ジョゼ・ネヴェス=ファーフェッチ最高経営責任者:ポルトガル出身。1990年代半ばにシューズブランド「スウェア」をスタート。複数のビジネスを手掛けた後、2008年に「ファーフェッチ」をスタートした PHOTO BY SHUNICHI ODA
ラグジュアリーファッションECモール「ファーフェッチ(FARFETCH)」の成長が著しい。この1年だけでもネッタポルテ(Net-A-Porter)を創業したナタリー・マセネット(Natalie Massenet)英国ファッション協議会会長の非業務執行共同会長就任をはじめ、中国第2のEC大手JDドットコムからの3億9700万ドル(約436億円)の資金調達、「シャネル(CHANEL)」との共同プロジェクト、百貨店ハーヴェイ・ニコルズ(Harvey Nichols)との提携など、話題が絶えない。ラグジュアリー企業は通常ブランディングなどの観点から自社ECに注力しがちだが、そんな予想を裏切るようにラグジュアリーブランドとの提携も次々と発表されている。「ファーフェッチ」はなぜ、これほどまでに勢力を拡大できるのか。同社のジョゼ・ネヴェス(Jose Neves)ファーフェッチ最高経営責任者(CEO)にビジネスについて聞いた。
WWD:まず、現在「ファーフェッチ」に出店するショップ数と商品数は?
ネヴェス:全部で880。おおよそ600のブテッィクと300の直営ブランドがある。SKUについては、1年間で追加されるアイテムが25万点だ。
WWD:「ファーフェッチ」が他のECモールと異なる最大の特徴は、一切在庫を持たないプラットフォームいう部分だと思う。今後も在庫を持つ予定はないか。
ネヴェス:変わらず。今後も持たないだろう。
WWD:在庫を持たないメリットとは。
ネヴェス:まず、在庫を売らなければいけないというプレッシャーがない。その分、消費者の嗜好に合わせてビジネスをできる。また、小規模デザイナーのアイテムからから大手ブランドのユニークな商品まで、幅広い品ぞろえが可能となる。
WWD:在庫を持たないことによるデメリットは?
ネヴェス:マージンが減ることだね(笑)。
WWD:商品の発送は店舗自体から行うのか。
ネヴェス:商品はブティックやブランドの在庫から直送している。在庫は現在、40カ国にある。われわれは返品や関税など、全ての手続きを管理している。
WWD:プラットフォームであるならば、「ファーフェッチ」としてのブランディングはどのように表現するのか。
ネヴェス:ネット上でコンテンツを作るし、SNSも活用する。その他、コミュニケーションや広告など全てでブランディングをしている。現在日本でのアプリにはコンテンツがないが、今後はここにコンテンツを拡充していく計画だ。
WWD:プラットフォームでありながら、ブランディングをするというのは難しいのではないか。
ネヴェス:一番いい例えが「アップル(APPLE)」だろう。テクノロジー会社で、プラットフォームでありながら、ブランディングも行っている。簡単ではないが、実現はできるだろう。
WWD:こうした業態だから、競合はいないのか?
ネヴェス:いないだろう。もちろん小売をやっている「ネッタポルテ(NET A PORTER)」などがあるが、彼らとはビジネスモデルが異なるため、競合ではないと思う。
WWD:そんな「ネッタポルテ」を含むユークス ネッタポルテ グループ(YOOX NET-A-PORTER GROUP)はコンパニー フィナンシエール リシュモン(COMPAGNIE FINANCIERE RICHEMONT)に買収されたが、こうしたラグジュアリーECの状況をどう見ている?
ネヴェス:それについては、コメントができない。
WWD:ちなみに、日本のファッションEC最大手「ゾゾタウン(ZOZOTOWN)」のことは知っている?
