「プラダ(PRADA)」は、プラダ財団内にオープン予定の施設“タワー”でショーを開催した。プラダ財団があるのはミラノの中心地から車で20分ほど離れた開発が進むエリアで、周囲には空き地や建築中のビルが多く、夜は人けが少ない。どこか荒涼とした土地に建つ“タワー”に一歩足を踏み入れば、そこには未来的な空間が広がっていた。
完成間近の“タワー”をデザインしたのは他のプラダ財団と建物と同じく、建築家のレム・コールハース(Rem Koolhaas)が率いる設計事務所OMA。大きなデジタルサイネージがゲストを迎え、シルバーのエレベーターが開けば中はショッキングピンクで目にまぶしい。ショーの会場である5階に上がると、大きなガラス窓からミラノの夜景を一望できた。夜の闇には、OMAがデザインしたロゴやなぜかバナナなどポップなモチーフのカラフルなネオンが浮かび上がる。宇宙船のアトラクションに乗り込む気分だ。
そんな未来空間でデザイナーのミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)が見せたのは、インダストリアル、フェミニン、クラシック、スポーツといった得意とする要素のミックススタイル。随所に見せたロゴ遊びもOMAがデザインした。
夜や夜景から着想を得たという今季は、ネオンカラー使いや夜景のぼかしプリントなどを多用する。しかしミウッチャ・プラダが提案するのは、そういったイメージとしての“夜”だけではない。実はそこには、“夜道をドレスで一人歩きをすることを諦めない”という、闘う女ミウッチャらしいメッセージが込められているのだ。
ビジューを飾ったピンク色のネオンカラーのチュールや、オーガンジーで包んだプリントドレスには、中綿のツイードのビスチエをレイヤード。こういった、軽くて透ける、柔らかくてフワフワ、カラフルといった要素は女性の多くが本能的に好きだが、これだけで夜道を歩くのは確かに危険な行為だ。そこでミウッチャはこれらのルックを、ブラックナイロンの中綿ジャケットや、スポーツライン「リニア ロッソ」の大きなコートで包み込んだ。足元はハイヒールにナイロンのカバーを付けている。多くのアイテムが中綿であることもあり、身に着けている女性は“服に守られている”気持ちになれるだろう。
このスタイルが現代の夜道で実際に安全かといえば、そうではない。しかし、男性社会や権力と闘う姿勢を貫いてきたミウッチャが発したメッセージは、ドレスでの夜道歩きに限らず“好きなファッションを諦めたくない”もしくは“諦めかけている”女性たちに響くものだ。肌が透けるドレスは必ずしも男性の目を意識して選ぶものではない。自分のために着たいときもあるのだ。大好きなキラキラ&ふわふわドレスで女性が一人歩きし、夜の空気を自由に楽しむ……。そんな社会がくれば、それは確かに“未来”だ。