「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN以下、ドリス)」の2018-19年秋冬のショーの招待状は、青いボールペンで名前が書かれた質素なものだった。よく見みると手書きではなく、転写プリントになっている。このアナログとテクノロジーの融合こそが今季の「ドリス」のキーワードだ。
「ドリス」といえば、インドで仕上げられた刺しゅうやジャカード、プリントなどのオリジナル柄のテキスタイルが特徴的だが、今季は細かな線で描かれた羽根や植物のモチーフとして登場した。柄はボールペンやインクを使いフリーハンドで、アーティストがブランドのアトリエで描いたもの。テーラードスーツに用いたチェック柄も手描きの緻密な模様だ。細かすぎてある意味、偏執狂的に思えるが、一本一本の線の強さからはエネルギーも感じられる。有名なアーティストとのコラボレーションではなく、あえて無名のアーティストに思いのままに描いてもらうことで、表現の自由を示している。
ファーのようなフリンジディテールも多用された。光沢のある質感はビニールテープで、太い毛糸とミックスすることで、ファーのような柔らかさと、テープの不思議なツヤ感とのコントラストを効かせている。また、タイダイに染めたフェザーは人工的なネオンカラーで装飾することで、天然の柔らかな羽根をひとひねり。それらをドレスなどには斜めに差し込むことで、ダイナミックかつゴージャスに仕上げている。ちなみにこのウールのファーは大きなトートバッグやクラッチバッグにも用いられていて、ランウエイに登場したブラウンのものはドリスの愛犬ハリー(Harry)にちなんで“ハリーバッグ”と呼んでいるそうだ。また、カラフルなフェザーはピアスとしても登場。ゆらゆら揺れるイメージは、モビール彫刻から着想している。
パリの展示会会場にはドリスの姿はなかったが、プレスの話によるとすでに将来のコレクションのためにパリ市内で生地の商談やリサーチに出かけているという。映画「ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男」の中でも、休暇の旅行中であっても必ず、スケジュールを密に組んでリサーチに貪欲な姿が捉えられていたドリス。その彼の新たな素材に対する探求心が、ブランドそのものの魅力につながっていると感じさせられた。ちなみに映画は好評で、3週間の上映予定を2カ月に延長して公開中だ。