ファッションECモール「ゾゾタウン(ZOZOTOWN)」を運営するスタートトゥデイが31日、ついにプライベートブランド(以下、PB)「ゾゾ(ZOZO)」を始動する。まずはクルーネックTシャツ(税込1200円)4色(黒、白、グレー、ネイビー)とスリムテーパードデニム(税込3800円)3色(ワンウォッシュ、インディゴブルー、ライトインディゴブルー)の2種類を用意。1型あたり数千〜数万ものサイズパターンを用意し、“ZOZOSUIT”のでの体型計測データをもとに同社が提案する“ぴったりな”サイズを注文できる受注生産体制をとる。しかも、袖丈や着丈などのサイズ感は自分で調整でき、注文後は即日〜2週間で商品が届く。同社はこれに合わせて、「スタートトゥデイ研究所」を発足。これまで「ゾゾタウン」で蓄積した1億件以上の購買データ、約3000万件のブランド公式商品データや約1000万件のコーディネートデータ、約2300万人のユーザー情報などに加えて、“ZOZOSUIT”の体型計測データをもとにファッションの研究を進める計画だ。「ゾゾ」とともにスタートトゥデイが目指す未来について、前澤友作・代表取締役社長を直撃した。
WWD:まず、予約開始10時間で23万件もの注文が入った“ZOZOSUIT”だが、現在の注文数と生産状況は?
前澤友作・社長(以下、前澤):おかげさまで伸び続けている。プロモーションをやっていない海外からの注文もかなり来ている。31日に発送を開始し、2月以降お手元に順次届く想定だ。しかしながら、11月中にご予約の方は最大6カ月、12月以降にご予約の方は最大8カ月程度お待ちいただく可能性がある。
WWD:“ZOZOSUIT”が遅延した最大の要因は?
前澤:現状の受注量は見込んでいたが、ミリ単位の精度にこだわった結果、ここまで時間がかかってしまった。ようやく完璧な“ZOZOSUIT”が完成した。
WWD:今後は受注が増えても大丈夫か。
前澤:今のラインがきちんと動けば、受注が増えても大丈夫。具体的にいつ届くかという案内は、今後サイト上でもお知らせする予定だ。
WWD:“ZOZOSUIT”の原価は数万円かかるのではないか、と推測されるが。
前澤:数万円はしない。
WWD:億単位の費用を計上してまで”ZOZOSUIT”を無料配布したのは、データにそれだけの価値があると考えたからか?
前澤:顧客獲得単価という考えがあるが、広告を打っても一人あたり数千円はかかるもの。広告を打つのと同じ感覚だ。
WWD:着用デバイス以外にもサイズを知る方法はあったのでは?
前澤:研究段階で何十社にも声をかけ、いろいろな案を試した。でも、ミリ単位の精度を出せるのは“ZOZOSUIT”だった。もしかしたら今後は“ZOZOSUIT”ネクストとして他の方法が見つかるかもしれない。
WWD:一度使った“ZOZOSUIT”はどうすればいいのか。
前澤:繰り返し何度でも計測できるので体型が変化したと感じたら再計測したり、友だちにあげたりして再利用しもらえれば。実際、国内では2〜3サイズで対応できているので、ほとんどの人が同じサイズを着用できる。
WWD:海外発送も開始する?
前澤:海外への発送はこの春以降を予定している。海外で一番注文が多いのはアメリカ。提携するソフトセンサー開発企業 (StretchSense Limited.)があるためか、ニュージーランドでも注文は多い。
WWD:PBの発売がここまで遅れた理由は?
前澤:実は商品はすでにできていて、“ZOZOSUIT”の開発に合わせて、生産待ちの状態だった。
WWD:PBでは、自分だけのサイズの洋服を受注生産するイメージか。
前澤:われわれは“ZOZOSUIT”の体型計測データをもとに“ぴったり”のものを提案する。ユーザーはそこに自分の好みを反映することもできる。形としては受注生産だが、事前にある程度受注が予測されるサイズは生産をかけているので、即日発送にも対応できる。もちろんないサイズに関してもすぐに生産ができる。
WWD:サイズをもとにした洋服は本当に似合うのか?
