「ジバンシィ」2018-19年秋冬コレクションのバックステージ PHOTO BY IKU KAGEYAMA
“ファーフリー”がトレンドになっていることを受けてか、先日、「フェイクファーとリアルファー、どちらを選ぶべき?」という趣旨の取材をあるファッション誌から受けた。結論から言うと、「デザインが気に入って、着ていて心地よいと思う方を選べばよいのでは?そもそも“正解”はなく、さまざまな背景を知ったうえで、各自が“答え”を出せばいいと思います」と答えたが、私自身もファーフリーだけではなくサステイナビリティーやエシカルについて考える機会を得て、あらためてもっと知りたいと思った。
「ジバンシィ」2018-19年秋冬コレクションのバックステージ PHOTO BY KIM WESTON
すでに、ブランド、企業として“ファーフリー宣言”をしたのは「トミー ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)」「カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)」「ギャップ(GAP)」「ユニクロ(UNIQLO)」「H&M」、アルマーニ・グループ(ARMANI GROUP)、「スナイデル(SNIDEL)」や「ミラ オーウェン(MILA OWEN)」を擁するマッシュ・ホールディングス(MASH HOLDING)などで、ラグジュアリー・ブランドから有力グローバルSPAまでがすでにリアルファーの使用を廃止している。さらに17年10月、今をときめく「グッチ(GUCCI)」が、18年春夏シーズンから一部を除きリアルファーを廃止することを発表したことが大きなインパクトを与えた。その後、「マイケル・コース(MICHAEL KORS)」や「ジミー チュウ(JIMMY CHOO)」も続いている。また、先日行われた「ジバンシィ」18-19年秋冬のファッションショーでは、リアルファーと見間違えるほどクオリティーの高いフェイクファーコートが登場し強く印象を残した。
SNSを騒がせた生きたまま毛皮を剥ぐ映像についての検証
ファーフリーに向かう大きな波が押し寄せ、リアルファーがやや劣勢と感じることがあるが、そもそもこの流れは、「リアルファーが悪」のような投稿がSNSを騒がせていることにも関係しているように思う。私自身も3年半前に「ファッションにおけるサステイナビリティーとは何か」という特集に取り組んでいた時に、リサーチをする中でたまたま生きたまま動物の毛皮を剥ぐショッキングな映像を見つけた。しかし最近、服部宏久・日本毛皮協会理事長にインタビューした際「これは、とある動物愛護団体が生きたまま動物を剥ぐなどのやらせ映像を中国で制作し、SNSで拡散したもの。そもそも毛皮専門業者は、毛皮を痛めるのでそういったことはしない」と断言した。そうした情報を持たない当時の私は、それを信じ込んでしまった。多くの人も同様に信じてしまっただろうし、「毛皮は悪」という印象を持ってしまったのではないかと思う。ソーシャルメディアの発達とともに、消費者への直接的なアプローチが可能になったことで、よりいっそう情報が氾濫するようになったが、それを受け取る側はどの情報を信じるかも問われる時代になったと感じた出来事だった。
一方で、岡田千尋・認定NPO法人アニマルライツセンター代表理事は、「(やらせ映像である)証拠がない。生きたまま毛皮を剥ぐ事例はある。04年頃、その現状を暴いたことで各国メディアがトップ記事で報道した。日本でも話題になり始めたのは05年頃のこと。その後、韓国メディアは10年に生きたまま毛皮を剥ぐシーンを含めた調査映像を公開したり、ドイツのメディアが14年にドキュメンタリー映画を制作したりもしている。生きたまま毛皮を剥ぐのは主に中国で今でも行われており、道端で行われるほど日常的なことになっている。電気ショックや、叩いて気絶させてから剥いでいるが、中には気絶していない状態で剥がされる動物もいる」と反論する。また、「ラグジュアリー・ブランドがファーフリー宣言を始めたのはここ数年のことだが、『ユニクロ』は日本で話題になり始めてすぐの06年に、すでにファーフリー宣言をしている」と続ける。
READ MORE 1 / 1 リアルファーとフェイクファー、どちらがエコか?
