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連載 韓国ファッションの今

「韓国の本屋は一度滅びた」 ソウルで今“個性派本屋”が急増する理由

 “韓国ファッション”とは少し離れてしまうが、韓国取材の下調べをしていてどうしても気になったのが韓国の本屋ビジネスだった。韓国では、ここ数年でアパレル業界同様に個人経営の書店が急増しており、特にソウルでは“独立系書店”が数多く出店を続けている。そんな市場にいち早く目をつけていたのが「本屋B&B」の経営を行うnumabooksの内沼晋太郎・代表で、2017年に「本の未来を探す旅 ソウル」(内沼晋太郎・綾女欣伸編著、朝日出版社)を出版したばかり。韓国書店市場の盛り上がりの要因は何なのか。内沼代表と共著者でもある綾女欣伸(あやめ・よしのぶ)編集者を取材した。

WWD:まず、なぜ韓国の書店市場に目をつけたんですか。

内沼晋太郎numabooks代表(以下、内沼):綾女さんに編集をしてもらった「本の逆襲」という書籍の韓国版が出るということで、ソウルでイベントをやったんですが、きっかけはその際に現地の本屋を案内してもらったことです。思っていた以上に面白くて、なんで知らなかったんだろうと。実際に行ってみたら、自分たちと近しい目線でやっている人や自由な考えで経営をしている人がたくさんいて驚きました。韓国の本屋のことをもっと知りたくて、帰りの飛行機で本にしようと話しました。

綾女欣伸・朝日出版社編集者(以下、綾女):招かれたのが16年の6月。ソウルではちょうど本屋開店ブームのタイミングで、新刊を扱う独立書店が急増していました。しかも、1980年代生まれの若い人が中心となって始めている。これがポイントで、その瞬間に偶然にも立ち会ったんです。

WWD:盛り上がりを感じて、すぐ取材を始めたんですね。

内沼:その後、1カ月で取材に行きました。たまたま運がよかったんだと思います。僕が知っていたソウルの本屋「sajeokin
bookshop」代表のジョン・ジヘさんが日本の本屋を好きで、すごく詳しくて。彼女だけが詳しいのかと思ったら、向こうで本屋をやっている人たちがみんな日本の本屋を知っているんですよ。でも、こちらは何も知らないと。実際韓国では翻訳出版の4割が日本のものだそうで、日本が韓国のことを知らないのはよくないなと思いました。もっと交流が生まれた方がいいはずだなと。

WWD:実際にかなりの数の書店を取材して感じた、現地の書店界に対する感想を教えてください。

綾女:すごいと思ったのは、ビジネス云々以前の、“決めたらすぐにやるところ”。とりあえず、試してみるんですよね。日本人が「勉強してから、始める」であれば、韓国人は「始めてから、勉強する」みたいなフットワークの軽さを感じました。その分、閉まる店も出てきます。韓国では2年ごとに物件の家賃が更新されるシステムで、弘大(ホンデ)のような人気の土地はすぐに価格が上げられてしまいます。理解のある大家さんじゃないとなかなか書店を続けられないそうです。

内沼:当時ちょうど出店ブームだったので、取材から2年経って、移転したり閉店する本屋も少しずつ増えているようです。

綾女:それでも、なくなるより新たにできる本屋のほうが多い印象です(笑)。「サンクス・ブックス(THANKS BOOKS)」はカンナムの「パーク(PARRK)」に続いて昨年、「インデックス(index)」というポスターと本がテーマの本屋を建大(コンデ)に開きました。「スプリングフレア」や「The Reference」など、この3月にも続々と新店ができています。

内沼:例えば、例えば、ソウルにはかつてシンガーソングライターの方がやっているお店があって、そこは済州島に移転しました。そうしたら今度は、アナウンサーの夫妻が始めた本屋もできました。こうした動きは日本だとあまり聞かないなと思います。他にも、編集者とデザイナー夫婦がやっている本屋があったりして、本業を持ちながらも専門性を生かして、何かに特化した本屋をやるのはいい流れだなと。

綾女:専門性を生かせば、たとえ書店で働いた経験がなくても本屋として勝負できる。そんな感じでしょうか。

内沼:“猫”に関係する本だけを集めた「シュレディンガー」という本屋の経営者もまったく本屋経験がなかったけれど、そういったコンセプトを思いついて始めてみたらすぐにコミュニティーができて、世界が広がったそうです。空いている場所を見つけて旗を立てるようなイメージですね。日本でも昔から専門書を扱う本屋は多くありますが、専門家に向けた難しい選書ではなく、もう少しカジュアルにその分野を好きな人に向けて、コミュニティーを作っていくようなイメージですよね。

WWD:日本ではまだ専門型の独立書店って少ないんですか。

内沼:日本でも、最近は三軒茶屋に猫専門の「キャッツ ミャウ ブックス(Cat's Meow Books)」ができたり、下北沢に平日タロット占いをやって週末だけ本屋の「ティーブックス(T books)」ができたりしています。あるにはあるんですが、勢いが違うというか、韓国ではムーブメントになっているんですよね。その背景には流通の問題があって、最初に綾女さんが言ったように、新本を扱うとなると、取次店を通さない小規模書店だとなかなか大変なんです。そもそも、日本のように定価が決まっていて勝手に値引きできない、つまり価格競争が起こらないシステムが韓国にできたのはつい最近で、それまではネットでもどんどん値引きをしていたんです。ようやく同じ土俵で戦えるようになったというのが、今勢いのある理由かもしれません。日本にはない空気感ですよね。

WWD:今は、ネット書店の影響力はいかがですか。

綾女:韓国はスターバックス(STARBUCKS)でもアプリで事前に注文・支払いができるようなネット大国なので、図書定価制(書籍の価格割引は定価の10%まで、ポイント還元は5%までという規制)が強化されるまでは、割引で勝負できるネット書店が強かったようです。それで小さな街の書店がたくさんつぶれたそうで、ソウルの人たちの言葉を借りれば、その時「韓国の出版業界は一度滅びた」と。

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