東京五輪が開かれる2020年に向けて都内各所で再開発が進んでいますが、ファッションビジネス業界的に最大の注目はやはり渋谷の再開発です。渋谷駅周辺で多数のビルの建設やリニューアルが進められており、街がどう変わるか楽しみにされている方も多いと思います。
渋谷といえば東急電鉄グループのお膝元。開発中やリニューアル中のビルも、その多くが東急電鉄、東急不動産、SHIBUYA109エンタテイメント(旧東急モールズデベロップメント)など、東急グループの企業が事業主体として進めているものです。再開発の目玉プロジェクトである渋谷駅真上のビル「渋谷スクランブルスクエア」には、東急グループだけでなく、JR東日本、東京地下鉄も参画しています。ビルを建てる、街を造るということは、これだけ多くのプレーヤーが入り乱れる大事業なのだということを改めて感じます。また、東急グループだけでなく、パルコ、三井不動産も現在渋谷で再開発を行っており、まさに三つ巴の様相です。
少し前のことになりますが、東急不動産が開いた、新「東急プラザ渋谷」の会見にお邪魔してきました。新東急プラザももちろん渋谷再開発の一環としてオープンするものです。“新”と付いているのは、かつて渋谷駅西口に面した同じ場所に、旧東急プラザがあったからです(15年3月閉館)。新東急プラザは、旧東急プラザの跡地に建てられるビルの一部として、19年秋にオープンします。会見では、新東急プラザのテナントリーシングのコンセプトが、「美」「健康」「食」「ライフプランのサポート」だと発表されました。
まずここに、「ファッション」という単語が入ってこないことに(「美」の中に含まれているのでしょうが)、ファッション業界を専門とする記者としては、業界の閉そくを感じるようでドキリとしました。残念ながら、それが今の時代のムードということなんでしょう。そして面白いのが、「ライフプランのサポート」というキーワードです。これは、資産運用のコンサルテーションや日々の暮らしを謳歌するための提案などを指すようでした。
資産運用などのサポートと聞いて気付いた方もいるかもしれませんが、新東急プラザは若者やOL世代ではなく、「成熟した大人」をターゲットにしています。近隣の渋谷ヒカリエのターゲットが30~40代だとすれば、新東急プラザは50代以上というイメージでしょうか。もっと上のリタイア世代といった方がいいかもしれません。日本が超高齢社会を迎える中で、当然といえば当然なターゲット設定といえます。
一方で、同じく東急グループのSHIBUYA109エンタテイメントの木村知郎・社長は、先日取材した際に「渋谷109は今後も変わらず10代~20代を狙っていく」と話していました。マルキューがカリスマ販売員ブームに沸いたのは、もう20年近く前の話。08年のファストファッション上陸以降、渋谷109は苦戦が続いていますが、若者の街としての渋谷を象徴する存在として、同社はマルキューの復活を目指しています。
さて、再開発の本丸、渋谷スクランブルスクエアはどうなるのかというと、19年度、27年度のオープン予定に向けて、まだ入居テナントの詳細は出ていません。ただ、「奇をてらわず、正攻法ど真ん中のリーシングを行っているらしい」といった噂が漏れ伝わってきます。駅直結の商業施設が強いことは、ルミネの快進撃を見れば明らか。集客が確実に見込める分、奇抜なアイデアに頼らず、ど真ん中のリーシングを行っているのだと推察されます。
そうした正攻法リーシングの真逆を行く、いや行かざるを得ないのが、渋谷パルコです。東急グループの駅前再開発を横目に見ながら、パルコも基幹の渋谷店のリニューアルを行っており、19年秋に再オープン予定です。ただし、パルコは駅から15分近く歩かなければたどり着けない立地。駅近という点では東急グループに絶対かなわないパルコが、いったいどんなミラクルなアイデアを出してくるのか。日本の若者カルチャーを作ってきたと自負するパルコだけに、ここが渋谷再開発の注目ポイントの1つになるはずだと期待しています。
東急、パルコときて、三つ巴の最後の1つ――――三井不動産は宮下公園の整備事業を進めています。19年度内にオープン予定とのことですが、今のところ入居テナント情報などは特に発表されていません。ただ、三井不動産は先日オープンした「東京ミッドタウン日比谷」で、クリエイティブ・ディレクターの南貴之さんを起用したヒビヤ セントラル マーケット(HIBIYA CENTRAL MARKET)という面白い売り場を作っています。理容室や本屋、飲食、セレクトショップなどが組み合わさった、雑多な感覚が楽しい売り場です。従来は、「売り上げが期待できるウィメンズファッションで、他施設にない新業態や大型店を出す」というのが新施設オープン時のテナントリーシングの定石でした。しかし、それとは全く異なる価値観をヒビヤ セントラル マーケットには感じました。銀座・有楽町地区は商業施設が過密で、従来の定石を実行しようにもバッティングで不可能だったとも推測できますが、そうだとしてもワクワクするものがあった。というわけで、三井不動産は渋谷にも面白いコンセプトを持ち込んでくれるかもしれません。
商業面のことばかり書いてきましたが、今回の再開発は、大型オフィスの供給という面でも大きな意味を持っています。渋谷に(というか都内に)大型オフィスが足りないという話はここ数年よく耳にします。都心に多数のエンジニアを集めるIT系企業が増えていることで、大型オフィスの供給が追い付いていないのだとか。実際、かつて渋谷ヒカリエのビルに入居していたLINEも、17年に新宿のニュウマンのビルに本社を移してしまいました。手狭になったために移転したのだと推察しますが、有力IT企業が渋谷を出ていってしまう事態に、東急グループはじくじたる思いを抱いていたことでしょう。
グーグルが、19年に六本木ヒルズから「渋谷ストリーム」(このビルも渋谷再開発の一部。事業主体は東急電鉄など)に本社を移転し、渋谷に凱旋するというニュースが昨秋報道されましたが、渋谷を商業の街としてだけでなく、IT&スタートアップの集積地としても日本一にするんだ!という東急グループの意気込みを感じます。いやはや、街造りって、本当にいろいろな面があって面白いですね。