サステイナビリティーを追求するブランドといえば、“ほっこり”していて少しやぼったい、といったイメージがお決まりだった。考え方やその背景に共感できることはあっても、では実際お金を出して買うか?というと、正直そこまでのブランドは少なかった。もちろん、モードの第一線を走り続ける「ステラ マッカートニー(STELLA McCARTNEY)」の存在は大きい。モードとサステイナビリティーを両立し、自らサステイナビリティーを配慮したクリエイションの重要性を語り、何よりも今のムードをとらえながらも肩肘張らずに着られる服を提案し、リードし続けている彼女は尊敬に値する。継続することこそ非常に難しいからだ。そして、このゾーンで長らく「ステラ」に匹敵するほどのインパクトがあるブランドは出てこなかった。そんな中、彗星のごとく現れたブランドがある。「マリーン セル(MARINE SERRE)」だ。
パリコレ期間中、インスタグラムを追っていた私の前にマリーン・セル(Marine Serre)は突然現れた。といっても「バレンシアガ(BALENCIAGA)」在籍中の2017年にLVMHプライズでグランプリを受賞するといった前情報と、実際のクリエイションが合致したという方が正しいかもしれない。マリーンは、1991年フランス生まれの26歳。芸術学校ラ・カンブル在学中から、「アレキサンダー・マックイーン(ALEXSANDER McQUEEN)」「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」「ディオール(DIOR)」「ラフ・シモンズ(RAF SIMONS)」でインターンを経験。この2月末から行われた2018-19年秋冬パリコレでランウエイデビューを果たしたことで、一気にSNSで拡散された。
さまざまな素材や要素をコラージュする手法で、スタイリングのアクセントとして三日月柄のボディースーツやブーツを用い、ウエットスーツなどスポーティーな要素とクラシカルな要素をミックスしたコレクションはとにかく今のムードを押さえたもので、攻めたデザインだった。「バレンシアガ」のデザインチーム在籍時での彼女の活躍も容易に想像できた。しかしこの時点で、彼女がこのコレクションに関してサステイナビリティーを追求しているなどの情報はなく、注目すべきニューカマーとして私の中でインプットされた。
4月上旬、ドーバー ストリート マーケット ギンザ(Dover Street Market Ginza)でインスタレーションを行うために来日し、同僚がインタビューしたのだが、その記事を読んで驚いた。18-19年秋冬コレクションの45%が古着で、南仏で仕入れた古着をマリーン自身が選び、洗浄したのちに新たな服として提案していたというのだ。すべて一点モノかというと、服の構造を同じに、それに近い生地で量産するという。古着が苦手な人のためには、新しい生地で作るというオプションも用意しているという気の利かせ具合だ。何より彼女の考え方に心が躍った。
マリーンは、「古着を用いていることを強調するつもりはない。リサイクルブランドやエコファッションのレッテルを張らないで。そういった服の作り方が当たり前になるべき」と答えていた。さらに「もし、『おばあちゃんのスカーフを使ってドレスを作ってほしい』という依頼が来たら引き受けたい。それが新しいラグジュアリーの在り方でとても未来的な生地の使い方」という。フランス在住の写真家の友人いわく「フランスは古いものを大事にしていてボロボロになっても長く使う。古いものこそ価値を置く文化」とのこと。さらに「道に捨てたものも赤の他人にとってみたら価値があるらしく、あっという間に拾われていくんだよ。廃棄物を減らす意味ではサステイナブルな文化」と話す。なるほど、そういった環境で育ったマリーンにとってみれば自然な流れだと感じるエピソードだった。
作る過程を見直し、新しい素材や技術の開発から行う「ステラ マッカートニー」とは異なるアプローチで、マリーンはできる範囲で彼女の考える“未来の服”の一つの形を示したことは間違いない。彼女自身も「ほかの人と同じことをするのではなく私は自分のやり方で提案したい」と話していたという。ぜひこうした考えを持ち続けて、新しいラグジュアリーの価値観を築き上げてもらいたい。