前澤:例えば肩幅が50cmだから、52cmの肩幅の洋服が似合うかというと、そうではない。体の色んなサイズや筋肉との相関があって、スペック通りの洋服を用意すれば“似合う”わけでは決してない。あらゆる体型に“似合う”であろうスペックデータを持っている。だからスペック通りの提案ではなく、“似合う”スペックを提案しているイメージだ。
WWD:前澤社長が考える、“似合う”とは?
前澤:その人が満足するだけでなく、他人から見ても、きちんと似合っている状態のこと。われわれは社内でフィッティングテストを重ねて得た“教師データ”(機械学習に用いる元データ)をサービスに取り込んできた。結果、デニムとカットソーについては黄金比が完成しつつある。
WWD:今後も商品ごとに黄金比を見つける必要があるということ?
前澤:もちろんそうなる。将来的な構想としてはSNSの写真と連携するなどして髪型や肌の色、年齢なんかも含めて総合的に”似合う”ということを数値化していきたい。
WWD:もしも消費者が“似合わない”と思ったら?
前澤:気に入らない場合はもちろん返品交換を無料でやる。そうして何度も試すことで必ず自分に似合うTシャツを見つけられるはず。むしろそうした意見も積極的に機械学習に取り込んでいく。
WWD:なぜ、デニムとTシャツだったのか。
前澤:ベーシック中のベーシック。“塩胡椒”みたいなイメージだ。
WWD:メンズとウィメンズの違いは?
前澤:TシャツはUSコットンで基本的にはユニセックスだが、若干のパターンなどが異なる。メンズは40番手2本撚り、ウィメンズは20番手1本撚りという絶妙な違いもある。デニムはメンズ、ウィメンズで同じ。1%だけスパンデックスを入れることで窮屈にならない範囲でちょうどいい伸縮性を実現した。ワンウォッシュのものは色が落ちない。だから色移りの心配なく着てもらえるはずだ。逆に色落ちを楽しみたい人にはインディゴブルーをオススメしたい。
WWD:サイズへのこだわりは相当強いのでは?
前澤:そもそも、サイズによってステッチ幅やボタンのサイズを変えており、デニムなんかは数千パターン用意した。ウエストも少し太っていてお腹がのってしまう人にはうまく股上の前身頃だけが短くなっていたり、いろんな体型の人が着て似合うように、最高のバランスを作り出した。パタンナーもこれまでミリ単位で商品を作ったことがないと、面白がって仕事をしてくれている。
WWD:「ゾゾタウン」にあるアイテムとは競合しないのか。
前澤:もちろん、100%競合しないとはいえない。でもSML展開の洋服の間に本当は何百というサイズがあって、それを提案できているブランドはない。そういう意味では全く競合しないのではないか。既存ブランドもPBも、どちらが売れてもわれわれには喜ばしいこと。
WWD:ロゴをブランドとして打ち出していく予定はあるか。
前澤:ロゴが見えるようなアイテムも作ってはいるが、全面的に打ち出していくイメージではない。ロゴに関連していえば、実は、我々の商品にはおサイフケータイなんかに利用するNFC(近距離無線通信)チップ内蔵のタグがついていて、非接触で情報のリーディングができる。まだ詳しいことは言えないが、今後なんらかの活用を考えている。
WWD:アイテムの原価率は?
前澤:アパレルの常識を破っているはず。オーダーメイドだから、一般的な原価率から比べると相当高いだろう。
WWD:「ユニクロ(UNIQLO)」のデニムは3990円。価格帯やクオリティ面で意識したか?
前澤:うちは税込みで3800円。この価格を実現するために受発注形式を取っているし、裾上げも必要なく、無駄な素材も出ないように意識しているので、かなり無駄を省いていると思う。セールの値引き販売を想定せずに、最初から正直な限界プライスで値付けをしている。
WWD:生産は自社で行っているのか?