「グッチ」2018-19年秋冬コレクション PHOTO BY KIM WESTON ARNOLD
そもそもエコファーという言葉はどこからきたのか。エコファーというと、地球環境に配慮したファーという印象を持つが、果たしてそうなのか。海外では、フェイクファーをFAUX FAR(フォー ファー:fauxは仏語で偽という意味。英語圏では少しオシャレなイメージで使われるそう)と呼ぶのが一般的だ。エコロジーの視点から見ると、植物性成分でなめした動物の毛皮であれば土に還るが、それ以外の方法でなめした毛皮は土には還らない。石油から合成したエコファーは現段階では土に還すことは難しく、地球にやさしいとは言い難い。一方で、オランダの研究機関CEによると、飼育からなめしまでの工程を考えた時にリアルファーはフェイクファーの28倍の二酸化炭素を排出するという。環境負荷を考えるとフェイクファーの方が優位といえるのではないか。また、ポリエステルやアクリルは再生することができる。そう考えると、現在あるものをリサイクルし再生することで、サステイナビリティ―を追求することは可能かもしれない。
「ジョルジオ アルマーニ」2018-19年秋冬「コレクション PHOTO BY KIM WESTON ARNOLD
“アニマルライツ”の視点ではどうか。「動物の命を守る」というポリシーであれば、言うまでもなくリアルファーはNOだ。しかし「命をいただく」という観点からは、毛皮まで余すことなく利用する方が筋が通っているし、サステイナブルである。服部理事長によると「羊やウサギは食用のものを用いている。“副産物”というと語弊があるかもしれないが、毛皮を取るものだけではない」という。また、「ミンクやキツネは毛皮のために飼育するが、毛皮以外の部分は化粧品原料や飼料、肥料になる」そうだ。ただ、すべてを用いる前提としても、毛皮のために飼育するのは心に引っ掛かかりが残るかもしれない。では、食用として当たり前のように飼育され殺されている牛や豚、鶏はどうか。動物の命を守るという観点だけでは、私たちの生活自体が大きな矛盾をはらむことになる。
岡田代表理事は「例えばウサギは、食用では若い段階で殺し、毛皮用はもう少し育った状態で殺す。そもそも、食用と毛皮両用のウサギもいないことはないが、それぞれ毛皮用と食用で飼育されている。また、キツネやミンクはそもそも飼育に向かず、異常行動など問題も起こっている。私たちの活動は、ターゲットにしやすい毛皮の運動を象徴的に扱われているが、実は現在、畜産の方に時間を費やしている。毛皮は必要ないと考える人も多くなってきたが、肉はというと難しい。そのため、畜産においてはアニマルウェルフェア(動物福祉)を目指している」と述べる。アニマルウェルフェアとは「感受性を持つ生き物としての家畜に心を寄り添わせ、誕生から死を迎えるまでの間、ストレスをできる限り少なく、行動要求が満たされた、健康的な生活ができる飼育方法をめざす畜産のあり方(アニマルウェルフェア畜産協会)」だという。
デザイナーの仕事は選択肢の幅を広げること
「ステラ マッカートニー」2018-19年秋冬コレクション PHOTO BY KIM WESTON ARNOLD
私個人の話をすると、3年半前のサステイナビリティー特集を進める中で、ブランド立ち上げから“サステイナブル”なモノ作りに取り組むステラ・マッカートニー(Stella McCartney)の姿勢に非常に共感した。彼女自身もベジタリアンで、リアルファーだけでなく、リアルレザーも用いない。生産もできる限りサステイナブルな方法を取り、素材や製造手段の開発にも取り組んでいる。15年にステラが来日した際にモノ作りの姿勢について尋ねると「デザイナーにとってクリエイティブであることは必須よ。その上で、新しいシルエットやヘムライン、素材を作り出すのと同じくらい大切でエキサイティングなことは、商品の製造工程を問い直すこと。私はけっして人のせいにしたり、責任を感じさせたりしたいわけではないの。人々に情報を提供し、教えてあげたい。そうしたらそれぞれが自分で選択できるから。私は選択肢の幅を広げたい。完璧な人間なんていないし、私も完璧ではない。でも、小さなことでも何かしらアクションを起こした方が絶対にいいと思っているわ」とクールに答えたのが印象的だった。
1年に4回新作を発表するファッション業界において、本当の意味でのサステイナビリティーの追求は難しいが、少なくともその背景を知った上で選択するのは作り手の責任であると思う。そして、消費者も少し立ち止まり、手にするモノがどのように作られているのか、その背景を考えてみることが必要であるように思う。