ビジネス

ドイツ発3Dプリント企業が変えるラグジュアリー・ファッション

 ファッションブランドが続々と3Dプリントを活用した商品を発売している。「ロエベ(LOEWE)」や「アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)」の3Dプリントアイテムを支えているのが、ベルリンを拠点に活動する3Dプリント企業のヴォイド ストゥディオズ(VOJD STUDIOS以下、ヴォイド)だ。

 IT業界出身のクリスチャン・ハルトゥンク(Christian Hartung)最高経営責任者(CEO)とファッション業界出身のフリスティアナ・ヴチェヴァ(Hristiyana Vucheva)=クリエイティブ・ディレクターが2012年に設立した同社が目指すのは、ハイテクとハイファッションの融合。ラグジュアリー・ファッション市場に3Dプリント製品を提供する唯一の企業としてスタートした。

 これまで「ロエベ」「アレキサンダー・マックイーン」の他、「アクリス(AKRIS)」「キャロリーナ ヘレラ(CAROLINA HERRERA)」「ハウス オブ フローラ(HOUSE OF FLORA)」「A.F. ヴァンデヴォースト(A.F. VANDEVORST)」「プラバル グルン(PRABAL GURUNG)」「スキングラフト(SKINGRAFT)」などのブランドに3D製品を提供しており、すでにラグジュアリー・ファッション市場での地位を確実なものにしているようだ。

 LVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON)が擁する「ロエベ」とは、その2017-18年秋冬のメンズ・コレクションのキャンペーンビジュアルにも登場したチェーンブレスレットを製作した。このチェーンブレスレットは、プラスチックとセラミックを融合した粉状の材料で作られ、組み立て不要だという。

 ケリング(KERING)が擁する「アレキサンダー・マックイーン」とは、実際の手形を3Dスキャンし、手にフィットする傘ハンドルを製作して限定発売した。

 スイスのブランド「アクリス」とは、2016年春夏コレクションに登場したリングを製作。建築家の藤本壮介が設計した直島パヴィリオンにインスパイアされ、セレクティブ・レーザー・シンタリングという技術を使って、幾何学的なリングを作った。

 ハルトゥンクCEOによれば、ヴォイドは17年10月にスポティファイ(SPOTIFY)やエアビーアンドビー(AIRBNB)といったIT企業にも投資している投資会社、レイクスター(LAKESTAR)から100万ドル(約1億800万円)相当を調達した。AMベンチャーズ(AM VENTURES)、ステファン グレンツァー(STEFAN GLANZER)、リンデン キャピタル(LINDEN CAPITAL)などからも投資を受けている。このスタートアップの立ち上げ段階での調達資金は、ラグジュアリーファッション市場でより最新テクノロジーの技術を維持する研究開発(R&D)に充てられ、次の投資段階の布石にもなる。しかし、ハルトゥンクCEOは「他のエンジェル投資家やベンチャーキャピタルから追加の投資オファーや関心が寄せられているが、次の投資ラウンドに進む前に、投資パートナーがラグジュアリーファッション業界をよく理解していることを確かめたいと考えている」と語る。

 ボウ&ドレープ(BOW & DRAPE)は米3Dプリント企業、シェイプウェイズ(SHAPEWAYS)と協業し、個々の消費者の要望に対応したパーソナライズ商品を提供したり、また、ハイテクなウエアを作る「ミニストリー・オブ・サプライ(MINISTRY OF SUPPLY)」はボストンの旗艦店で、カラーからカフの種類まで選べる縫い目がないブレザーを販売するなど、3Dプリントを活用する企業はパーソナライズやカスタマイズにフォーカスしているが、ヴォイドはより高みを目指しているようだ。

 2人が目指すのは、スペースX(SPACE X)創業者の天才起業家イーロン・マスク(Elon Musk)が手掛ける電気自動車企業、テスラ(TESLA)だ。「テスラはラグジュアリー市場向けに商品を提供し、得た資金でマス市場向けの商品開発をしている。このビジネスモデルを採用し、われわれも単価が比較的高いハイテクとハイファッションの融合にフォーカスする。3Dプリント製品の生産コストは年々10〜20%減少している。何年か待てば、より低価格の市場が新たに誕生するだろう」と語る。

 名は明かせないが、パリの“ビッグネーム”ブランドとプロジェクトを進行中だという。ヴォイドの今後の活躍に注目だ。

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