ネヴェス:もちろん。彼らは素晴らしいビジネスだ。たしか2007年、僕が「ファーフェッチ」のアイデアを考えた時に「これはユニークだ!」と感じた。そうしたら、日本に「ゾゾタウン」があったんだ(笑)。イノベーションにあふれた、本当にいい会社だと思う。
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WWD:「ファーフェッチ」は“愛のあるEC”だという話を聞いて、その考え方こそが他にはないECの概念だと感じた。
ジョゼ・ネヴェス=ファーフェッチCEO(以下、ネヴェス):「ファーフェッチ」を創業した時の思いが、まさに“FOR THE LOVE OF FASHION(ファッションを愛している)”だった。僕はファッション業界のクリイエティブやバイヤー、ジャーナリスト、スタイリスト、顧客全てを愛している。テクノロジーカンパニーとして、美しいと感じるこれら全ての要素をつなげたいと思っている。
WWD:もともとネヴェスCEOはシューズブランドを手掛けていたが、その経験が今のビジネスに生きている部分はあるか。
ネヴェス:まずシューズデザイナーとして、ファッション業界の仕組みを学んだ。オペレーションの仕方や、ブランドのニーズがわかるようになった。あとは消費者に対する感謝の気持ちも学んだ。つまり、どうやってこの業界が動いているのかを理解したんだ。
WWD:シューズブランド時代にはショップで扱ってくれないなど、悔しい思いをしたと聞いた。そうした経験からか、「ファーフェッチ」では全てのブランドが平等に戦えるようなあるべき競争原理が成立しているように感じるが。
ネヴェス:いいところをついているね(笑)。私にとってファッション業界は1つのシステムだと思っている。大きなブランドから小さいものまで存在していて、「アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)」も「ジョン・ガリアーノ(JOHN GALLIANO)」も小さなデザイナーズブランドとして始まった。ブテッィクにはこうしたデザイナーの発掘という役割があって、リスクを取ってでもデザイナーズブランドを置いてみようと考えているはずだ。小さなブランドにとってもブティックが必要で、一方のブティックには売り上げのためにも大きなブランドも必要となる。メディアには新しいブランドが必要だし、こうした循環の中にいる全員をサポートしたい。一部ではこれらブランド同士が競合していると考えられがちだが、私はそうは思わない。これこそが共存できる非常に大きなエコシステムだと考えている。
WWD:その考えこそが、“愛のあるEC”の所以なのか。
ネヴェス:本心からこの信念を持っている。例えば、大きなブランドにとっても、小さなブランドが必要だ。もし大きなブランドしかなければ、ファッションは少しつまらないだろう。そうなると、人々は旅行だったり他のものにお金を使う。大きなブランドはこうした消費者の傾向に影響を受けてしまって、業界全体が縮小してしまう。そうじゃなくて、小さなブランドも存在し、ダイバーシティ(多様性)が成立しているからこそ、みんながハッピーになれる。これこそがエコシステムなんだ。なんだか、哲学的になっているね(笑)。
WWD:だからこそ、最近の「ファーフェッチ」にはショップだけでなく、ブランドや百貨店も出店をしているのか。
ネヴェス:その通り。
WWD:それでは、今後も業態に関係なく、提携を続けるのか。
ネヴェス:もちろん。ただしそのブランドが独自の観点を持って、キュレーションを行っているということは重要。どんなブランドでも、ということではない。
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WWD:「ファーフェッチ」が成長を続けられる理由をどう考えるか。
ネヴェス:1つは差別化されたアプローチ。ユニークなファッションばかりを扱っていて、われわれのような品ぞろえを持っているサイトはないはずだ。2つ目はビジネスの国際化。日本をはじめ中国やロシア、ブラジル、北米、南米、中東など、グローバル化しながらも消費者に対してはローカライズされた買い物体験を提供していることだろう。
WWD:ただ、一方では赤字が拡大しているという話もある。これはスタートアップ企業に見られるような、IPO(株式公開)前の先行投資と捉えていいのか。
ネヴェス:残念ながら、IPOに関してはコメントを差し控えたい。
WWD:今後も成長を続けるための、戦略やキーワードはあるか。
ネヴェス:難しいね……。“エキサイティング”かな(笑)。
WWD:この1年は非常に変化が多かった。例えば、ネッタポルテ創業者のナタリー・マセネット(英国ファッション協議会会長)がチームに入ったことで、どんな影響があったか。
ネヴェス:確かに、ここ数年間は非常に忙しいね。彼女はオンライン・ラグジュアリーのパイオニアだ。非常に鮮明なビジョンを持っていて、ファーフェッチの取締役としても素晴らしい存在になっている。とてうまく仕事をしているし、たくさんのアイデアが出ているよ。
WWD:「スタイルドットコム」の買収にはどんな意図があったのか。
ネヴェス:コンデナストは投資家の1社だ。コンデナストとはコンテンツとコマースの融合という新しい方法を模索するための長期的なパートナーシップを結んでいる。長期目線に向けた1つのステップが買収だった。
WWD:つまり、コンテンツの強化を狙ったと。
ネヴェス:もともと「スタイルドットコム」にいたヤスミン・シーウェル(Yasmin Sewell)という女性をコンテンツ部門のトップに置いた。「ファーフェッチ」には以前からコンテンツ部門があったが、その変革を率いてくれている。今後はコンテンツとコマースの融合をコンデナストの出版物でも表現していきたいと思っている。
WWD:JDドットコムから436億円の資金調達を実施したが、互いにとってのメリットとは。
ネヴェス:まず、私たちにとっては、JDドットコム創業者のリチャード・リュウ(Richard Liu)が取締役に入ったことで、その洞察力や中国市場に関するノウハウを享受できるようになったこと。現在は「ファーフェッチ」のプラットフォームをJDドットコムのデータと統合することで、中国におけるターゲッティングが可能になった。これはまさに1つのローカライズの例。現在上海に拠点を持ち、65人のエンジニアが中国版のアプリやストアの開発を担っている。
WWD:「シャネル」をはじめ、ブランドとの個別の取り組みを増やしている理由は?
ネヴェス:われわれはブランドにとってのイノベーション・パートナーでありたいと思う。単なる出店という形ではなく、戦略の一環として「ファーフェッチ」のリソースを使ってもらいたい。われわれの会社には約900人のエンジニアがいるが、ブランドがこんな人数を採用することはできないだろう(笑)?
WWD:では、最後に何か今年のニュースは?
ネヴェス:今のところ、調子良好とだけ伝えておくよ(笑)。