鶴岡裕太BASE最高経営責任者(CEO):1989年生まれ。大学在学中から複数のインターネットサービスのプログラミングやディレクションを経験し、2012年12月に22歳でBASEを設立した。現在はEC構築・決済サービスのBASEをはじめ、支払いアプリのPAY ID、開発者向けオンライン決済サービスのPAY.JPを運営する。夏はTシャツ、冬はパーカを愛用し、毎シーズン「ユニクロ」で数十枚同じ服を買うほどのこだわりっぷり。取材時には「サス バイ サスペリアル(SUS BY SUSPEREAL)」のパーカを着用
BASEは2012年に個人デザイナー向けのEC構築・決済サービスとしてスタートした。出店費用はかからず、注文ごとに売り上げの3.6%+40円+サービス利用料3%を支払うというシンプルな構造が奏功し、創業から5年でショップ数は45万まで増加した。しかも、大半がファッション分野という。芸能人が手掛けるブランドの出店も相次ぎ、個人向けECサービスとしてはBASEが圧倒的なシェアを誇るまでになった。現在の年間流通額は数百億規模。BASEはなぜこれほどまでに成長できたのか。家入一真CAMPFIRE社長や山田進太郎メルカリ会長とも親交が深い鶴岡裕太BASE最高経営責任者(CEO)に話を聞いた。
WWD:あらためて、BASEの創業経緯とは?
鶴岡裕太BASE最高経営責任者(以下、鶴岡):母が大分でアパレルの小売をやっているのですが、当時実家に帰った時に「ネットで洋服を売りたい」と言われて。僕としては「『楽天(市場)』でも使えば?」という感じだったのですが、どうやらお金も時間もかかるし、難しくてできないと。この時に地方の中年層の人々でもネットでものを売りたいと思っていることに驚き、誰でもブランドを作って世界中にモノを売れる時代になるだろうと思いました。そこでまずは1人でサービスを作り、投資家にも支援をいただいて法人化した形です。
WWD:決済をメーンにしたアプリに目をつけた理由は?
鶴岡:学生時代から人に使ってもらえるプロダクトを作りたくて、ざっくりと決済や金融分野に興味がありました。当時は「ペイパル(PAYPAL)」とかが流行っていて、決済サービスであれば世界中のほとんどの人がターゲットになるのではないかと考えたからです。
WWD:“STAY GEEK”という企業哲学の意味は?
鶴岡:勉強ができるエリートはいいビジネスこそできるかもしれませんが、いいプロダクトを作るためには好奇心を持って挑戦できる“ギーク(オタク)”と呼ばれる人の方が強いはず。企業として、ユーザーに喜んでもらえるという世の中への貢献度が重要だと思うのですが、それはいわゆるエリートではなくこだわりのある人にこそできるのではないかと思い、“STAY GEEK”を掲げています。
WWD:2016年9月にスタートしたアプリがすでに400万ダウンロードという驚異的な伸び率ですね。
鶴岡:ショップのブランディングを頑張ったことはもちろんですが、出店ショップの力が強いですね。45万ショップなので、単純に1ショップが10人のファンをつけてくれれば合計450万人です。今後も伸びていくと思います。
WWD:なぜ、芸能人の出店も多いのか?
鶴岡:こちらから営業をかけているわけではなく、自発的に使ってくれることが多いんです。公開されてニュースになってから、「これ、BASEだよね?」となることも(笑)。そもそも毎月1万ショップくらい増えるんですが、その99%くらいが口コミによって自発的に増えているものなんです。
WWD:立ち上げから5年でここまで成長できた理由をどう考えますか?
鶴岡:「ゾゾタウン(ZOZOTOWN)」や「楽天市場」などのECモールは自社が抱えるユーザー数を売りにしていますが、BASEでは集客をショップに一任しています。これが良くも悪くも大きな違いだと思います。そもそも、ショップごとにファンの属性が違うので、同じユーザーに対して販売していくことは難しいはず。われわれは需要は小さくても“複製しづらい価値”を生み出せる人に向けてサービスを作っています。例えば、個人が作った湯呑みを10万円で売る際、それだけの価値があると思って買ってくれる人を探すには、SNSなんかを使ってクリエイター自身が発信をした方が探しやすいんです。SNSがこれだけ一般化したという時代背景とも相まって、生産者と消費者の価値のマッチングを実現できたんだと思います。
WWD:“複製しづらい価値”とは?
