パリコレ初日が定位置となった「ディオール」の2018-19年秋冬は、60Sをインスピレーション源にレトロで“ユース”感あふれるコレクションを発表した。会場には「ヴォーグ(VOGUE)」や「エル(ELLE)」など当時のファッション誌が壁や床、客席にコラージュされポップな雰囲気を盛り上げた。コラージュの合間には“WOMEN'S RIGHTS ARE HUMAN RIGHTS”といった文字も大きく掲げ、アーティスティック・ディレクターのマリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)が「ディオール」でデビュー以来一貫して掲げているフェミニズムの姿勢も変わらない。
マリア・グラツィアは今季、伝説の編集者ダイアナ・ヴリーランド(Diana Vreeland)が1960年代に使った言葉“youthquake”を取り上げ、20年代や60年代と同様に現在は再び“ユース”の時代であると言及。“youthquake”は“Youth(若者)”と“Quake(震動)”を合わせた造語で、女性がコルセットから解放された20年代やツイッギー(Twiggy)のミニスカートが象徴的な60年代に見られた若者たちのムーブメントを指す。
「ディオール」にとって、60年代はオートクチュールからプレタポルテへと大きくシフトした時代で、若者をターゲットにしたライン“ミス ディオールが”誕生したのもこの頃である。ショーには、シグニチャーとなっているカスケットに合わせて、英国調のツイードのプリーツのミニスカートやパッチワークした古着調のアイテムなどが揃った。
バッグではジョン・ガリアーノ(John Galliano)がクリエイティブ・ディレクターを務めた時代に誕生した“サドル バッグ”をリバイバル。形はそのままに、服と同じくパッチワークやフリンジを多用してレトロな雰囲気だ。同じくガリアーノ時代にヒットしたロゴ使い“オブリーク”も先シーズンから復活。フランドルにあるタペストリー工房で手掛けるジャカードのロゴは当時よりも立体的でどこかレトロな雰囲気だ。
老舗メゾンを継承するデザイナーの多くは、創業デザイナー以外の歴代デザイナーのクリエイションに触れることはほとんどないが、マリア・グラツィアは“よいものはよい”という考えから、デビュー当時からクリスチャン・ディオール(Christian Dior)だけではなく、イヴ・サンローラン(Yves Saint Laurent)やマルク・ボアン(Marc Bohan)、ジャンフランコ・フェレ(Gianfranco Ferre)、ラフ・シモンズ(Raf Simons)といった歴代デザイアーたちの仕事へのオマージュを込めたデザインを取り入れている。