このたびこちらで連載をさせていただくことになりました、高山かおりと申します。4歳のときに出合った「こどものとも」以来、雑誌が大好きで国内外問わず多くのものと出合ってきました。この連載では、私が好きな雑誌と本を行き来しながらその作り手にもフォーカスし、読者の方に作り手の思いを届けられるように紹介していきたいと考えています。お付き合いいただけますとうれしいです。
ここ半年以内の雑誌で“Book in Book”、いわゆる付録小冊子の編集が素晴らしいと思うものがいくつか目立っている。付録は、言葉の通りそれが主役ではなくあくまで付随するものだが、その編集に凝っているからこそ、個性が色濃く出ていて、雑誌の面白さを引き立てているように感じるのだ。「雑誌が売れない」と言われて久しいが、編集者のモノ作りの情熱は変わらない。その思いは読者に伝わっているのだろうかと疑問に思う昨今、付録小冊子が読者と雑誌をつなぐツールとして鍵を握っているようにも感じている。
「ブルータス(BRUTUS)」2017年10月1日号の秋冬ファッション特大号「STUDIO BRUTUS」(編集はkontaktの川島拓人さん)は、デザイナーや写真家、俳優、ジャーナリストなどがファッションにまつわるあらゆることについて語りあう対談集。曜日から始まる見出しの付け方もユニークでさすがの人選は、インタビューを得意とする川島さんの編集だと一目でわかる。ちなみに、先日3月15日に発売された4月1日号の付録も川島さんが編集している。こちらの構成も素晴らしい。
同じく「ブルータス」18年3月15日号の“東京らしさ”の特集での「かまやつひろしトリビュート ぼくの哲学」(編集は小野郁夫さん)は、1993〜96年に「バァフアウト!(BARFOUT!)」で不定期連載されていた記事を再編集したもの。北沢夏音さんが新たに脚註を加え、当時を知らない若い世代でも理解できるように工夫されている。ちょうど発売日の1年前、17年3月1日はムッシュが旅立った日でもある。
そして、「ポパイ(POPEYE)」18年1月号の別冊付録「Olive」(編集はPOPEYE編集部)。話題になったので読まれた方も多いと思う。それから、「ポパイ」18年4月号の別冊付録「二〇一八年の東京 味な店」。こちらが17年度のマイベストBook in Book だ。文庫本のように編集され、背表紙と奥付に「著者」というクレジットを入れる凝りよう。約半年を費やし1冊の本を作る気持ちで制作したとは、小学生の頃から食日記をつけているエピソードが有名な平野紗希子さん。「はじめに」の文、お店の紹介文、写真などすべてから愛が溢れすぎて、なんだかまぶしい気さえしてしまってその熱量に圧倒された。
それぞれの紹介文を一文字たりとも見逃さないでほしい。店主からしか聞き得ないであろう話(きっと平野さんだから話してくれるのだとも思う)をさりげなく盛り込みながら言葉を紡ぎ、心地よいリズムで私たちをその世界に誘っていく。それが原稿用紙にしてたった1枚分の中に詰まっているのだから嫉妬してしまう。従来にはない切り口で東京の食物語を切り取った、新しい1冊だ。彼女の全くブレることのない食への真摯な姿を心から尊敬したい。
この1冊は、スクラップ・アンド・ビルドを繰り返す東京で、いつまでもあることが当たり前ではないと教えてくれる。そう、大切なものはいつだって、失ってから気付いてしまうもの。それが「二〇一八年の」というタイトルの付け方に表れているのだと思う。その場所に行くのがけっしてゴールという訳ではなく、行って、食べて、かみしめて、思い出にして心の中にとどめておくことから始まるのではないだろうか。今すぐこの1冊を携えて、東京の食風景を体験してみてほしい。そして奥付にあるように、味な店のおいしい輪が広がるともっと物語が増えていくのだと思うし、平野さんもそれを望んでいるのだと思う。
高山かおり:北海道生まれ。北海道ドレスメーカー学院卒業後、セレクトショップのアクアガールで販売員として勤務。在職中にルミネストシルバー賞を受賞。その後、4歳からの雑誌好きが高じて転職、2012年から代官山 蔦屋書店にて雑誌担当を務める。主に国内のリトルプレスやZINEの仕入れを担当し、イベントやフェアの企画、新規店舗のアドバイザー業務(雑誌のみ)、企業・店舗などのライブラリー選書、連載執筆など幅広く活動。18年3月退社。現在は編集アシスタントとして活動しながら本と人をつなげる機会を増やすべく奔走中。