韓国ブランドの特徴として、ECサイトでのエディトリアル記事への注力具合があげられる。少しでもリアルなコーディネートの参考になるような独自の世界観を写真で表現するその手法は、ECサイトを超えてもはやメディアとも捉えられる。そんな韓国EC市場で、メディアと通販の融合を実現したビジネスモデルがある。それが「29CM」というECサイトで、メディアコンテンツとプロダクトが境目なく、うまく融合されたサイト構成となっている。3月には韓国スタイルコーデアプリの「スタイルシェア」傘下に入ったことでも知られるが、今後大きなポテンシャルを持つ“メディアの新たなビジネス”に挑戦する29CMのイ・チャンウ社長にソウルの本社で話を聞いた。
WWD:会社創業の経緯について教えてください。
イ・チャンウ29CM社長(以下、イ社長):2001年にデザイン雑貨ブランドの「テンバイテン(10 x 10)」を立ち上げ、事業を売却した後、11年にスマホに特化したネットショップとして「29CM」を始めました。
WWD:会社の組織体制について教えてください。
イ社長:社員は100人くらいいて、コマースやメディア、システム開発、経営などのチームに分かれています。自社の地下にスタジオを作って、そこでは社員としてフォトグラファーやデザイナーが働いています。
WWD:「29CM」ではズバリ、何をやっているのでしょか。
イ社長:コンテンツが豊富なブランドが出店し、コンテンツを好きな顧客が見にくる。マッチングの場ですね。現在サイトでは2000ブランド、7万アイテムを扱っています。
WWD:「29CM」のターゲットは?
イ社長:23〜33歳が主力層で、もともと女性が8割でしたが、今では男性が4割まで増えました。メンズカテゴリーの成長率が一番高いですね。
WWD:メディアのように見えるサイトですが、ネット販売もしています。メディアなのか、通販なのか、どちらの認識でしょうか。
イ社長:メディアをやっている人にサイトを見せると、「通販みたいだね」と言われ、ネットショップをやっている人に見せると、「メディアに見える」と言われます(笑)。自分としては、そのどちらでもなく、融合された新しい形の“媒体”という認識です。ざっくり言えばコンテンツとプロダクトを扱っているわけですが、“売るためのコンテンツ”と“見せるためのプロダクト”です。例えば、「29CM」の別注商品があって、それをメディアとして見せながら実際に販売をするといった流れです。しかも、別注アイテムを作れば、ビジネスとして意味のある個数が売れます。
WWD:サイトで扱うブランドとの取り組みには、どのようなやり方がありますか。
イ社長:ブランドが商品を出店することもあれば、単なるメディアとして取り扱うだけの場合もあります。例えば、「フィラ(FILA)」とは新商品のローンチに合わせて別注商品を作ったこともありますし、商品のないエアービアンドビー(AIRBNB)ではクーポンへの送客をするといったキャンペーンを実施しました。
WWD:現在の売上高は?
イ社長:年商は30億円で、今年は50億円まで成長させていきたいと思います。特にメディアの広告収入を伸ばしていきたいです。
WWD:韓国ブランドの多くはECサイトでありながら、エディトリアル記事を発信していますよね。これは韓国市場独自の特徴なんでしょうか。
イ社長:韓国のECブランドの大多数が小さな資本でスタートした個人企業です。だから、一番欠けているのが信頼性なんです。その信頼性をサイトで少しでも高めるために説明だったりエディトリアルなどの要素を入れるんだと思います。そうすることで想像しやすいですよね。これは個人的な意見ですが、日本人はECサイトの情報を見るだけでどんな洋服か想像ができる人が多いのに対して、韓国人は他人が着ているものを見た方が買いたくなる傾向にあるように感じます。
WWD:日本での事業展開の可能性は?
イ社長:もちろん検討をしています。ただ、その場合、ブランドとの取り組み方というビジネスモデルを導入することになるので、あくまで日本で日本企業に対して同じようなメディア展開をすることになるでしょう。実は、立ち上げに日本の企業などをとても参考にしました。商品の見せ方や説明の仕方など、特に出版業界と実店舗から学んだことが多いです。
WWD:参考にした日本企業ってどんなところですか。
イ社長:例えば、ビームス(BEAMS)ですね。彼らはセレクトショップという範囲を超えて、ライフスタイルや最近ではラジオまでやっています。
WWD:ちなみに、グローバルで参考にしたブランドや事例はありますか。
イ社長:一番最初に参考にしたのはパリのコレット(COLETTE)でした。限られた空間に凝縮したテイストが最高でしたよね。それから、「ミスターポーター(MR.PORTER)」。「ミスターポーター」とはすでに仕事をしたことがあります。
WWD:日本市場を参考にしてきたわけですが、進出できるポテンシャルがあると思われますか。
イ社長:日本だと実店舗のようなコンテンツ作りをネットでやっている企業が少ないですよね。なぜ、実店舗のような世界観・コンテンツ作りをウェブにも導入しないのかが疑問です。リアルの方が完成度が高すぎて、ウェブでは顧客がそのニーズを感じていないんでしょうか。
WWD:日本のECサイトでは費用対効果を求めるために、大きな予算をかけてまでコンテンツを作りこまない傾向にある気がします。「29CM」としては、ウェブでも費用をかける意味があると考えているということですよね?
イ社長:たしかにパソコンに限られたウェブ環境では費用対効果が見込めないかもしれませんが、スマホの世界ではSNSの拡散力などを駆使して、うまく効果を上げることができるはずなんです。
WWD:反対に、韓国でこのビジネスモデルを実店舗に当てはめるという可能性はないんですか。
イ社長:それは本当に難しくて、物を買う顧客のレベルという課題があります。顧客が実店舗でそこまで求めないんですよね。日本は顧客のレベルが高いからこそ、実店舗に注力すれば反応があるんだと思います。もう1つの課題が、流通チャネルです。日本では実店舗での別注や独占販売が多くありますが、韓国ではどこかのお店で売れたブランドをすぐ他企業も追随して扱おうとするんですね。だから、世界観を作るのではなく、儲かるためのお店作りが主流になってしまっています。日本では少し値段が高くても、世界観のあるお店でモノが売れますよね。それは、価値に対してお金を支払っているんです。だから最近は感度の高い韓国人は日本の実店舗に憧れてるんです。韓国ではマーケットが追いつかないような気がします。