中国でアパレルのマスカスタマイゼーションが急拡大している。メンズのスーツやシャツなどのカスタムオーダー服を専門に扱うECサイト「衣邦人(=YBREN.COM、イーバンレン)」は、2017年12月期の売上高が前年比4倍の52億円になった。ファン・チン(方琴、Fang Qin)「衣邦人」創業者兼CEOは「2018年度の売上高も同様に4倍増の200億円を見込む。マスカスタマイズ市場は20年には2000億元(約3兆2000億円)に広がる。非常に大きい」と鼻息は荒い。だが実際に、中国にしかないスマートファクトリーと採寸師というアナログ手法をうまく組み合わせたサービスで急成長を続ける同社は、米シリコンバレー発のカスタマイズシャツECの「オリジナルスティッチ」、日本の「ZOZOSUIT」に比べても、規模とシステムの完成度で先を行き、デジタル先進国の中国でも関係者から高い注目を集めている。ファンCEOと、有力パートナー工場の一つで、中国で最も先進的なジーンズのマスカスタマイズ工場である山東拉峰時装の李相哲・董事長の2人を直撃した。
カスタムオーダー専門のECサイトとして「衣邦人」がスタートしたのは、2014年12月。現在はメンズのシャツやスーツ、ニット、アウター、ウィメンズのアウターとボトムス、シャツを扱う。直近の17年12月の売上高は6000万元(約9億6000万円)で、前月の1.5倍だったという。
「衣邦人」の最大の特徴は、上海などの大都市を中心に抱えている“採寸師”の存在だ。同社は社員600人のうち採寸師だけで350人を抱え、ユーザーがアプリ経由でオーダー、あるいは計測を申し込むと、「衣邦人」の抱える採寸師がユーザーのもとを訪れる。「現在まで200万人が会員になり、延べ35万人が購入した。そのうち過去1年間に購入したアクティブ会員は16万人。顧客の獲得単価(CPA)は1人あたり500元と決して安くはないが、リピート率が異常に高く、年間購買額も一人あたり5000元と高い。これまでのファッションビジネスがフロー型だとしたら、マスカスタマイズはストック型。獲得した顧客がそのまま優良な資産になる」と指摘する。
「衣邦人」で特筆すべきは、注文から受け取りまでのスピードだ。「基本的にはオーダーから10日以内。現在12工場と提携関係にあるが、お互い余分な在庫を持つ必要がないウィン・ウィンの関係にある」。「衣邦人」は協力関係にある12工場とシステムを直結しているが、一般的に工場にとって10日以内に生産し、実際にユーザーのもとに届けるのは非常に高いハードルだ。
日本では繊維大手のセーレンが約300台のデジタルプリント機を稼働させる自社工場を武器に、女性のドレス向けカスタムオーダーブランド「ビスコテックス メイクユアブランド(VISCOTECS MAKE YOUR BRAND)」を展開しているが、最先端の仕組みを持つ同社でも注文から発送まで2週間〜3週間かかる。
ファンCEOは「中国でも、数年前からIoTを駆使したインダストリー4.0が注目を集めているが、実際に単品単位で受発注を完全に生産コントロールできる工場は数少ない。『衣邦人』は、巨大なマスカスタマイズ市場を掘り起こしつつあるが、現状ではアイテム数と能力に限りがあり、工場がかなり不足している。さらなる成長のためには生産分野でのイノベーションが必要だ。昨年からはテスト的に100万元(約1600万円)を工場に出資したり、工場の設備投資をサポートした。実際に成果が上がったため、今年は出資や設備投資のサポート、ソフトウエア開発などに1000万元(1億6000万円)を投じる計画だ」という。
「衣邦人」のパートナー工場で、中国で最も先進的なジーンズのマスカスタマイズ工場である山東拉峰時装の李相哲・董事長は「中国ではECの『衣邦人』だけでなく、リアル店舗を持つ小売店でもバーチャルフィッティングシステムと連携したマスカスタマイズビジネスがスタートしており、当社もすでに月産数千着単位で生産している。日本企業との取り引きもスタートしているが、日本はもちろん中国でも、マスカスタマイズに対するノウハウも設備も非常に不足している。今後はマスカスタマイズを広げるために、ノウハウやシステム自体を提供するビジネスも検討している」という。