ファッション

米国バーニーズ ニューヨークでの取り扱いも決定 「アキラナカ」の海外販売が好調な理由は?

 12年間、記者として取材を重ねていますが、取材をするたびに「この人はいつも新たな気付きをくれる」「次の企画を考える際のヒントをくれる」という方が業界内外に何人かいらっしゃいます。経営者やデザイナー、専門店オーナー、古着店スタッフなどジャンルはさまざまですが、そのうちの一人が「アキラナカ(AKIRANAKA)」デザイナーのナカ アキラさんです。華やかでエモーショナルなドレスやニットで知られるブランドですが、ナカさん本人と話すとかなり論理的で、ビジネスを緻密に設計しているタイプのデザイナーさんだなと感じます。

 「アキラナカ」は国内の百貨店やセレクトショップですでに安定的な売り上げを作っていますが、そうした実績を引っさげて、満を持して2018年春夏からパリで展示会をスタートしました。プレ・コレクションを含め、18-19年秋冬までに3回のパリ展示会を開催。早速、米国はバーニーズ ニューヨーク(BARNEYS NEW YORK)各店のデザイナーズフロア(コンテンポラリーフロアより格上のイメージです)で1年間のエクスクルーシブ展開が決まったということでした。人気ブランドへの階段を着々と上っています。他にも、高級百貨店として知られるロシアのツム(TSUM)、ウクライナやカタールの大手百貨店なども決まったそうです。

 このように好調な「アキラナカ」の海外での販路開拓ですが、18年春夏のパリ展示会以前は、かなり慎重だなという印象を抱いていました。というのも、国内の売り上げ規模の伸びにかかわらず、なかなか海外に出ていかなかったからです。かつては、国内で一定の売り上げ(少なくとも上代で3億円ぐらいが1つの目安だと以前聞いたことがあります)を作ってから海外展示会を始めるというのがデザイナーズブランドの一般的な流れでしたが、最近はそこに達していなくても、早々に海外の合同展などにチャレンジするブランドが増えています。早めに出る手法と満を持して出る手法、どちらのやり方が正しいというものではないでしょうが、「とりあえず1回パリ展示会をやってみよう!」というブランドに比べると、「アキラナカ」はかなり慎重だと感じたのです。

 でも実際に海外展示会を始めたら、たった3回でここまで実績を伸ばしている。日本で9年かけて積み上げてきた売り上げの約3割の額に、海外売り上げがすでに達したといいます。これって、そうそう聞かない景気のいい話です。なぜそんなことができるかといえば、服のデザインがうけているというのももちろんでしょうが、「海外でどう売っていくか」「自分たちはどうなりたいか」というビジネス戦略を事前にしっかり練っていたから、という部分が大きいと思います。

 日本のブランドが海外で展示会をするというと、通常考えられるやり方は2つ。1つ目は、パリの「トラノイ(TRANOI)」などの合同展に参加すること。2つ目は、大手海外ショールームに所属すること。これらの方法でうまくいっているブランドももちろんありますが、それぞれに難点もあります。合同展は最近どこも集客不全に陥っているうえ、多くのブランドが出展する会場では埋没してしまいがち。大手ショールームは集客があっても費用が高く、多数のブランドを抱えるショールームの担当者と密にコミュニケーションを取るのも難しいので、高い料金を払っても結局卸先が増えないということもままある。

 その点、「アキラナカ」はこのどちらでもない手法で海外展示会を行っています。個人でブランドセールスを行っているオルガ・ウラジミール(Olga Vladimir)さんと組み、単独の展示会に各国有力店のバイヤーを呼んでいるのです。オルガさんは、新進の人気ブランド「ヴィカ ガジンスカヤ(VIKA GAZINSKAYA)」などとも契約している敏腕営業パーソンです。ロシア出身で、ゆえに今ファッション的にアツい地域である東欧やロシアを中心に、世界中の有力店バイヤーに強いコネクションがある。ナカさん自身がパリ展示会を始める前に自らいろんなショールームや営業担当を訪ね歩き、面談を重ねる中でオルガさんと出会ったそうです。

 ナカさんはオルガさんと契約をする際に、条件についてかなり綿密に交渉したとおっしゃっています。われわれ日本人は、「契約金はこれです、契約条件はこれです」と言われると、相手の条件をうのみにしがち。実際、大手ショールームと契約している日本ブランドには、語学の壁もあって条件をうのみにしているところも少なくないと思います。相手の提示条件と自分の条件を突き合わせ、しっかりと交渉する――それはかなりタフなことですし、そもそも、自分たちのビジネスプラン(〇年後にこうなりたいから、ここまでは譲れるけどこれ以上は譲れない、といった条件)が明確でないとできません。このようにビジネスプランを細かく詰め、それに最適なパートナーのオルガさんを得るために、「アキラナカ」はパリ展示会開始までにあれだけ準備期間を長く取っていたんだなと、いま振り返って思います。

 ナカさんはオルガさんとともに、パリ展示会で自らバイヤーの接客をしています(大手ショールームは、デザイナーが展示会対応をする必要が無い場合も多い)。それだけでなく、展示会什器の搬入搬出、什器を保管しておくための倉庫の手配、ロシアからの展示会モデルの手配なども自ら行っているそうです。大手ショールームに入っていたら、これらは恐らくほぼショールーム側がおぜん立てしてくれること。パリでこれらの雑務を自らこなすのは、かなり骨の折れる作業だと思います。でも、「ショールームに丸投げするのでなく、展示会で直接バイヤーと長時間接しているからこそ、徐々に彼らのニーズが掴めてきた」と、ナカさんはこのやり方に自信を見せます。「個人の営業担当と組んで海外で単独展示会をすると話したら、『絶対バイヤーは来ない』と皆に言われたが、しっかり実績を出せている。海外でビジネスをするのは非常に大変だが、1つ1つ交渉していけば、絡まっている糸のほどき方はある。それが面倒だからとお金で解決しようとして大手のショールームに入ると、いつまでたっても糸のほどき方は分からない」ともおっしゃっていました。

 ナカさんの語学力と、持って生まれたタフネゴシエイターの気質があってこそ、この手法は可能だとも思います。でも、「なんとなく他社もやっているから自分たちも海外展示会をやろう」「みんなのやり方になんとなく乗っかっておこう」というのではなく、自分たちの理想のビジネスプランをしっかり描いて、そのために何が最適かを考えるという姿勢の部分は、これから海外進出を考えているブランドにとっても参考になる部分は多いのではないでしょうか。実際、ナカさんも「これから若いブランドが海外に出ていく際に、合同展やショールーム以外にもこういう手法や可能性もあるよ、ということを伝えたい」と言っていました。「アキラナカ」の海外ビジネスがどう広がっていくか、今後も注目です。

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