天沼聰エアークローゼット最高経営責任者(左)と児玉昇司ラクサス・テクノロジーズ社長 PHOTO BY SHUNICHI ODA
ファッションレンタルサービスのエアークローゼットがバッグのレンタル事業を行う ラクサス・テクノロジーズとの共同キャンペーンを14日まで実施している。アパレルとバッグを合わせてレンタルできる同サービスだが、ともにレンタルサービスを運営する企業同士のコラボは珍しい。月額6800〜9800円で洋服3着借り放題のエアークローゼットと月額6800円でバッグ使い放題のラクサス。シェアリング・エコノミーが盛んなアパレル業界だが、市場の今後について両社どのように考えているのか。天沼聰エアークローゼット最高経営責任者(CEO)と児玉昇司ラクサス・テクノロジーズ社長の両者に話を聞いた。
WWD:改めて、それぞれのサービス立ち上げの経緯について教えてください。
天沼聰エアークローゼットCEO(以下、天沼):もともと、女性が働く環境や子育てによってファッションと出合う機会が減っているという課題を感じていました。そこで、洋服をキュレーションし、出合いを生み出すサービスを作れば、本当に気に入ったものを買えるんじゃないかと。その手段がレンタルサービスでした。
WWD:構想はいつころからあったんですか?
天沼:2014年7月に起業しましたが、前職を辞めてから数カ月でした。元々起業をしようと思っていて、いろいろな対象物を考えた時に、インターネットとシェアリングエコノミーの概念が好きだったこともあり、ライフスタイル全般のサポートをできるものでアイデアを100個以上出して、最終4〜5個は事業計画まで作りましたね。
WWD:ラクサスは創業が2006年8月スタートと、かなり早かったですね。
児玉昇司ラクサス・テクノロジーズ社長(以下、児玉):当時アメリカではシェアリングエコノミーの概念がすでにあって、実は初めは洋服のレンタルをやろうと思ってたんです。僕自身は4回目の起業ですが、マネタイズの基本は高いものを安くするか、複雑なものを簡単にするか、時間を短縮するか、の3つだと気づいていました。ただ、当時はリーマンショックなどが重なり、結果的にローンチは15年になりました。
WWD:なぜ、当初考えていた洋服ではなくバッグに?
児玉:クリーニングの黒字化ができないと思って。一度着たものを販売するというモデルも考えたのですが、当初の想定からブレるのであれば止めてしまおうと思いました。天沼社長がすごいのは、クリーニングや配送業者と提携するなどうまく戦い方を変えて、この課題を解決したことです。
WWD:これらの課題に対して、天沼社長は事業化段階でどう考えていましたか。
天沼:やるべきことに対してはどう解決するかを考える性格なので、あまり課題とは考えませんでした。むしろこうした複雑性は障壁にもなるし、その障壁をITの力で解決すれば、当然革命にもなるなというのが私たちの1つの考え方ですね。
WWD:今回初めて、両社がタッグを組みましたね。
天沼:ファッション全体で見た時にアパレルとバッグは相性がいいですよね。これからアクセサリーも合わせていきたいですが、他の企業と一緒にやっていくようなことが顧客への価値を向上できるはずです。
WWD:そもそも、両社のターゲットは非常に似通っていたのでしょうか。
天沼:われわれは20〜40代で働く女性がターゲット。そもそも私たちはライフスタイル軸で、ターゲットの絞り方が違うんじゃないでしょうか。もちろん、重なる部分は多いですが、切り口が違うわけです。
児玉:ラクサスのターゲットはブランドバッグの価値観を楽しみたいという層。24〜50歳と一様に顧客がいて、だから社内では平均を取るなと言っていて。僕たちの課題はマインドセットです。子どもの行事で目立つからと、ブランドバッグは使っちゃいけないものだと考えている人もいるんですよ。新しいバッグが欲しいけど、どこに持っていくのということを考えると、高いお金を出してまで買えないと。だから金額面をクリアにしてあげると、自由になるんです。
READ MORE 1 / 3 シェアリングは信頼関係から生まれた
児玉昇司ラクサス・テクノロジーズ社長 PHOTO BY SHUNICHI ODA
児玉:例えば、携帯電話を使い始めた理由って覚えてますか?
