止を決めた理由は?
ミケーレ:個人的にはファーが好きだし、われわれの文化の中にはファーの長い歴史がある。それに私は「フェンディ」でも働いていたしね。ファーを使って信じられないほどの傑作を生み出すことができることは分かっているし、天然のものだからこその美しさと魅力がある。だから、これまでは数多くのアイテムにファーを使ってきた。しかし、ある時から、「動物や自然が好きなのに、どうしてファーを使うことができるのか?それはたくさんの動物を殺しているようなものだ」と考える人たちと話すようになったんだ。そして、マルコにもそのことを話したら、「ファーを使うのを止めなければいけないとは言わないが、考えてみよう」という答えが返ってきた。そして、ファーを使うのは間違いだと考える俳優のジャレッド・レト(Jared Leto)にも説得されたよ。
この問題については、どこかのタイミングで決断しなければいけないと分かっていた。だから、時間をかけて話し合い、この問題に対する正しいアプローチを見つけようとしてきた。その結果、“禁煙”と似ていると思ったんだ。喫煙者は自分にとって良くないと分かっていてもタバコが好き。だから、禁煙するには自分でゴミ箱に捨てるしかないし、それだけのことだ。でも、そのあとは清々しい気分になる。それと同じように、大好きだけど良くないと分かっていたファーの使用を廃止した自分を誇りに感じている。クリエイションにはチャレンジが付き物で、それは変わらなければいけないこと、そして、変化にオープンであることを意味するからね。だから、ファーの使用を廃止すると社内に伝えた瞬間から、われわれはその代わりになる素材の研究をスタートした。今は、他と異なることをしたり、異なる言語で語りかけるのにちょうどいいタイミング。それはとても強い力を持ち得るし、失ったものは何もないと感じている。
WWD:メンズのファースト・コレクションから、あなたは“性差の超越”に関する議論の活性化に大きく貢献してきた。これは意図的なものだったのか?
ミケーレ:ジェンダーの流動性については考えていなかった。それは、おそらくファッション業界では目立っていなかっただけで、それ以外の世界ではすでにたくさん見られる。つまり、世界はジェンダーの流動性を受け入れる準備ができていたと思うんだ。だから、自分のやろうとしていたことが大きな議論になるなんて自覚していなかった。私は自分のビジョンからスタートしただけで、今でもそれは変わらない。そして、毎日の始まりは、いつも初日のような気持ちなんだ。コミュニティーは以前よりも大きくなっているけれど、インスタグラムで受け取ったコメントやメッセージを読んでいる時、ストリートからの反応がとても美しいと気づかされる。ファッションは強い力を持っていると感じるんだ。私自身ファッションが大好きだから、本当にうれしいことだよ。
WWD:2017年には「WWD」のニュースメーカー・オブ・ザ・イヤーに選ばれ、「タイム(TIME)」誌では最も影響力のある100人に選ばれた。自分の影響力を自覚しているか?
ミケーレ:いや、私は一人の人間でしかないし、自分がそんなに影響力を持っているなんて思ってない。ただ、私の起点は真正性であり、自分は何者なのか、何者だったのか、そして世界有数のブランドの中でどんな存在だったのかということを語るところからスタートした。
WWD:自分の今の立場に非常に感謝しているように見受けられるが?
ミケーレ:私は私らしくありたい。美しいものを愛し、人と一緒に働くことや自分の表現したいものを正直に表現するのが好きな45歳の男性。それが私であり、重要なことはそれだけだ。私が取り組んでいることを人々が理解してくれるのは本当に光栄で、美しいことだと思う。
JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。