「ジーユー(GU)」は3月17〜20日、キム・ジョーンズ(Kim Jones)とのコラボコレクション“キム・ジョーンズ ジーユー プロダクション(KIM JONES GU PRODUCTION)”のポップアップショップをドーバー ストリート マーケット ギンザ(DOVER STREET MARKET GINZA以下、DSMG)にオープンする。ポップアップでは、コレクションの一部アイテムを21日の一般発売に先駆けて販売する他、DSMGのスペシャルロゴを配した限定アイテムも用意する。そんな特別な会場インスタレーションを手掛けたのは、セットデザイナーのゲイリー・カード(Gary Card)だ。「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」や「バレンシアガ(BALENCIAGA)」などのブランドをはじめ、ロンドンのDSMや世界の百貨店のショーウィンドーのデザインの他、「デイズド&コンフューズド(DAZED & CONFUSED)」や「i-D」とのコラボなど、ファッション業界には欠かせない存在のゲイリーとはどんな人物なのか。オープン間際の会場で設営中のゲイリーを直撃した。
WWD:これまでの経歴を簡単に教えてください。
ゲイリー・カード(以下、ゲイリー):まずセント・マーチン美術大学(Central Saint Martens)でシアターデザインを学んだ。子どもの頃、とにかくアレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)に夢中で、ただただ彼と同じ大学に行きたかった。マックイーンが僕の世界の中心だったんだ。だからそこで何を学ぶかは何でもよかった。シアターデザインは衣装デザインからイラスト、空間デザインまでいろいろ学べるから、大学を卒業する頃にはたくさんのスキルを身につけていたけど、何になりたいかは決まっていなかった。それでまずグラフィックデザイナーになり、シューズデザイナーもやっていた時期が数年あった。同時に夜や週末には、大学からの友だちで「デイズド&コンフューズド」の専属フォトグラファーになったマット・アーウィン(Matt Irwin)のために、撮影に使うマスクやコスチュームを制作していた。そこから僕のキャリアがスタートした。ニコラ・フォルミケッティ(Nicola Formichetti)がロンドンのドーバーなど、素晴らしい人たちを紹介してくれたんだ。いつのまにかファッションのセットデザイナーになっていたよ(笑)。
WWD:「コム デ ギャルソン」や「バレンシアガ」など、多くのブランドやデザイナーと仕事をしているが、どうやって知り合ったのですか?
ゲイリー:若い頃は怖いもの知らずだったから、ファッション業界人が集まるパーティーにとにかく行ったんだ。誰がどんな人かも知らなかったから、誰でもかまわずそこで会った人に自己紹介していた。完全にうぬぼれていたね(笑)。今はかなりシャイで、誰かに会うときは尊敬の念を持って接しているよ。
WWD:作品の構想の立て方から作り方まで、仕事のやり方について教えてください。
ゲイリー:クライアントや、どんな仕事かにもよるね。クライアントが何をしたいかはっきりしているときは、そのビジョンを現実に作り上げるのが僕の仕事。例えば今回のキムとの仕事については、僕たちは何年も前からお互いのことを知っていたから、とりあえず僕たちがお互いに作ったものを形にしてみたんだ。彼が昔使っていたプリントや色使いを蘇らせてインスタレーションの所々に散りばめてみた。まるでキム・ジョーンズの神社だね。
WWD:これまでの仕事で、一番印象に残っている仕事は?
ゲイリー:いくつかあるけど、おそらく「コム デ ギャルソン」2012年春夏コレクションのためのヘッドピースを作ったことだ思う。その時のコレクションテーマは“ホワイトドラマ(WHITE DRAMA)”だったんだけど、(川久保)玲は、何もコレクションについて教えてくれなかったんだ。彼女はとにかく全部寄せ集めてカオスなものを作りたかったんだと思う。だからボールがついたものや巨大な王冠などのヘッドピースを作った。暗い部屋にヘッドピースを並べて、玲がひとつひとつ見てまわってお気に入りを選んだんだ。ハラハラしながら、同時にとても楽しかったのを覚えている。そして次の日、選ばれたヘッドピースがランウエイを歩いたんだ。モデルの背景じゃなくて、モデルの頭の上に僕の作品があった。「コム デ ギャルソン」の歴史の一部にこんなふうに参加できるなんて、間違いなく誇りに思える仕事の1つだ。
WWD:「コム デ ギャルソン」とあなたのデザインは共通点はあると思いますか。
ゲイリー:ある。だからこそ「コム デ ギャルソン」やロンドンのドーバーと長年仕事しているんだ。今着ているこの「コム デ ギャルソン」ジャケットも、すごく僕っぽい(笑)。ドーバーと「コム デ ギャルソン」には美しいカオスがある。(川久保)玲は、混ぜることができないものを混ぜて、そのカオスがこれまでとは全く違う新しいものを生み出すんだ。それこそ僕がいつもドーバーと仕事するときに心掛けていることだ。全ての作品のどこかにカオスな要素を埋め込んでいる。彼らも僕も微妙なふわっとしたものが嫌いなんだ。だから彼らとの仕事はいつも楽しい。
WWD:キムとはどのようなきかっけで、一緒に仕事をするようになったんですか?
ゲイリー:実はキムと仕事するのは今回が初めてなんだ。彼とは10年、いやもしかしたら20年以上友だちで、これまで何年もアイデアを出し合い、一緒に仕事したいとは話していたけど、お互いのスケジュールが合わなかった。でも今回お互いのスケジュールがマッチして、僕は初めて東京に来ることができたし、まさにパーフェクトだった。東京に来ることも楽しみだったけど、このプロジェクトももちろん楽しみだった。
WWD:そもそもキムとはどうやって知り合った?
ゲイリー:ロンドンのソーホーに、トゥー2マッチ(Too 2 Much)というクラブがあったんだけど、キムとはそこで出会った。何年か前にキムは「トップマン(TOPMAN)」とコラボしていて、僕は夢中になってたくさん買っていたんだ。その日もキムがデザインしたパープルとブラックのストライプのフーディを着ていて、まるで映画「TRANSFORMERS」のバンブルビーのパープルバージョンみたいだった。そしたらキムが偶然居合わせて、「これ、デザインしたの君だろ?」って話しかけたんだ。そこから友だちになった。
WWD:キム・ジョーズ ×「ジーユー」のコラボの感想を教えてください。
ゲイリー:何年かぶりの彼自身のコレクションを、みんなが見ることができることは素晴らしいと思う。十数年という時を経て、全く新しい人たち、新たな世代が、この素晴らしく鮮やかなコレクションを体験できるんだ。例えばこのおかしなキャラクター、ミスター・カーキンとかね。
WWD:(会場にいたキム・ジョーンズに対して)ゲイリーの作品の魅力はなんだと思いますか?
キム:さまざまなスタイルやテクニックを持っていて全く違うものを組み合わせるところ。しかもクリエイティブで、とても才能がある。だから今回仕事を依頼したんだ。つまり、彼の作品全てが好きだね。
WWD:東京で何が楽しみですか?
ゲイリー:ありすぎてどこから話し始めたらいいかわからない。建築もそうだし、道も空にかかる電線も、この街の全てが楽しみだった。全部正確で緻密なんだけど、そこにはカオスがある。なぜ僕が東京が好きなのか語り始めたらきりがない。漫画やアニメ、日本のサブカルチャーに囲まれて育ったんだ。だからそのカルチャーのホームに来ることができて本当にうれしい。昨日は「AKIRA」と東急ハンズに散財してしまった。ちゃんと日本語を使って買い物したんだよ(笑)。今日で滞在5日目、明日が最終日だけど、もうここに戻って来るのが楽しみで仕方ないよ。