WWD:あまり、考えたことがないですね。
児玉:僕は今年41歳なんだけど、携帯電話を使い始めた理由は単純に安くなったからなんです。当時携帯電話は富の象徴だったんですね、便利でも高すぎたから我慢しちゃう。それで、はじめは一部の人が「携帯電話は危ないものだ」みたいなことを言っていたんだけど、料金が下がって普及した今ではそんなこと言う人はいないですよね。インターネットも同じで、昔は高すぎたんです。
天沼:インターネットは特別なものでしたね。環境の整っている人だけがアクセスできるもの。状況が変わったのはスマートフォン隆盛の時で、生活に沿ってインターネットが普及しました。はじめ、日本のインターネットはハンドルネームを使った書き込みに代表されるように、匿名性が重要でしたよね。でも、スマホによって自分を開示できる場所に変わっていった。それでインターネットはインフラ化したんですが、同時にシェアリングが伸びてきたと思っていて。そして、個人同士のオープンな受信発信ができるようになりました。ここには信頼関係が必要です。シェアリングにおいて、この信頼関係は欠かせません。
WWD:具体的に信頼関係とはどういうものですか。
天沼:例えばフリマやオークションのような個人間取引は信頼関係がないとできないですよね。これは、昔なら信じられないことです。
児玉:ECサイトでも個人情報を気にしなくなったのは面白いですね。価値観が変わってきたんだなと思います。
天沼:シンプルに言えば合理的ですよね。これまで事業者側の価値として頑なに守ってきたネットの部分を開放するということは。でも、インターネットって両極端になりがちなんですけど、合理的な部分と非合理的なものの両方が必要だと思うんです。例えば、エアークローゼットの商品の届け方は非合理的です。普通なら業務効率化のために均一の段ボールを使いますが、われわれは配送1つとっても人間感情に訴えかける部分があると思っています。人々の生活で合理的なモノが増えてきたからこそ、非合理性が求められる。だから、非合理的でも顧客が求めるのであれば、企業としてはそれを徹底的に残すし、進化させるべき。そういうバランスがこれからの事業者にはもとめられるんじゃないかなと。これまで特にIT分野で合理化が進められてきた中で、今後は非合理な部分がかなり残っていくと思っています。
READ MORE 2 / 3 サービスもユーザーも“セクシー”であるべき
天沼聰エアークローゼット最高経営責任者 PHOTO BY SHUNICHI ODA
WWD:もっとも合理的と思われるデータマーケティングのような分野にも、非合理な部分が必要なんでしょうか。
天沼:そう思います。何のためにデータを使うのか。われわれは顧客が欲しているものを知るためにデータを活用します。そこは合理的ですが、そのあと顧客が欲しいものとの出合う方法は非合理的でもいいと思っていて。このバランスがファッションとは非常に合っていると思います。
児玉:僕も創業当初から数カ月ごとに箱を変えてるんです。なぜ箱にこんな工数をかけるのか、やっぱり“セクシー”でいたいんですよね。“ロック”でもいいですが(笑)、この価値観をユーザーにもある意味押し付けたい。それが合うならサービスを使って欲しいんです。極端な話ですが、当社ではいわゆるクレーマーに対しては“謝らない”んです。
WWD:それはロックですね(笑)。
児玉:ほんの一部しかいないクレーマーへの対応にオペレーターの時間を使ってしまうと、結果として人件費がかかってサービスが高くなる。もちろん、何かの理由でバッグが汚れてしまった場合には、次の顧客にきちんと使ってもらえるよう対処するために、なぜ汚れたのかといったやり取りはします。そんな時に逆切れされる場合があるんですよ。僕は顧客にもセクシーでいて欲しいと思いますね。いい言葉を使って欲しいし、箱なんてどうでもいいと思って欲しくない。
天沼:私もベースは近いかもしれないです。サービス価値を届ける上で、共感値が低い人にサービスを合わせるのは共感度が高い方に失礼ですよね。よく顧客から求められるのは満足することだと言われますが、私は事業者にしかできないのは、顧客を感動させることだと思うんです。新しく、満足できない場合の初月返金制度を始めましたが、これも満足できなかった人を個別に必死で取り込むのではなくて、ここで得られた理由をもとに、共感値の高い方に向けたサービス向上をしたいんです。もちろん、これを機に利用してくれる共感値の高い人を見つけたいという目的もありますが。
児玉:天沼さんが最初におっしゃった“信頼関係”もこういうことだと思います。インターネットが信頼関係で成り立つようになると、いわゆる“威張りん坊”は淘汰されていくんだと。お金を払ってくれればどんな顧客でもいいと考える経営者もいなくなるんじゃないでしょうか。
READ MORE 3 / 3 ECと実店舗、販売とレンタルという構図ではない
WWD:エアークローゼットは特にアパレルとの連携に積極的ですが、ファッション業界との関わり方のさらなる可能性をどう考えますか。
天沼:よく、IT業界のやり方は間違っていて、アパレル業界がもっと頑張るべきだ、という意見がありますが、そうじゃないと思います。顧客に提供する価値や目的が同じであれば、どんな企業様でも組みたいと思うんです。もちろん、目指す社会の形が違うなら、組まないほうがいい。私は、例えば写真だけきれいにとって質の良くない商品を売って利益を出すような会社は淘汰されればいいと思っています。良い社会とは、良いモノ作りをしている企業と顧客が出合う社会なんです。
児玉:僕がシェアリングの概念を考えた頃は、中国でモノを作れば安くなるという時代でした。でも、人件費が上がったから別の地域を探そう、というのはもはや時限爆弾です。いずれ終わりが来るだろうと。安いものを作ることには限界があるんですよね。だから僕は、適正にお金を回して行くことが重要だと考えます。だって、いいものは高いんですから。じゃあそれを安くするんじゃなくて、シェアすれば良いよねと。高くて良いモノをみんなで共有していく美しいサプライチェーンじゃないとこれからはやっていけないですよ。
天沼:シェアリングはモノと人のマッチングです。モノ作りをしている事業者がシェアリングに対して否定的になることはなくて、良いモノを作っていれば、必ず顧客と出合えます。私はモノ作りを非常に尊敬していますが、彼らがその出合いを自ら探すのは非合理です。だから、それぞれ得意な領域を使えばいいんです。マッチング部分はわれわれに任せてもらえればいい。
WWD:その考えは小売り、つまり実店舗にも当てはまりますか?
天沼:私はリアルなショッピング体験も大好きですが、これは時間の使い方に対する考え方の問題です。 お店での買い物は移動コストと検索(商品を探す)コストを払っていますが、ECでは移動コストがなくなりました。エアークローゼットは第3の選択肢として、検索コストもなくしたんですね。でもこれはあくまで選択肢であって、どれが正しいといったゼロイチの問題ではありません。リアルな場所でしか提供できない価値もありますから。お店へ行って悩むのが面倒と考える人に対しては、シェアリングサービスを使って相対的な時間価値を高めるべきだと思います。
児玉:お店で選ぶ楽しみはありますが、実は選ぶ苦しみもあって、通販では使う時間の95%が迷い苦しむ時間なんです。これは、決断を失敗したくないという心理が大きく影響しています。レンタルは失敗しないですからね、経営でも決断をなかったことにできるならうれしいですが(笑)。
天沼:買い物で苦しむ時間はなくして、楽しむ時間の価値を最大化すればいいですよね。だから通販か実店舗か、買うか借りるかといった構図は間違っています。
WWD:全て選択肢であって、時間の使い方を決めるのはユーザー自身ということですね。
児玉:しかも、買うことだけにフォーカスすると、それはあくまで手段なので、間違っています。ファッションの本当の楽しみは着ることですからね。あくまで手段としての選択肢です。そこまで含めて、評価を受けているブランドは体験価値が高いのであって、これからも当然残っていくはずです。うまく機能分化していければ良いんだと思います。