昨年「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ(以下、LVMHプライズ)」のグランプリに輝いた「マリーン セル(MARINE SERRE)」が2018-19年秋冬パリ・ファッション・ウイークで初のショーを開催した。受賞当時「バレンシアガ(BALENCIAGA)」のデザインアシスタントを務めていた無名のデザイナー、マリーン・セルはファッション界の新星として一躍その名を馳せた。彼女のデザインの手法はスタイルや時代、国籍、素材、カットをランダムに寄せ集めたハイブリッドで実験的なもの。時に奇妙にも見える組み合わせも、けっして不快ではなく、むしろその絶妙なバランスに惹きつけられた。初めてのショーを終えた彼女に最新コレクションやブランドコンセプト、今後のビジョンについて聞いた。
-2018-19年秋冬コレクションのテーマは?
マリーン・セル「マリーン セル」デザイナー(以下、セル):テーマは、ブランドのコンセプトである“未来の服”。今季は防護服と日常着を融合させ、荒っぽく簡素なエッジとクチュールの繊細なディテールを併せ持つ服を作った。日常的に目にする実用的なウエアを現代的にアップデートすることを試みた。例えばライダースジャケットや乗馬ジャケットなどのクラシックなアウターは、未来への生き残りをかけて、解体、再考、再構築を繰り返して制作した。
──異なる要素を組み合わせるアイデアはどのように生まれた?
セル:それは私とファッションの関係の発端となることからだった。幼い頃、私はよくマルシェやブロカント、エマウス(社会支援を目的にリサイクル販売を行う店)で買った服、あるいは父や母の服を自分のサイズに直して着ていた。その経験が私の服作りの原点。ハイブリッドな考え方は、私が大切にしている“アップサイクル”にもつながっている。ファッションは人々に夢を与え続ける一方で、未来の環境に配慮した持続可能な生産もであることも必要。
──アイコンである三日月のシンボルの意味は?
セル:意味を明確に述べることはできない、なぜなら三日月は宇宙の中でも一番古いシンボルのうちの一つで、時代や文化によってさまざまな意味を持っているから。イスラム文化やギリシャ神話に登場する月の神ディアーナ、あるいは漫画の「美少女戦士セーラームーン」だったり。私の短い髪を、月のようだと例えて言う人もいる。
──初めて開催したショーの率直な感想は?
セル:とても感慨深い10分間だった。昨年、「LVMHプライズ」を受賞してからの数カ月間はとても速かった。10月には「バレンシアガ」を離れて、小さなチームで限られた時間の中で制作に取り組んだ。ショーはこれまで費やしてきた全ての時間が凝縮された瞬間だった。今後もショーを続けようと考えている。
──ブランドが意識する女性像は?
セル:特にない。私の服は全ての人に向けられていて、手の届く価格設定を大切にしている。
──今後のビジョンは?
セル:新しい生産プロセスを開拓し続け、私たちの将来につながる機能性のある製品で、日々の生活に応える服を作ること。
──3月末からアジアを回り日本にも訪れると聞いたが、来日で楽しみにしていることは?
セル:私にとって日本は“完璧”な国で、日本人の友達の規律を守る姿勢や細かな心配りといった、厳密さにはいつも感銘を受けている。楽しみにしているのは、東京のストリートで人々が何をして、何を着ているのかを観察すること。あとは、4月4日の19時からドーバー ストリート マーケット ギンザ(DOVER STREET MARKET GINZA)で開催するインスタレーションの準備に集中しなければならない。
ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける