1978年にイタリア人デザイナーのジャンニ・ヴェルサーチ(Gianni Versace)が立ち上げた「ヴェルサーチ(VERSACE)」は、今年創業40周年を迎えた。97年にジャンニがマイアミで殺害されて以降、デザインを手掛けている妹のドナテラ(Donatella)が、彼にオマージュを捧げる2018年春夏コレクションを披露したことは記憶に新しいが、そんなタイミングにドイツ・ベルリンで彼の功績を称える過去最大級の回顧展「ジャンニ・ヴェルサーチ・レトロスペクティブ(Gianni Versace Retrospective)」が1月31日に開幕した(会期は4月13日まで)。会場は、過去に国賓のゲストハウスなどとして使われてきたクロンプリンツェンパレス(Kronprinzenpalais)。3階建ての建物の2フロアに、デビュー当初から90年代までのウエアやアクセサリーが展示されている。
しかし、なぜドイツでの開催なのだろうか?その理由の1つは、ジャンニが1978年に初のファッションショーを開いたのが、実はドイツ北西部にあるリップシュタットという小さな街だったから。そして、94年にベルリンで自身がキュレーションを行った展覧会「シグネチャーズ(Signatures)」を開いた彼は、街の雰囲気を気に入り、再びドイツに戻ってくることを計画していたという。死後20年以上が経ち、その願いがかなったことになる。
同展開催の背景には、個人コレクターの大きな存在がある。というのも、展示されているアイテムはイタリアのアントニオ・カラヴァーノ(Antonio Caravano)、ブラジルのアレクサンドレ・ステファニ(Alexandre Stefani)、アメリカのアンドレア・ワイレモン(Andrea Wilemon)、ギリシャのエリ・カッカヴァ(Eri Kakkava)という4人を筆頭に世界の熱心なコレクターが所有するものだからだ。集まったアイテムはマネキン約150体分。黒のレザーにゴールドのスタッズの装飾やバンドのデザインを施したスタイルに始まり、カラフルなプリントをのせたシルクシャツやメンズウエア、スカーフ、繊細な装飾を施したイブニングウエアまで、さまざまなアイテムが会場を飾る。ひときわ大きな部屋には、ギリシャ神話や海のモチーフ、バロックテイストのプリント、白黒の幾何学模様、アニマルプリント、ポップアートといったジャンニのクリエイションを象徴する華やかなデザインが目白押しだ。圧倒的なボリュームのアーカイブを間近で見られる構成になっている。
また、開幕前夜にはオープニングガラが開かれ、コレクターやジャンニと共に働いていた関係者をはじめ、ドイツのセレブリティーやインフルエンサー、メディアが集い、開催を祝った。その目玉として行われたアーカイブのファッションショーでは、グラマラスなヘアメイクや、個性豊かなウオーキングやポージングなど当時のショーを思い起こさせる演出に、会場からは拍手が湧き上がった。
同展でただ一つ残念だったのは、ジャンニの歩みやそれぞれのコレクションについての説明がほとんどなかったことだ。個人のコレクターから集めたから仕方ないのかもしれないが、展示作品が多岐にわたるだけに、その背景にほぼ触れられていないのは不親切だろう。また、回顧展には過去の功績を未来に、そして次の世代につなぐという役割が少なからずあるはずだ。そういった意味でも、彼が活躍した当時を知らない来場者が、服を見ただけで彼のクリエイションを深く理解することは難しいと感じた。デビュー当初からジャンニのショーに出演していたモデルのパット・クリーヴランド(Pat Cleveland)も「彼の作る服はカラフルで魅力的。永遠にわれわれをインスパイアし続けるでしょう」と語っていたが、ジャンニ・ヴェルサーチは一時代を築き、今なお多くのデザイナーに影響を与えている存在。もちろん服からもそのエネルギーを感じることはできるが、“過去最大級の回顧展”を謳うからにはもう一工夫がほしいところだ。
JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。