鶴岡:既製品に対して、個人が生み出す商品のことです。今後、既製品は「ゾゾタウン」のようなプラットフォームに集約されてしまうと思いますが、そうではない地方の個人クリエイターが生き残れないかというとそうではないんです。彼らが「ユニクロ(UNIQLO)」のようなモノ作りを真似しても売れないでしょうが、独自の商品を作り続ける限りは需要があるんです。もちろん売上規模は全く異なりますが、「ユニクロ」には何千人と従業員がいるわけで、個人ごとに生み出せる価値はそう変わらないはずです。だからこそ、クリエイターにはモノ作りに集中してほしい。そのためにECサイト構築や決済のような誰でもできることはわれわれがサポートするという構図です。
WWD:昨年スタートしたライブコマースもその一環ですか?
鶴岡:そうです。ライブコマースはすごく良くて、ECだけでは伝わらないことを伝えることができます。実店舗で時間の余裕がある時に日本中に向けてネット上で販売をするというのは非常に有意義ですよね。
WWD:その延長として、実店舗の出店という可能性もある?
鶴岡:昨年末から試験的に複数のマルイにポップアップを出店し、ECだけでない接点を作ってきました。常設店も設けられるよう、まさに検討している段階です。そもそも、実店舗の意味が大きく変わったと思います。実店舗はもはやSNS広告のように1つの接点でしかありません。これまでのように出店料を店舗売り上げでまかなうという時代ではないなと。ECなども含めて収支が合えば、必ずしも実店舗だけで売り上げを立てる必要もありません。今後は、例えばBASEの支援で実店舗を設けられるようなサービスもやっていきたいですね。
WWD:BASEクリエイターズインベストメント(BCI)という投資事業もスタートしましたね。
鶴岡:売れ筋の商品を作りたいインフルエンサーに対して資金出資をしようというプロジェクトです。周りに言われてブランドをやろうとしているインフルエンサーではなく、あくまで本人が明確な意思を持っている人が対象です。そのため、大きなリターンは求めず、売り上げから元本だけを返金してもらうように考えています。クリエイターにとってお金の問題は常にあって、今後は一般クリエイターにも資金出資ができるようなやり方がないか考えているところです。
WWD:決済の未来はどうなると思いますか。
鶴岡:現金もクレジットカードもなくなるといわれますが、価値の支払い方法としてのインターフェイスは変わっていくでしょうね。かつては現金のパワーが強い時代もありました。昔、イベントのスポンサーをした時に企業側からチヤホヤされることに違和感を感じたんですね。これは広告枠よりも現金の方が目で見える価値があったからこそですよね。これからは支払うお金に対して商品という対価を求める時代です。毎月何百万円も稼ぐ学生だっているわけで、それは超特異な才能なんです。自分でお金を作っているわけですからね。その人独自の商品には紙幣と同じだけの価値があることをクリエイターも意識するべきです。
特に決済分野に関しては、われわれも15年9月にPAYという事業を開始しましたが、大企業まで含めて複雑な決済を担えるようなサービスを作っています。消費者にとって利便性を上げるためにも、支払い方や支払える場所を増やすことを目指しています。モノの売り方が変わり、支払い方も変わり、もしかすれば時間や商品を対価として支払うような時代になるかもしれません。そんな未来に対応できるように必要な手を打っておきたいという考えです。
WWD:金融に関しては、競合企業も増えたのでは?
鶴岡:金融分野のベンチャーは現金に代わる新しい通貨を作ろうとしてます。そう考えると、その分野を数社で争っているのであれば、競合としては少ない方ではないでしょうか。
WWD:アパレルECという市場はどうなっていくでしょうか。
鶴岡:大きい流れでいえば、市場はまだまだ大きくなるでしょう。かといって、実店舗の持つ価値が減るかといえばそんなことはありません。役割は変わっても、店舗は絶対になくならないし、ネットだけが大事かというとそうではありません。はじめの話に戻りますが、超グローバルを目指して挑戦するブランドか、ニッチで勝負するブランドか、どちらかになると思います。中途半端なブランドは生き残れません。BASEでも毎日アパレルブランドが増えていますが、競合が増えても売り上げが減るわけではないんです。これはすごくいい時代だし、以前の“裏原”の空気感に似ているような気がします。だからこそ、周りに脇目もふらずにブランドを作っていくことが重要です。自分でモノ作りができる時代に、リスクがないのであれば、誰だってチャレンジすべき時代なんだと思います。