これまでもジョン・ガリアーノ(John Galliano)=クリエイティブ・ディレクターのビジョンをデザインチームが形にしてきたが、「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」は2018-19年秋冬、メンズも直接彼に委ね、そのコレクションを発表した。
ガリアーノは“シナジー”をキーワードに、今回のコレクションをメンズのオートクチュールと位置付けた。“シナジー”とは、何かと何かを掛け合わせた時、予想以上の相乗効果を生むこと。これにより彼は、メンズならではのグラマー(魅惑)にたどり着きたいと考えた。
“シナジー”をキーワードにメンズのクチュールを模索することでグラマーを手中にする——。その考えは、ファーストルックから明らかだった。ガリアーノが愛してやまない真紅のトレンチコート(上の写真左)は、まるで半年前のクチュールで発表したガウンコートのよう。ともにボタンで閉じることができるのに、モデルは手を添えウォーキングするところまでそっくりだ。
トレンチコートの身頃という身頃を全て排除し、ヘムと運針だけを残したようなトレンチコートも、その源泉はクチュールにある。
まずガリアーノは、メンズとウィメンズ、そしてオートクチュールとプレタポルテ、その境界を取り払い融合することで“シナジー”を手に入れ、新たなグラマーを模索した。
こうした洋服は、ガリアーノと、ガリアーノがメゾンに来る前の「マルジェラ」のシナジーであることも忘れてはならない。荒々しいカットオフや、生地を剥ぐことで中の構造をつまびらかにするアプローチは、過去の「マルジェラ」。多用したPVCや、アランニットを模したシリコンなど、普通なら洋服に用いない素材を実験的に採用するもの、従来通りの「マルジェラ」らしい。今の「マルジェラ」でトップに立つガリアーノが、かつての「マルジェラ」に敬意を表することで手に入れた過去と現在の“シナジー”も大きなポイントだ。
リアルか、リアルでないか?着られるか、着られないか?という視点で今回のクリエイションを振り返れば、その答えはともに「NO」だろう。しかし「マルジェラ」のクチュールは実験を繰り返すことでアイデンティティーを確立し、コマーシャルラインのビジネスにつなげてきた。我々が背中の4本ステッチに何らかの意味を感じて購入するのは、こうした実験によりブランドが帯びる特別性を意識的に、もしくは無意識のうちに感じ取っているからだ。ガリアーノのビジョンはこの後、コマーシャルラインにどう落とし込まれるのだろうか?