ビューティ

リュウジが語る「ヘアメイクアーティストの可能性」とは?

 「エレガンス(ELEGANCE)」「AQ MW」「アナスイ(ANNA SUI)」「コスメキッチン」など多数のコスメブランドの広告を手掛けるリュウジ(RYUJI)=ヘアメイクアーティスト。最近ではマッシュビューティーラボの新ブランド「トーン(TO/ONE)」のコンセプトの立案から、メイクアップ製品の開発やビジュアルディレクションまで手掛けたことでも話題となった。また広告やエディトリアルの仕事の一方で、アーティストとのコラボレーションや作品展の開催などにも積極的に取り組み、ヘアメイクアーティストの可能性を追求している彼に、仕事への思いとビジョンを聞いた。

WWD:広告ビジュアルの制作と(作品展などの)作品の制作、双方に力を入れているが、広告と作品で制作に臨むスタンスはどう違う?

リュウジ(RYUJI)ヘアメイクアーティスト(以下、リュウジ):スタンスの違いというよりも“出口”の違いだと思います。広告の“出口”は、作ったものが万人に理解してもらえること、美しいと思ってもらえること。それに対して作品は、万人に好かれなくても、「すごく好き」と言ってくれる人が何人かいてくれればいいんです。もっと言うと、「すごく嫌い」と言ってくれてもいい。自分もそうなのですが、「嫌い」と感じた作品ほど印象に残っていて、その後の作品作りに影響を与えたりするんです。クリエーターにとって一番悲しいことは、作品を見る人が何も感じてくれないことですから。でも広告には、「嫌い」と思わせる“出口”は用意されていません。どちらの仕事もヘアメイクアーティストとしての仕事の幅を広げてくれるので、バランスをとって取り組んでいくことが理想ですね。

WWD:作り方も違うのか?

リュウジ:広告は打ち合わせを重ねながら作りますが、作品作りにおいては「現場でのセッション」を大事にしています。私は海外での経験も長いのですが、海外の著名なフォトグラファーと仕事をするときなどは、事前打ち合わせの時間がとれず、現場で撮りながら試行錯誤していくという撮影がよくありました。そのような時こそ思いもよらぬ尖った作品が生まれたりしたんです。そうした経験を重ねるうちに、打ち合わせをするとリスクが減る反面、“収まってしまう”と感じるようになりました。そこから、現場でのライブ感や、現場で受けるインスピレーションを大事にした作品撮りを行うようになりました。

WWD:具体的には?

リュウジ:例えば2009年、写真家の渡邉肇さんから「いままでに見たことがない作品を撮ろう」という話があり、あえてほとんど打ち合わせをしないままで撮影に臨むことにしました。事前に決まっていたのはただ1つ、「ヘアメイクアーティストとフォトグラファーとのセッション」というコンセプトのみ。撮影当日は、まずナチュラルメイクのモデルのポートレートを撮影しながら素材のイメージをつかみ、そこからアイデアをひねっていき、渡邉さんは私がメイクしている光景を見てライティングを決めていきました。メイクを施し、撮って、確認してメイクを変えて、また撮って……という作業を繰り返して互いの感性をぶつけ合うことで、未知なる“化粧美”を追求しました。肌の上に“目”をペイントして撮影したり、アイシャドウのグリッター表現に徹底的にこだわって撮影したり、リップのグロス感を“昆虫”で表現したりするなど、これまでにないエッジィな手法が生まれましたね。そうして撮った作品を集めて、東京・南青山で「化粧写真」という写真展を開催したんです。

WWD:2011年の写真展「YORIWARA/夢の投影」も話題になったが、その内容とは?

リュウジ:フォトグラファーの笹口悦民さんとのセッションで、かなりインパクトのある写真展になったと思います。「YORIWARA(よりわら)」とは「憑依(ひょうい)する人」という意味で、事前に私自身が紙に描いた空想の絵を撮影し、それをモデルに投影してその上からメイクするという表現手法を取り入れました。事前に作ったものを使用して、撮り方などは現場で話し合いながら決めていくという“50%のセッション”で、“夢”の世界をビジュアル化することに挑戦しましたね。西麻布のバーを会場にしたのですが、レセプションパーティーには450人くらいが来てくれました。

WWD:次々と新しい表現方法を取り入れることが独自のスタイル?

リュウジ:そうですね。作品作りを通して、新たな“素材の可能性”に気付いたこともあります。「ジャポニスム」をテーマにファッションビューティフォトを撮ったとき、小道具として日本の伝統的な鶴の折り方で折った「クジャク鶴」を用いたんです。それがきっかけで紙に凝り始めて、紙でヘッドピースを作ったり、紙の展示会のインスタレーションを制作したりするようになりました。ヘアメイクアーティストの仕事とインスタレーションの制作は、イメージとしてあまり結びつかない人も多いかと思いますが、大きな違いはないんです。作ったものを写真や映像にして2Dで見せるか、そのまま3Dで見せるかの違い。ただヘアメイクアーティストの仕事は、2Dで見る機会が多いというだけですね。

WWD:日本と海外、両方で仕事をしているが、求められるものに違いはあるのか?

リュウジ:ありますね。ヘアメイクアーティストとして仕事をし始めた頃、日本のある雑誌社に作品を持って行ったとき、「もっとうちらしい作品はないの?」と言われました。ところが、海外に行って同じように作品を持ち込んだら、「もっと他の人がやらない強いスタイルがないとだめ」と逆のことを言われたんです。海外では「このアーティストにお願いしたらこんなことができる」とはっきりイメージできるような、強いスタイルが必要なんですね。当時と今とでは状況は違いますが、根底の考え方は変わっていないように思います。

WWD:海外で認められるようになったきっかけは?

リュウジ:フォトグラファーの宮原夢画さんと創った、たった1枚の作品です。モデルの顏のパーツをフルーツに見立てた「フルーツシリーズ」と呼んでいるシリーズの1枚なのですが、その作品がNYのある雑誌の編集者に気に入られ、ストーリーとして撮り下ろしたものが掲載されたんです。それが「ヴォーグ」などで世界的に活躍していたフォトグラファーのアルバート・ワトソン(Albert Watson)さんの目に留まり、ワトソンさんはその作品を手掛かりにNY中のエージェントに連絡をして私を探してくれたんです。そして「ヴォーグ スペイン」のファッションストーリーの撮影に参加させていただけることになり、10ページにわたって作品が掲載されることになったんです。その後は、それをきっかけにさまざまな仕事をもらえるようになりました。まさに「作品が人と人をつないでくれた」と思っています。

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