前澤:縫製なんかはもちろん社外で行っている。生産場所は言えないが、Tシャツもデニムも現在は“メード・イン・チャイナ”だ。
WWD:リリースビジュアルをよく見ると、一般人に加えてさまざまな有名人が写っているが。
前澤:女優の高橋愛さんや実業家の堀江(貴文)さん、サッカー選手の本田圭佑さんらがいる。実は熊谷俊人・千葉市長まで参加してくれた。本田さんには顔が半分隠れる許可までもらっている(笑)。老若男女が一切立場が関係なくぴったりの洋服を着ているということをイメージしたものだ。
WWD:初年度の売上高目標は?
前澤:詳しくは言えないが、将来的にはアパレルを大きく変えうるブランドとして世界中に感動を届けたい。ターゲットは何億人規模だ。
WWD:今後の海外展開の予定は?
前澤:海外では「ゾゾタウン」の展開が遅れていることもあり、むしろPBを皮切りに展開していきたいと考えている。ベルリンに拠点を置いたのは、テクノロジー企業が多く、テックに精通した人材を取り入れたかったから。ドイツ人は質実剛健で実用的なものが好きだというので、今後ヨーロッパに進出するテストマーケにもなると考えた。
WWD:今後のアイテム拡充について。
前澤:莫大に広げるイメージではない。コツコツ増やしていく。現在はカジュアルなボタンダウンシャツやビジネスシャツ、デニムの型違いなどを作っている。他にも限定数のアウターなどを受注生産したいと考えている。
WWD:シューズのカスタマイズに関する計画は?
前澤:実は最初はシューズからやろうと思っていた。でも、サイズは測れても、ひもの締め方なんかも意識しなければならず、そこに合わせてシューズを作ることが非常に難しい。こうした試行錯誤もあって構想を練り始めてから7年もかかった。
WWD:商品取扱高5000億円に向けて、PB事業はどのくらいのシェアを占める想定か。
前澤:もちろん、「ゾゾタウン」とPBが2軸になる。世界のトップが「ザラ(ZARA)」だとしたら、PBではそれを超えたい。「アップル」製品が売れればiTunesストアでアプリが売れるし、ミュージシャンも育つのと同じ考えで、ハードウエアとしての“ZOZOSUIT”、ソフトウエアのPB、プラットフォームとしての「ゾゾタウン」という相乗効果を狙う。
WWD:アパレル小売不振がここ数年続く中で、ビジネスの第二の柱としてあえて製造小売を選択した理由は?
前澤:世の中にないものが、“サイズの間”にあるということに気付いてしまった。そして、計測と製造の両面の筋道が見えたので、これなら絶対にニーズがあると確信できた。もともとモノ作りには興味があったが、人と同じものを作っていては意味がない。
WWD:「スタートトゥデイ研究所」を発足する意義は?
前澤:洋服にはきっと黄金比がある。その黄金比を解明したい。われわれは幸いにも十分な材料を持ち合わせているので、今まで概念的に“かっこいい”と言われてきたものを数値化できるんじゃないかと考えている。アートが好きだから数値化できないものも好きだが、ビジネスとしてはそれを数値化してみたいと思う。
WWD:得られたデータの販売や外部アパレル企業との連携は?
前澤:まだお話できる状況ではないので、まずは実績を作ってからだと思う。今後、データを提供していくことが社会貢献につながるならば、そういったことも積極的に行っていきたい。
WWD:制服を作るときなんかにも使える?
前澤:確かに、それも面白い。
WWD:この研究によって何を変えようとしているか。
前澤:服を着ることに対してポジティブになれる社会。服を着るということは、人と会ってコミュニケーションをするための土台だと思う。だから自分に似合う洋服を着て、自信を持てる人が増えれば、社会が豊かになるんじゃないかと思う。