メンズのアーティスティック・ディレクターを退任すると発表してから、わずか数日。否応なしにいつも以上に視線が注がれ、結果、今シーズンのパリメンズで最大のトピックスとなった「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」の2018-19年秋冬メンズは、まさにキム・ジョーンズ(Kim Jones)の6年にわたるクリエイションの集大成となった。
テーマは、“OVERVIEW”。直訳すれば「概要」とか「要約」「全景」。そこにキムは今季、“集大成”と言う意味を盛り込んだ。
ショーの冒頭は、彼が生まれ育った国、ケニアの「全景」から幕を開けた。キムらしいレイヤードのサファリルックにプリントされたのは、ヘリコプターに乗って実際に撮影したというケニアの広大な大地。乾いた砂とゴツゴツの岩、そんな荒々しい風景がアノラックやモックネックのニット、ショートパンツ、そしてモノグラムを重ねたレギンスにのせられ、「ルイ・ヴィトン」らしい旅のムードを盛り上げる。ケニアは12年春夏、キムが最初に発表した「ルイ・ヴィトン」メンズの目的地。言うなれば彼の「ルイ・ヴィトン」での出発点、過去とリンクするが、色鮮やかなマサイチェックの12年春夏からは一転、落ち着いたカラーパレットで故郷の別の顔を見せつつ、6年の成長を見せつける。
その後はスマートなジャケットで表現する都会、ライナーにボアを敷き詰めたブルゾンで描いた極地、背面を切り返したシャツでウエスタンのムードを醸し出したかと思えば、ネオプリンや止水テープ使いではマリンを彷彿とさせ、レザーブルゾンには桜の刺繍をのせてオリエンタルもプラスする。それらはいずれも、彼が、過去のコレクションでインスピレーション源にしてきた旅の目的地だ。過去を振り返り、現在につなげる。それは、「ルイ・ヴィトン」を筆頭とするラグジュアリー・ブランドの本質を体現しているとも言える。
そして彼は、そんなスタイルを未来にさえ繋げようと試みた。過去に着想を得て、現代のためにリニューアルしたスタイルの多くは、例えばメタリックカラーのパイソンシャツやネオンカラーのカシミヤリブニットなど、フューチャリスティック(未来的)な色をまとう。いずれもマニアックな色だが、それをキムらしくキャッチーなストリートマインドでまとめあげた。
フィナーレにはモノグラムのレインコートを着たナオミ・キャンベル(Naomi Cambell)とケイト・モス(Kate Moss)が登場し、キムは2人と手をつないでランウエイを一周した。ナオミとケイトの登場で会場からは歓声が上がり、その多くがスマホで写真や動画を撮ったり、ライブ中継をスタートしたり。SNSを意識した“バズ”の起こし方も、最後まで彼らしい。
彼の旅の次なる目的地はどこなのだろうか?
どうか、そこはファッション業界のど真ん中であってほしい。