ルーク・メイヤー(Luke Meier)が手掛けるメンズブランド「OAMC」が好調だ。2014-15年秋冬シーズンのブランド設立から徐々に販路を広め、立ち上げ8シーズンで世界130アカウントの卸先を有する。
昨今のメンズファッションは「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」と「シュプリーム(SUPREME)」のコラボレーションやデムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)率いる「バレンシアガ(BALENCIAGA)」のヒット、そしてキム・ジョーンズ(Kim Jones)の後任として「ルイ・ヴィトン」のメンズ・アーティスティック・ディレターを「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH)」のヴァージル・アブローが引き継ぐなど、ストリートとラグジュアリーの境界線がますますなくなっている。「OAMC」と歴史ある「ジル・サンダー(JIL SANDER)」を率いるメイヤーも、その流れを作った象徴的な1人といえるだろう。
メイヤーは「シュプリーム」のヘッド・デザイナーを経て「OAMC」を設立した。同ブランドでは上質な素材にこだわり、無駄を排したシンプルなデザインを軸にアートやカルチャーの要素を込める。他のストリートを背景に持つデザイナーとは一線を画すモノ作りを続けた結果、「ジル・サンダー」のクリエイティブ・ディレクターとして、妻のルーシー・メイヤー(Lucy Meier)とともに白羽の矢が立った。
桜の季節に合わせて来日したメイヤーに、成長を続ける「OAMC」の現在と未来の展望、「ジル・サンダー」での仕事について聞いた。メイヤーは、自身のブランドとメゾンの両方を手掛ける経験者として、旧知のヴァージル・アブローにエールを送る。
WWD:「OAMC」の2018-19年秋冬コレクションでは“遠征からわが家に帰還した際の安堵”をキーワードにしていたが、2ブランドを手掛ける自身の多忙な生活と関係している?
メイヤー:そうですね。クレイジーな現代において、久々にわが家に帰宅した際の安堵の気持ちと、時間の経過とともに以前感じていたことに疑問を抱く心情の変化も表現しています。テーマを象徴するのは、ドイツの芸術家ヨーゼフ・ボイス(Joseph Beuys)とアメリカの画家エルズワース・ケリー(Ellsworth Kelly)という2人のアーティストの戦争体験です。それぞれの全く異なる体験をコレクションに反映していくのは楽しい作業でした。
WWD:招待状やコレクションのアイテムなどに、フェルトが多数使用されていた。なぜフェルトをキーマテリアルに選んだ?
メイヤー:空軍に配属されたヨーゼフ・ボイスが、第2次世界大戦中にクリミア半島上空で撃墜されてけがを負った際に、フェルトにくるまれて看病されたという体験に由来しています。フェルトはストレッチが利き、カットしても縫う必要がありません。生地全体にスチームを当てて伸ばしながらシェイプを作り、ウェルディング技術を組み合わせて縫製なしで服作りに挑むなど、伝統と現代技術を組み合わせた「OAMC」ならではの製法でコレクションを作りました。
WWD:テーラリングが増えた印象だったが?
メイヤー:私にとってテーラリングは、デザインする上で一番楽しい部分です。細部にテクニックを使うことで見え方がガラリと変化するなど、テーラリングは本当に奥が深い。ランウエイに登場したジャケットのラペルやパンツの裾にはフェルトのパーツが付いており、その些細なディテールだけで遊び心が表現できます。今後はさらにテーラリングのアイテムが増えていくでしょう。
WWD:「OAMC」は立ち上げ以降、日本をはじめ世界中に販路を広げている。何がうまくいったのか?
メイヤー:「OAMC」はいきなり爆発的に売れるようなブランドではありません。すごく良いペースで成長を続けています。むやみにやたらと広告を打ってブランド名を拡散するのではなく、背景のあるモノ作りにこだわり、どのアイテムについて聞かれてもそれぞれのストーリーを語ることができます。ブランドを始めた頃はまだ何もわからない状態で、とにかくクオリティー優先で考えていました。しかし良い工場と出会って関係性を深めることができた今は、より深くクリエイションに集中できるようなりました。今後も長期間にわたって良いペースで成長ができると信じています。
WWD:ストリートファッションが全盛の今をどう見ている?
メイヤー:私自身はデザインをするうえで、ストリートやラグジュアリーなどのカテゴリーを意識していません。好きなモノをどうやって作るのかだけを考えています。その結果として、「OAMC」がラグジュアリーに見える人もいるかもしれません。そもそも、ストリートのカルチャーとファッションはずっと同じフィールドにありました。最近ハイブランドと組み合わせて“ハイストリート”といったジャンルも作られていますが、昔から同じようなスタイルは存在しています。それこそ世界の中でも、日本人の方々が得意だったスタイルですよね。
WWD:「ジル・サンダー」の仕事は自身のブランドに影響している?
メイヤー:今のところ大きな影響はありません。「OAMC」はもともとイタリア・ミラノで商品企画と生産を行っているので、「ジル・サンダー」のプロセスにもすぐ慣れました。私にとっては新しいブランドで、「ジル・サンダー」にとっては新しいクリエイティブ・ディレクターですが、結局は人と人で作り上げていく仕事。何も心配はありませんでした。素晴らしい歴史を築いていきたブランドと仕事ができるのは、お互いにとって本当に良いことだと実感しているところです。
WWD:交流があるというヴァージル・アブローに「ルイ・ヴィトン」での仕事についてアドバイスするとしたら?
メイヤー:彼の人柄がすごく好きなので、「ルイ・ヴィトン」のメンズ・アーティスティック・ディレクターに就任したのをうれしく思います。私から言えることがあるとすれば、他人の意見やブランドのイメージなどを気にしすぎず、これまで自分が信じてやってきたことを続けること。それと何より、自分が楽しむことが大切です。