1月6〜8日に開催されたロンドン・メンズ・ファッション・ウィークは「ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)」「マーティン ローズ(MARTINE ROSE)」「メゾン ミハラヤスヒロ(MAISON MIHARA YASUHIRO)」など前シーズンから10ブランド以上が不参加となった影響が懸念される開幕となった。相次ぐテロ事件とEU離脱による不安定な経済状況など、若手の活気と明るさが不安をかき消してくれることを胸に秘め、ロンドンに明るさをもたらしてくれると期待して、若手メンズデザイナー3人に直撃取材を敢行した。1人目は14年間「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」のメンズのテキスタイルコンサルタントを務め、2015年にブランドを立ち上げたエドワード・クラッチリー(Edward Crutchley)。イギリス・ヨークシャー出身のクラッチリーはテキスタイル・コンサルタントとして、カニエ・ウェスト(Kanye West)や「ジバンシィ(GIVENCHY)」のクリエイティブ・ディレクターであるクレア・ワイト・ケラー(Clare Waight Keller)らとコラボレーションを果たした。ブランドは3年目だが業界で豊富な経験を持つ彼が、ロンドンでどのような道を切り開いていくのだろう。
──自身のブランドをどのように定義するか?
エドワード・クラッチリー「エドワード クラッチリー」デザイナー(以下、クラッチリー):本質を捉えたモダンでシック、そして確固とした独自性を持つブランドといえる。美しさと良質の意味を理解し、自分自身のためにドレスアップしたい人のための服だ。
──セント・マーチン美術大学ではウィメンズのファッションを学んだが、現在はメンズのクリエイティブ・ディレクターを務め、テキスタイル・コンサルタントとして活動している。方向性を変えたきっかけは?
クラッチリー:ウィメンズウエアにはいつも興味があったのだけれど、卒業後すぐ「プリングル オブ スコットランド(PRINGLE OF SCOTLAND)」で働き始め、メンズの制作プロセスがとても刺激的だと感じるようになったんだ。ウィメンズとは違い、仕立てが命でより構築的だと思う。ウィメンズは自由に何でもデザインできるけれど、メンズはある種の制限があり、精巧さが大きな違いを生む。経験を積めば積むほど、メンズウエアの製作プロセスに魅了されるようになっていった。
──現在、「ルイ・ヴィトン」のメンズウエアのコンサルタントを務め、これまでキム・ジョーンズ(Kim Jones)やカニエ、クレアら多くのクリエイターと協業もしている。この経験はあなたにどのような影響を与えた?
クラッチリー:僕はどんな仕事を手掛ける時も、まずは徹底的にリサーチを重ねる。それはクレアから、「ラグジュアリーの本質的な意味を追究するためには、リサーチして学ぶことが重要」と教わったから。カニエは次から次へとアイデアが浮かび上がる真のクリエイターだと感じたよ。仕事を通じて、自分の内側の声に耳を傾け、ビジョンを貫く大切さを学んだ。キムはとても刺激的で、最も影響を受けた人物。プライベートでも仕事上でもとても寛大な心の持ち主で、チームを統率する能力に優れている。
──コンサルタント業ですでに名だたるクライアントを抱えているが、自身のブランドを立ち上げたきっかけは?
クラッチリー:コンサルタントはとても楽しいけれど、いつも他の誰かのコンセプトの上で創造する。経験を重ねるにつれて、自分には独自の声、服への視点があることに気付き、それを何かのフィルターを通さずに直接見てほしいと思ってブランドを立ち上げた。
──テキスタイルに最もこだわる理由は?
クラッチリー:テキスタイルにこだわらなければ、ファッション好きとは言えないだろう。服を着た時に真っ先に見えるのはテキスタイルだ。文化に根付いた多種多様なテキスタイルが世界中にあって、もっと知りたい、もっと触れたいという好奇心に駆られるんだ。
──コレクションの製作プロセスは?
クラッチリー:通常は、まず毎シーズンの核となるテキスタイルに描くグラフィックから取り掛かる。同時に、世界中から集めた200以上のテキスタイルブックと、旅をしながら最も良いテキスタイルを見つけるためのリサーチを重ねる。それから、洋服のシェイプが頭の中に浮かび上がり、実際に布を使って形成し始める。僕の場合はスケッチを描いたりパターンに当てはめたりするよりも、実験的に進めていくことが多いんだ。
──ファーストコレクションから最新コレクションまで、“East meets West”をコンセプトに、スポーツウエアや機能的な構造とオリエンタルな要素を掛け合わせている。このようなコンセプトはどのように生まれた?
クラッチリー:東洋、特に日本のファッションからは大きく影響を受けている。着物や羽織のシェイプにある“身を包む”という概念が、西洋のスポーツウエアと出合うことでラグジュアリーに昇華できるだろうとイメージしたところから始まった。発表したばかりの2018-19年秋冬コレクションでは、東洋の中でもインドと中国の伝統的な民族衣装の柄から着想を得て、先シーズンよりもさらにボリュームを持たせたドレープを作ったよ。
──仕事でもプライベートでも旅に出ることが多いようだが、あなたにとってコレクション発表の場であり拠点にしているロンドンとはどんな都市か?
クラッチリー:特にこだわっている理由はないんだ。若手にスポットライトを当てる都市ではあるけれど、奇才やクレイジーな人物が特にロンドンに集まっているとも思わない。それに、クリエイターとして才能があることと、ブランドを成長させられるかどうかは別の話だ。業界での経験なくして、自身のブランドを通して潜在的な能力を存分に発揮し、ビジョンを成し遂げられるとは思えない。卒業後すぐにブランドを立ち上げるなんて、僕の頭には一切なかった。
──今後のビジョンは?
クラッチリー:現時点では、美しさとシックの本質を追究すること。それ以外に得られるものは、おまけでしかない。
ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける