ファッション

「服を選ぶように花を組み合わせる」 アパレル出身のフローリストが描く“自分にしかできない花屋”

 渋谷区・富ヶ谷にあるワインバーの一角に、週末限定の小さな花屋「ホール(whole)」は店を構える。そこにはアパレル出身のフローリスト綱川禎子が選んだ、個性豊かな花が所狭しと並ぶ。6年間洋服の販売員として働いていた綱川が、「ホール」をオープンしたのがちょうど1年前。フローリストとしての経験は浅いながらも、販売員時代に培った綱川のセンスに信頼を寄せている人は多いだろう。以前はまったく花に興味がなかったという彼女が、フローリストとしてスタートを切るまでのきっかけや経緯、ファッション観などについて話を聞いた。

WWD:販売員時代のお仕事のことを教えてください。

綱川禎子(以下、綱川):ロンハーマン(RON HERMAN)で約6年間働いて、主に接客や店舗のディスプレイ(VMD)を担当していました。

WWD:アパレル販売員からフローリストに転職をした最初のきっかけは何ですか。

綱川:実は以前は花にまったく興味がなくって(笑)。ちょっと恥ずかしいんですけど、アパレル販売員時代に夫からお花をもらう機会が多くて、水を替えたりもらったものをドライフラワーにしたりするなかで、「お花っていいな」と思い始めたのが最初のきっかけですね。

WWD:ショップをオープンするまでの経緯は?

綱川:まずは「リトル ショップ オブ フラワーズ(THE LITTLE SHOP OF FLOWERS)」で1年間修業しました。もともとはすぐに店舗を持つことは考えていなくて、まずはオーダーのみからスタートしようと思っていました。でもたまたま運よく独立のタイミングで、いまのオーナーに「週末だけお店を使ったら?」と声を掛けてもらって、昨年の4月にショップをオープンすることになりました。

WWD:「リトル ショップ オブ フラワーズ」もアパレル出身の花屋ですが、綱川さんと近しい感覚を感じます。

綱川:お花を一から学ぶ上で同じアパレル出身ということもあり、私にとってぴったりの場所だったのかなと思います。洋服を選ぶこととお花を組み合わせる感覚はすごくよく似ていて、「リトル ショップ オブ フラワーズ」で修行をしている間にも感性が磨かれていたと思います。

WWD:お花好きから仕事にしようと覚悟したのはどのタイミングで?

綱川:最初は興味で始めちゃったので、本当にこれから仕事としてやっていけるのか自分を試したんです。1年経ったときには、悩まずフローリストとしての道を選ぶことができました。

朝2時半起きでもお花に出合える喜びがある

WWD:ショップ名の「ホール」の由来を教えてください。

綱川:“whole”には全体、すべてのという意味があって、花屋を取り囲むすべてのものを大切にしていきたいと思いがあってこのショップ名にしました。響きが良く、覚えてもらいやすそうなところも気に入っています。

WWD:ショップをオープンして1年経つと思いますが、反響はどうですか。

綱川:インスタや口コミの反響は大きいですね。ギフトで「ホール」のお花をもらった人が、今度は自分で買いに来てくれたり、オーダーをしてくれるというパターンも多いです。リピーターの人にとても助けられています。

WWD:お店をオープンしていない平日は、どんな働き方をしていますか。

綱川:オーダーが入ったドライフラワーや、アパレルショップなどから依頼された装花の制作をしています。仕入れから店頭作りまですべて1人でやっているので、平日は自宅で作業に没頭することが多いですね。

WWD:店頭でのお仕事と店外での仕事はどちらの方が多い?

綱川:今はオーダーがメーンになっています。基本的にオーダーに合わせて仕入れをしているので、土曜日の夕方から日曜日にかけては店頭のお花が少なくなってしまうときもあって、そういう場合は潔くお店を閉めてしまうときもありますね。去年の冬からオーダーとウエディング装花の依頼が増えて、毎週お店を開けれていないのが現状です。

WWD:「ホール」にはどんなお花を用意している?

綱川:毎週「これを買う!」っていうのは決めていなくて、市場に行ってから直感でいいなと思ったものを買い付けています。やわらかい雰囲気でナチュラルだけど、どこか個性があるようなお花を選んでいますね。

WWD:得意なお花のアレンジはありますか。

綱川:素材合わせと色合わせに特にこだわっていて。アイテムでいうとリースアレンジの注文が多く、得意だと感じています。

WWD:フローリストとして、何をしているときが1番楽しい?

綱川:毎週市場に行って「今週はどんなお花と出合えるのかな」と、ドキドキワクワクしているときが1番楽しい瞬間です。午前2時半起きでなので、本当に辛いんですけどね(笑)。その分新しいお花に出合えたときのうれしさはひとしおなんです。

WWD:インスピレーションはどうやって得ていますか。

綱川:とにかくジャンルを問わずいろんなものを見るようにしています。ファッションや音楽など好きなものはとことん追求するタイプなんですが、ときには苦手なことにも触れて感受性を高めています。最近だとキャンプにはまっていて。バタバタしている日常から離れて大自然のなかで過ごすと、気分をリセットできるんです。定期的に行けたらいいですね。

接客やVMDの経験を生かしたフローリスト

WWD:接客やVMDの経験が現職で生かされていると感じる部分は?

綱川:たくさんありますねぇ。VMDの経験は、お花の素材合わせや色合わせをするときに役立っていると思います。お客さんの雰囲気や服装からお花のイメージや好みを汲み取ったり、ニーズを引き出しやすいのも前職が生かされていると痛感していますね。

WWD:ロンハーマンでのポップアップストアや、「トムウッド(TOMWOOD)」とのコラボなどが印象的でしたが、他にもファッション分野とのお仕事はありましたか。

綱川:最近だと「ジェーン スミス(JANE SMITH)」や「フィガロジャポン(FIGARO.jp)」にも携わっています。自分が持っている世界観を生かせるお花のスタイリングのお仕事は、今の私にすごく合っていると思っています。今後はもっと挑戦していきたいです。

WWD:自身のファッションで気にかけていることは?

綱川:洋服は気分で選ぶことが多いんですけど、ボーダーやドットといった柄物は着なくなりましたね。お花を持って撮影したりもするので、お花が映えやすくなることを前提に洋服を考えるようになりました。でもたまに色物は着たくなるので、そういうときは無地の色物をチョイスしています。

WWD:好きなブランドはありますか。

綱川:これっていうのはないんですけど、昔から好きなのは「マリアム ナッシアー ザデー(MARYAM NASSIR ZADEH)」ですね。色使いがすごく素敵なので、お花の色合わせの部分でも参考にしています。

WWD:綱川さんにとってファッションとは。

綱川:私にとってファッションは感情を表すものではなくて、そのときの気分を表現する手段だと思っています。それはお花を選ぶことと一緒なのかもしれないですね。

WWD:最後に、これからの目標や夢を教えてください。

綱川:フローリストとしてスタートしたときから自分のお店を持つことが夢だったので、「ホール」としての実店舗を持ちたいですね。

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