「カルティエ(CARTIER)」はこの週末、メンズの新作時計“サントス ドゥ カルティエ ウォッチ”を発売しました。この時計は、1904年に誕生した時計の最新版。スクエアフォルム、当時の建築を反映した8本のビスなどの特徴はそのままに、ベゼルのデザインを変更するなどしてスマートにアップデート。今年の「顔」になる時計です。
4月上旬、そんな“サントス ドゥ カルティエ ウォッチ”を深く知るためのプレスツアーに参加しました。舞台はアメリカ・サンフランシスコ。シリコンバレーのお膝元でアップル(APPLE)やグーグル(GOOGLE)、フェイスブック(FACEBOOK)、最近ではエアビーアンドビー(AIRBNB)が拠点を構えるITのメッカです。この街が“サントス ドゥ カルティエ ウォッチ”お披露目の舞台に選ばれたのは、時計の誕生の経緯と深く関わっています。
04年に誕生した“サントス”は、世界初の本格的なメンズ腕時計です。それは「カルティエ」の3代目ルイ・カルティエ(Louis Cartier)が近代航空工学の第一人者アルベルト・サントス・デュモン(Alberto Santos Dumont)のために、ポケットからいちいち取り出さなくてもよい懐中時計を贈ったことから誕生しました。アルベルトは、正直“変わり者”でした。22もの飛行マシンを設計した彼は、何度も事故に遭ったし、空への憧れのせいか食事は常に足の長〜い椅子にのって食べた人。小柄な彼は「プチ・サントス」と呼ばれ、女性用の襟高ブラウスでドレスアップしていたそうです。天才は、やはりフツーではありません(笑)。リスクなくして、革新なし。「カルティエ」は、そんなアルベルトの生き方に敬意を表し、ITで世界に革新をもたらしたサンフランシスコを選んだのです。
今回のイベントは、発表方法も実に革新的でした。
まず一番アバンギャルドだったのは、“サントス ドゥ カルティエ ウォッチ”のお披露目イベントのハズなのに、時計がほとんど出てこない(笑)。3日間の取材で、時計に触れることはついに一度もありませんでした。もちろん会場には時計があり、「見たい」「触れたい」「着けてみたい」と言えば出してくれるのですが、リクエストしない限り“サントス ドゥ カルティエ ウォッチ”は、会場のスクリーンに投影されているのを見るだけ(笑)。革新的、いや斬新です。
3日間のイベントでは、「セッション」という名のもと、サンフランシスコの街並みや音楽、アートやメディア、それにテクノロジーに関するトークが繰り広げられましたが、それもまた革新的。記者会見や講義というよりはむしろトークショーの趣で、例えば音楽の「セッション」は、サンフランシスコ在住のミュージシャンによる、「僕の好きな音楽」紹介 from プレイリスト。ユルいです(笑)。実際「セッション」を聞いてみると、本当に「僕の好きな音楽」を語るだけです(笑)。いつの音楽か?どうして好きか?他にはどんな音楽が好きなのか?「セッション」の大半はそんな話で、「サンフランシスコの音楽とは?」とか「サンフランシスコ音楽の歴史」とかそんな話じゃないんです(笑)。
だから来場者も、取材というよりはむしろ、なんとな〜く話している人の周りに集まり、基本的には耳を傾けてはいるものの、時にはスマホをスクロールして、午後イチの「セッション」はウトウトしちゃう。そんなユルさです。でも「セッション」の終盤には鋭い質問を飛び出したり、終了後には何人かが登壇者に近づいて思い思いのアート論や音楽論、IT論を楽しんだり。「ストイックで一方的」というよりは「ふんわりと双方向」で「それが今っぽいのかな」と思います。ユルさがあるからこそ、自己流に解釈し共感する余地のあるイベントでした。
考えてみれば我々、「一方通行」ではなく、「双方向」な世界に住むようになっていますよね。特にサンフランシスコから生まれたITにより、それまで「一方通行」も多かったコミュニケーションは「双方向」、それどころか「多方向」となり、押し付けられたり“お膳立て”されたりの物事への興味は薄れ、フワッと生まれたコミュニティから偶発的に生まれる共感に価値を置くようになっています。そして、共感することで心に刻んだ価値は、いつまでも忘れないし、クチコミで伝えたくなるもの。今回のイベントは、そんな趣に溢れるものでした。
“サントス ドゥ カルティエ ウォッチ”のイベントでは、そんな「ITにより変わったもの」と「ITでも変えられないもの」、双方の価値を教えてくれたイベントでした。