エルメス(HERMES)が3月16日から18日までの3日間、パリのグラン・パレで開催した馬術の競技大会「ソー・エルメス(SAUT HERMES)」を取材しました。取材前は正直言って、「馬なんて、縁遠い世界」とどこか他人事でしたが、実際に観戦したら、大興奮!すっかり魅力にハマりました。馬術は東京オリンピックに向けて注目のスポーツのひとつ。写真を交えて詳細をレポートします。
同イベントは2010年からスタートした障害飛越の国際大会で、今年で9回目。リオデジャネイロ・オリンピックで金メダルを獲得したフランス代表の3選手、ロジェ=イヴ・ボスト(Roger-Yves Bost) 、ケヴィン・ストー(Kevin Staut)、フィリップ・ロジエ(Pilippe Rozier)のほか、世界のトップライダー50人が出場しました。
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「ソー・エルメス」は、選手にとっては憧れの舞台。フランス馬術連盟(FFE)および国際馬術連盟(FEI)認定のカテゴリーの最高峰であるCSI5レベルの大会で、ここでの成績が4年に1度開かれるワールドカップへの出場権獲得を左右します。
CSI5レベルの大会は世界に複数ありますが、1社の名を冠した大会は「ソー・エルメス」のみ。パンフレットから会場装飾まで、「エルメス」一色です。ちなみに「ソー」はフランス語で、「ジャンプ」を意味します。
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競技は、高さ約140cmの障害を既定の順番通りに飛び越えタイムを競うもので、バーを落とすたびに減点となります。走る馬の歩幅は平均約3.6m。大きく引き締まった体の馬とライダーが一体となり、速いスピードで次々障害を飛び越える姿は迫力があって美しく、フランスで人気の高いスポーツです。会場には週末ということもあり、多くの親子連れやカップルが訪れていました。また、競技内容に性別がなく、選手の年齢幅が広いことも特徴で、本大会には20代から50代までの男女が出場しました。
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会場内には多くのブースが出ています。乗馬を趣味としている来場者も多いことから、特に職人によるデモンストレーションには人だかりが。同社は1837年に馬具工房として創業して以来、馬とのつながりを大切にしてきました。馬具が日用品ではなくなった今も、趣味の道具としてだけではなく、スポーツ用品として進化を遂げていることがわかります。進化しているのが、鞍の内部なのでパッと見はわからないのですが、例えばスポーツメーカーが陸上選手とランニングウエアやスニーカーを開発するように、エルメスはライダーとの2人3脚で馬具の研究開発を行っています。同社がパートナーライダーと呼ぶ、サポート選手を抱える理由のひとつもそこにあります。
「馬はいわば乗り物で、アクセル、ブレーキ、ハンドルの3つを人間の体の動きで馬に伝えるのが基本。CSI5レベルの馬ともなればF1マシンを乗りこなすようなもので高度な技術が求められる」と教えてくれたのは、エルメス銀座店の後藤浩二朗・馬具テクニカルアドバイザー。生きた乗り物である馬とライダーが信頼関係を結び、的確な指示を伝えるために馬具の進化は重要なのです。
日本人としては今年、米国在住のカレン・ポーリー(Karen Polle)が初めて「エルメス」のパートナーライダー契約を結びました。会場で会った、白いジョッキーパンツが似合うカレンは「『エルメス』のパートナーライダーになるのは夢だった。まずは世界選手権での優勝を目標に、そして2020年のオリンピックでは日本人として舞台に立てるよう頑張りたい」と話していました。
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乗馬服や馬具といった実用品から限定デザインのスカーフなど、ファッションアイテムの販売コーナーも充実。乗馬グッズを入れるナイロン製のトートバッグや、馬用のブランケット、乗馬服の上に羽織るポンチョなどはファッションとしても楽しめるデザインのため、多くの人でにぎわっていました。
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週末ということもあり、来場者には小さな子ども連れの親子の姿が目立ちます。記念撮影のフォトブースやポニー乗りの体験コーナー、蹄鉄投げゲーム、デジタルでの乗馬体験など一日をここで過ごせるエンターテインメントがそろっています。
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1日の最後には、「ジンガロ」の演出などで知られる演出家バルタバス(Bartabas)と、ヴェルサイユ国立馬術アカデミーによるショーが行われます。16日はすべての競技が終って障害が取り払われた会場に、1頭の真っ白な裸馬が駆け込んで自由に走り回りました。夕暮れの馬場を、長いたてがみと尻尾を揺らして走る姿は神秘的で、競技で見た馬の調教された動きとは対照的な迫力にうっとり。続いてたくさんの裸馬が一斉に登場し、こちらも自由に遊びまわり解放的な光景を演出しました。
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会場でライダーとすれ違うとき、動物的な気配を感じました。静かでピリッとしたオーラ―を放っているのです。オリンピックのゴールドメダリストともなれば、ライダーに限らずそうなのかもしれませんが……。前出の後藤さんはこうも教えてくれました。「馬に対しては愛情を持って接するが、感情的に接してはならない」と。馬という、美しく賢く大きく、本来は草をはんでのんびりと過ごすことが好きな動物を駆り立て、意のままに動かすことができるライダーは自身の体も精神も相当鍛練しているのでしょう……。憧れます。