ファッション業界で今、最も注目を集めるデザイナーの一人が今シーズン4シーズン目を迎えた「ヴェトモン(VETEMENTS)」のヘッドデザイナー、デムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)だ。「ヴェトモン」は今季、初めてパリ・コレクションにオンスケジュール入りし、デムナはパリコレ最終日に、「バレンシアガ(BALENCIAGA)」のアーティスティック・ディレクターに指名された。
デムナは、アントワープ王立芸術学院を卒業後、自身のブランド「ステレオタイプス(STEREOTYPES)」を立ち上げるもブランドを休止し、「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」や「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」といったビッグメゾンのデザイナーとして活動をしていた。その後、2014年春夏に「ヴェトモン」を立ち上げ、わずか数シーズンで、ファッション・フォワードな人を中心に熱狂的なファンを持つカリスマブランドへと成長させた。モードとストリートが共存するオルタナティブなムードを漂わせる一方で、ヴァザリアの持つ高いクリエイティヴィティとカリスマ性、時代を見据えたビジネスセンスで、コレットやドーバーストリートマーケット、ブラウンズといった世界の有力店に販路を広げている。
「バレンシアガ」が認めたオルタナティブ・モード
メンズウエア、とりわけテーラードをベースに、再構築したオーバーサイズのユニークなシルエットと、ユーモアを盛り込んだスタイルが特徴だ。「マルジェラ」の匂いが香るクリエイションは、ジョン・ガリアーノがクリエイティブ・ディレクターに就任する前からの「マルジェラ」ファンから熱い視線を集めている。
先シーズン、パリ・コレクションのオフスケジュールでファッションショーを開き、大きな話題をさらった。今季はいよいよオンスケジュール入り。「ヴェトモン」のショーがあるパリコレ3日目のショー会場では、「『ヴェトモン』の招待状届いた?」「場所わかる?招待状ないけれど、とりあえずトライしてみようと思っている」。こういった会話が、至るところでジャーナリストやバイヤーの中で繰り広げられ、大物ジャーナリストや編集者たちも無視できない存在になった。そのざわつきが「今、『ヴェトモン』を見逃してはいけない」という皆の気持ちをさらに盛り上げ、ショーが行われた中華料理店は、スタンディングも含め超満員に膨れ上がった。そこには、何が起るかわからないただならぬ熱気があった。オーガナイズされたものとは違う、何が起こるか分からないライブ感があった。
ショーが始まり登場するモデルは、大きな迷路のような中華料理店を疾走するかのように、前のめりで歩いてゆく。会場に中華料理店を選んだ理由についてデムナは「中華料理店というロケーションは僕らが考える“本物でリアル”なパリだから。前回のゲイバーもそうだけど、リアルなパリであることが重要なんだ」と語る。モデルもいわゆるトップモデルではない。「1カ月間、インスタグラムやフェイスブックをリサーチして見つけた。オンラインでやり取りしていた彼らに、ショー前日に実際に会ったのは、本当に素晴らしい時間だった」。
「自己表現のための“ファッション・ユニフォーム”を提供したい」
「服とは、着る人の気分をアゲて、その人自身をすてきに見せるべきもの。服自体が主張するのではなく、すでに持っている服ともミックスでき、個性が生きるような新しいワードローブを提供したい。自己表現のための“ファッション・ユニフォーム”とでも言ったらいいかな」。
アントワープ王立芸術学院卒業後、「メゾン マルジェラ」に入る前は、「ステレオタイプス」というブランドを立ち上げ、東京でファッションショーとインスタレーションを開いた経験もある。型にはまったスタイルをユーモアを盛って独創的に表現していた。衣服における固定概念に対する挑戦は今も変わっていない。
「服の基準や伝統に疑問を持つことは楽しいよね。正解なんてないけれど。でも何が良くて何が悪いかを僕たちの方法で表現できたらと思っている。疑問を持ち続けることが、僕たちにとってクリエイションを進化させる方法なんだ」。そしてデムナのクリエイションには常にユーモアがある。「意識しているわけではなくて自然な流れだよ。僕たちの世界はシリアスな問題だらけ。服は僕たちと僕たちの取り巻く世界を分け隔てるものでしょ?ユーモアはヘルシーだしポジティブ。誰も傷付けないし、人を笑顔にする。僕らは常にジョークを言って笑いながら仕事しているし。ユーモアを感じてくれたら嬉しいよ」。