ラグジュアリーブランドや百貨店、大手銀行、自動車業界などが将来の優良顧客として狙う“ミレニアル・リッチ”という言葉を知っているだろうか。数年前に現れたミレニアル世代の高所得者を指す言葉で、“ヘンリー”とも呼ばれる。日本でも企業の“ミレニアル・リッチ”取り込みが本格化してきたようだ。
“ミレニアル・リッチ”に詳しい博報堂研究開発局の中川広次・主任研究員は彼らを「デジタル機器やSNSを生活必需品として駆使し、才能豊かでアクティブ、多忙。一方でアーティスティックな感性にも優れ、『社会をもっと良くしたい』『次世代を育成したい』という価値観をあわせ持つ」と定義づける。
そんな“ミレニアル・リッチ”獲得のためには、「彼らのライフスタイルに寄り添う態度が重要」と中川主任研究員は説く。これに関連したキーワードを挙げるとすれば、博報堂生活総研が17年に提唱した“トキ消費”という言葉がぴったりだと思う。これは“コト消費”の次の行動として、“その時にだけ体験できる限定性”に対してお金を払うということ。もっともイメージしやすいのは、「CDを買わない世代がフェスにこぞって参加する」という話だろうか。
そして、“トキ消費”の最たる例が宿泊体験だろう。例えば星野リゾートは北海道から沖縄の離島まで、地方の魅力を最大限に活用して、それぞれが全く異なる趣向のリゾート施設を次々とオープンしている。特に、オフィスを必要としないIT経営の“ミレニアル・リッチ”にとっては、混雑する都心を回避できるということも後押しになっている。アパレル業界ではストライプインターナショナルが買い物できるホテル「ホテル コエ(HOTEL KOE)」を開くなど、他にはない体験づくりが重要なキーワードになっている。
自動車業界においても、レクサスが「LEXUS LS “INSTINCT” by DINING OUT」という宿泊イベントを実施するなど、“ステイタス”としての自動車ではなく、“トキ消費”を体験するアシストとしての自動車という打ち出し方をつづけている。参加者は都会を離れ、自ら自然の中で料理をするそうで、こうした体験をきっかけに、“自動車を使う”という選択肢を意識させる狙いがある。
購買そのものに価値を置くのではなく、購買に関わるストーリーや独自性に対する共感を得ることで顧客獲得を目指す。これは今にはじまった考え方ではないはずだ。インスタグラムの台頭で、情報の共有が当たり前になり、その中心世代が自由にお金を使えるようになったことで、こうした“トキ消費”に対する対価という当たり前の価値を見直す時代が来たということだろう。いずれにせよ、“ミレニアル・リッチ”を囲う、“トキ消費”時代の企業の取り組みが今年本格化することは間違いなさそうだ。