2017年にセルジュ・ルフュー(Serge Ruffieux)をクリエイティブ・ディレクターに迎えた「カルヴェン(CARVEN)」は、18年春夏コレクションの売り上げが前年の約20%増と好調な滑り出しを見せている。マダム・カルヴェンの時代のDNAを重視しながらも、アップデートして新しいものを生み出すことを目指す新生「カルヴェン」について、ルフュー=クリエイティブ・ディレクターにはクリエイション面について、ソフィー・ドゥ・ルージュモン(Sophie de Rougemont)最高経営責任者(CEO)にはビジネス面について話を聞いた。
WWD:ドゥ・ルージュモンCEOは現職に就任して2年が経つが、この2年間で取り組んだことは?
ソフィー・ドゥ・ルージュモンCEO(以下、ドゥ・ルージュモン):「カルヴェン」は歴史あるブランドだが、私が現職に就任した2年前は、ブランドが進むべき道を見失っていた。私はブランドが誕生した1945年当時に備わっていた価値やDNA、つまり本来の「カルヴェン」が持つ強みである“フレッシュさ”や“フェミニンさ”を復活させたかった。幸運なことに、私は前職で「カルヴェン」のアジアにおけるPR業務に携わっていたから、ブランドのことはよく理解していた。だから就任当初から自分がやりたいことが明確だったの。具体的にはデザイナーの交代、メンズの休止とウィメンズラインへの注力に取り組んだ。新たなデザイナーを探している時にセルジュに出会い、会った瞬間に彼だ!と思った。
WWD:セルジュと出会ったきっかけは?
ドゥ・ルージュモン:とても不思議な縁だった。新しいデザイナーを探している時にとある業界の人に相談したら、まずその人からセルジュを提案されたの。その時は彼のことをよく知らなかったけど、彼の仕事について調べてみたらとてもいい仕事をする人だと思った。その後、長年付き合いのある医師に、デザイナーを探していることを話したら、数日後に電話をしてきて、「セルジュ・ルフューといういい人がいるよ」と言われたの。接点のない2人が同じ人を提案してきたということは、これは何かのサインだと思った。その数日後に医師がディナーをアレンジしてくれて、ついに対面することができた。会ったらすぐにピンと来たの。
WWD:とても縁を感じる出会いだ。「ブランドが進むべき道を見失っていた」とは?
ドゥ・ルージュモン:前任のデザイナー・デュオが若かったこともあって、彼らが描く「カルヴェン」の女性像の年齢が下がった。しかし、ターゲットとした年齢層にとって「カルヴェン」の価格帯は高価だったし、逆にこの価格帯としてはデザインが若すぎて、ブランドが本来持っていた良さが薄れてしまった。マダム・カルヴェンのディテールへのこだわりがブランドの特徴。彼女はよく「The devil is in the detail(悪魔は細部に宿る)」と言ったものよ。その点、セルジュはこの意味を真に理解して、実行する。私はこのエッセンスこそが「カルヴェン」に必要なものだと思っている。
WWD:確かに、ルフュー=クリエイティブ・ディレクターのデザインからはプロポーションバランス含め、ディテールへのこだわりを感じる。
セルジュ・ルフュー=クリエイティブ・ディレクター(以下、ルフュー):上下のバランスはもちろん重要視している点だ。また、トップスだけをとっても、背中を少し後ろに引いてボリュームを付ける一方で前の方は詰める、というバランスは、「カルヴェン」の新たな“コード”として継続していきたいスタイルだ。マダム・カルヴェンのDNAをただ継承するだけではなく、より強く“カルヴェン色”を出しながら、現代の人に合うように再解釈していく。
WWD:その他に継承したブランドのDNAは?
ルフュー:モチーフや素材をミックスするというテクニックは「カルヴェン」がこれまでやっていたもので、このテクニックを私が考えるレベルに引き上げることが自分の使命だと考えている。そして私の最大のミッションは、マダム・カルヴェンのライフスタイルそのものを洋服の中で再現するということ。彼女は初のコレクションをポルトガルやブラジルやエジプトなどで発表していたが、これは当時としてはとても斬新。そういったスピリットを私も受け継いでいるし、再現したい。
WWD:マダム・カルヴェンの時代に海外でコレクションを披露するという発想は本当に斬新だっただろう。
ルフュー:彼女は旅だけでなく、人生そのものを謳歌するというのが好きだった。彼女のファッションはけっしてエキセントリックなものではないが、彼女のDNAの中にそういった志があって、それがブランドのフレッシュさやエネルギッシュな部分につながっていたのではないかと思う。これはブランドにとって重要な要素だ。
WWD:どうやって彼女のライフスタイルを知った?
ルフュー:残念ながら本人に会ったことはないが、彼女を知る人や本を読んで彼女のライフスタイルを想像している。彼女はブルジョアの女性であるのと同時にフランス語で言う“Zesty(ジェスティ)”な人。酸っぱいけれど爽快で、フレッシュという意味だ。彼女のアーカイブから何かを作るのではなく、「彼女がこうであっただろう」という想像が服を作る上での着想源だ。