「ポール・スミス」2017-18年秋冬コレクションのフィナーレ WWD / REX / Shutterstock (c) FAIRCHILD PUBLISHING, LLC
「ポール・スミス(PAUL SMITH) 」の創業者で大株主のポール・スミスが同ブランドのクリエイティブ面の指揮を再び執る。同氏は15年に、ヘッド・オブ・メンズウエアだったサイモン・ホームズ(Simon Homes)をクリエイティブ・ディレクターに指名し、ブランドの刷新を図っていたが、この計画を白紙に戻した。「今、私はブランドのデザインの全ての面に携わっている。別の方法でもうまくいくかどうかみていたが、私のやり方で進めたほうがいいという結論に至った。昔のように、私が全てを監督しているよ。『ポール・スミス』の精神と美学は完全復活した。“ボス”が戻ったんだ」と、おもちゃやパンフレット、ファンからの贈り物であふれたポール・スミスの会議室で語った。この日ポールは、色落ちして柔らかくなった「ポール・スミス」のビンテージのデニムシャツと、英国のウール地のダークブルースーツに、「上品なスニーカー」と称するスニーカー風のレザーシューズを合わせていた。
“ボス”が戻ったのは、デザインスタジオだけではないようだ。ポールは毎週土曜日、ロンドン・メイフェアのアルベマール通り店の店頭に立ち、社員と肩を並べて働いている。「毎週土曜日、アテネ、パリ、ミラノ、ビバリーヒルズ、東京、デンマークなど、世界中からこの店を訪れた人たちに会うことができるんだ。素晴らしいことだ」と話す。
ポール・スミス グループ(PAUL SMITH GROUP以下、ポール・スミス)の2017年6月通期決算は売上高が前期比1.0%増の1億5917万ポンド(約243億円)、純損益は前期の483万ポンド(約7億3899万円)の黒字から137万ポンド(約2億961万円)の赤字に転落した。小売りの売上高は同8.5%増の5647万ポンド(約86億3900万円)、卸の売上高は同9.9%減の7990万ポンド(約122億2500万円)、ライセンスの売上高は同43.9%増の2216万ポンド(約33億9000万円)だった。
日本では伊藤忠商事がマスターライセンシーで、メンズウエアはジョイックスコーポレーション、ウィメンズウエアはオンワード樫山がライセンス展開している。
20年以上にわたって営業していたニューヨークのプレスオフィスを閉鎖し、リストラを行った他、多くのセカンドラインとデニムラインを統合し、「ポール・スミス」と「P.S ポール・スミス」の2つのブランドだけを残した。また、コレクションの発表都市をロンドンからパリに移し、男女合同ショーを開催するなど、今期は同社にとって変革の年だったようだが、同社にとって何より大きなニュースは、ポール・スミス創業者がクリエイティブ面の指揮を再び執ることになったことだ。
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「前進するために後退しなければならないが、後退が好きな人はいない。われわれは過去2年間後退気味だったが、再編計画の成果が出始めている。後退には勇気が必要だ。卸先の多くの独立系企業がより大きなグループ企業に市場を取られ、世界中で閉店している。再調整が必要になったが、売り上げは戻ってきた」とポールは語る。
ポールによるビジネス再建計画は着々と進められており、2018年春夏コレクションの受注額は7%増、17年プレ・フォール・コレクションの売り上げは30%増で復調の兆しを見せている。新規出店にも強気で、18年は3月にベルリン、10月にロンドンに新店舗をオープンする。韓国と南アフリカでも出店を計画しており、日本の70店舗も改装する予定だ。
こうした改革を進める一方、ポールにとって変えてはならないものがある。昨今のメンズ市場はストリートファッションやスポーツ、アクティブウエアが隆盛し、シルエットがゆるくリラックスした服が増える中、ポールがこれまで以上に情熱をかけるのは、テーラーリングだ。「1月のパリ・メンズ・ファッション・ウイークで発表した17-18年秋冬コレクションでは、スポーツウエアをあえて1つも登場させなかった。私がショーで見せたかったのは、スニーカーやスポーツウエアではなく、『ポール・スミス』だ。美しいテーラーリング、ウィメンズとメンズのコート、英国の上質な生地、これらすべてが『ポール・スミス』なんだ。多くのデザイナーやブランドがスポーツウエア市場に参入し、市場が加熱しているが、すでに素晴らしいブランドはたくさんある。今ミラノの主要ブランドは、まるでスポーツウエアショップのように見える。メンズウエアは、着やすさとテーラードのバランスを取らないといけないと思っている」と語る。
しかし、ポールは最新テクノロジーを拒んでいるわけではない。しわが元に戻るウール地を使用した“A SUIT TO TRAVEL IN”というトラベルスーツは、「ポール・スミス」の中でもベストセラーアイテムだ。他にもジップジャケットや、防水防風のダウン、洗濯もできるメリノウールのトレッキングパンツやニット、伝統的なレザーを使用しているのにもかかわらず軽く柔軟性のある旅行用ブローグシューズもある。スーツなどに使用するテクニカルウールは、「エルメネジルド ゼニア(ERMENEGILDO ZEGNA)」や「ロロ・ピアーナ(LORO PIANA)」などの工場から仕入れているという。
もう1つポールが変えないものは、服を作り、売るという誇りだ。「多くのブランドは服を売るが、数はそこまで売っていない。ビッグブランドでさえ、マフラーやハットなどのアクセサリーやバッグはたくさん売るが、服はそこまで売らないところもある。『ポール・スミス』は、服を売る。スーツは年で数千着売っている。われわれのビジネスの柱は服、つまりテーラーリングなんだ」と語る。